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大地転生 ~とりあえず動けないんだが誰か助けてくれ~  作者: ジルコ
とりあえずアルラウネの里を目指す
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地より現れいでし者達

 ユーミルの樹海の奥地。うっそうと木が生い茂る中で、3つの四角い石が置かれた少し開けた場所があった。月明かりが煌々とその場所を照らす中、その1つの石近くの地面がもぞもぞと動き出す。

 しばらくしてその土から緑の蔦が芽を出し、それは瞬く間に近くにあった石を掴むと何かを引っ張り上げるようにピンと張った。そしてずりずりと人の形をした何かが地面から這い出して来る。

 地面から這い出したそれは、軽く上下左右へと首を振り、続いて激しく体を震わせた。体に張りついていた土が飛び月光が妖しくその姿を照らす。


「ぷはー。あーもう。こんなに深く埋めてなんて言ってないよ~。」


 地面から這い出したそのアルラウネの女はひとしきり愚痴をこぼすと自分の体に張り付いた土を落とし始める。


「あっ、そうだ。2人も起こさないとね~。」


 そして再び地面を掘り始めたことでその姿はまた土まみれになるのだった。





 数時間後、だんだんと闇が薄れていき、後1時間もすれば朝日が顔を出すだろう時間帯にそこにあった石に座る3人の人影があった。その恰好は土などで全体的に薄汚れており、だがその目は意志の力がこもったものだった。


「ローちゃん。イェン。そろそろ大丈夫かな~?」

「ああ、まあね。まだ少し頭が重い気がするが。」

「問題ないねぇ。むしろ生まれ変わった気分だねぇ。」

「それは一回死んでるから当然だね~。」

「笑いながらする話じゃないだろ、アホタレ。」


 のほほんと笑うフラウニの姿に頭に手を当て顔をしかめるローズエッタ。そんな二人のやり取りをイェンは薄く笑いながら見ていた。イェンの顔には今までのように狂気に満ちた様子はなく、何かが抜け落ちてしまったかのように落ち着いていた。


「いやー、イェンにお願いされて作った仮死毒がこんなところで役に立つとは思わなかったよ~。」

「あんたが作らせたのかい!」

「ああ、そうだねぇ。こうするためにねぇ。」


 驚きの表情で自分を見るローズエッタに見せつけるようにイェンは自身の手首にはめられていた銀色の腕輪を取り外す。そしてそれを適当に放り捨てると、その幾何学模様の細工が描かれた腕輪は地面を転がり森の中へと消えていった。


「あっ、じゃあ私も~。えいっ!」


 同じく蔦の腕にはまっていた腕輪を外し放り投げるフラウニをローズエッタは信じられないものを見たような表情で見つめ、そして自身の腕にはまった銀の腕輪を見る。そしてもう片方の手でその腕輪の留め金を触る。手が震え、カチャカチャとなっていた腕輪だったが、カチャンという音とともにあっけなく外れ、そして地面へと落ちていった。


「外れ・・た。なんで?」

「えー、だって死んだら機能が停止するんでしょ。当たり前だよね~。」

「くっくっく。まさかこんな方法で隷属の腕輪が外そうとするとは思ってもみないだろうねぇ。」


 2人の声がローズエッタの耳を通り抜けていくが当人は理解が出来ていないでいた。記憶のある限りずっとそこにあった感触がないことがなぜか不安で、ローズエッタは落ちた腕輪を見つめながらしきりに腕をさすっていた。


「帰らないと。」

「どこに~?」

「何を言ってるんだい。もちろん・・・」

「組織は失敗者を許さないよぉ。帰っても殺されるだけだろうねぇ。」

「ぐっ。」


 2人の言葉にローズエッタが詰まる。組織は失敗者には容赦しない。もともと失敗した時というのは死んでいることを意味することが多いのだが、そうでない場合は見せしめに処刑されるのだ。失敗者が欠けたとしても変わりなどいくらでもいる。それを十分すぎるほど理解していた。

 考え込みどうしようもなくなっているローズエッタの肩をイェンが叩く。


「わざわざ命を捨てる必要もないよぉ。不老不死に取りつかれた老人の妄執に付き合う必要なんてないんだからねぇ。」

「ならどうしろってんだい?あたいはあんたらとは違ってずっとここで生きてきたんだよ。他の生き方なんて・・・」

「じゃあローちゃんがよく見る夢の場所を探してみようよ~。」


 その言葉に下を向いていたローズエッタがハッとした顔でフラウニの方を向く。


「夢ってなんのことだぁい?」

「うん。前に一度話してくれたんだ。木も何もない見渡す限りの草原に大きな赤い池があってそこに一人で立っている夢を見るって。その夢を見るとローちゃん泣いちゃうんだよね~。」

「バカ、何言ってんだい!」

「え~、だって前・・もごもご。」

「あんたはちょっと黙ってな。」


 言葉を続けようとしたフラウニの口をローズエッタが慌ててふさぐ。フラウニが非難の目で見るがその力が弱まることはなかった。しばらくもがいていたフラウニだったが次第にその動きがゆっくりになる。


「ローズエッタ殿。鼻までふさいでは死んでしまうよぉ。」

「えっ!?悪い、フラウニ。ついいつもの癖で。」

「ぷはぁ、ひどいよ~。1日で2回死ぬところだったよ。」


 荒い息を吐くフラウニの背中をローズエッタがさする。その様子をイェンは小さく笑いながら見ていた。フラウニの息が落ち着いたころを見計らいイェンが話を切り出す。


「それじゃあその夢の景色を探しに行こうかねぇ。」

「だからあれは夢だって・・・」

「その夢が昔の記憶という可能性もあるしねぇ。それに1回死んだ身だしねぇ。夢の景色を探すというのも面白いと思うけどねぇ。」

「さんせーい。あっ、ついでに珍しい素材の情報があったら集めてね~。」


 あっさりと夢の景色を探すなんて言う頭がおかしいとしか言えないことを目的とするといった2人にローズエッタは言葉もなかった。ただ組織を抜け自由にしていいという状況下で自分自身何をして良いのかもわからなかったローズエッタはしばらく考え続け、そして大きなため息を吐いた。その顔にはうっすらと笑みが浮かんでいた。


「はぁ、イェンはもっと現実主義者かと思っていたんだけどねえ。フラウニのアホさがうつったのかい?」

「くっくっく。そうかもしれないねえ。」

「アホじゃないよ~。そんなことを言う2人にはこれあげないよ~。」


 フラウニが土から掘り起こしたバッグに入っていた小瓶を3つ取り出す。その中には薄紫の液体が入っておりフラウニに揺らされてちゃぷちゃぷと音を立てていた。


「何だいそれは?」

「えっとねー、なんと若返り薬~。」

「「はっ?」」


 得意げに答えたフラウニの言葉に2人が言葉を失う。それも当たり前で組織が求めていた不老長寿に手が届く薬だったからだ。そんな貴重な薬が目の前で乱雑に扱われていることが信じられなかったのだ。


「あんた、そんな報告しなかったじゃないか。」

「えー、だって私が作るように言われたのは不老薬だし。これはその実験過程で偶然出来ちゃっただけだからいらないよね~。」


 あっけらかんと言い放ったフラウニの言にローズエッタは開いた口が塞がらない。


「くっくっく。確かに必要ないねぇ。なにせ不老薬が欲しいのだからねぇ。」

「本当にあんたは・・・まあいいよ。どちらにせよ変装はしないといけないと思っていたしね。ありがたく使わせてもらうよ。」

「どうぞ~、お肌の曲がり角のローちゃんにちょうどいいでしょ~。」

「うるさい、はっ倒すよ!!」


 文句を言いながらもしっかりと薬を受け取ったローズエッタに続いて、イェンも笑いながらそれを受け取る。そして3人はふたを開け、ほぼ同時にその薄紫の液体を飲み干し、そして同時に気を失ったのだった。





 朝日が木の葉の隙間から降り注ぐ早朝、イーリスの樹海の奥地から3人の男女が外へと向かって歩いている。10代前半の少し眠たそうな目をしたアルラウネの少女と、10代中ごろの赤髪に緑の鱗の獣人族の少女、そして20代半ばごろの少しやつれてはいるが整った顔立ちをした男だ。


「何考えてんだいこのアホタレ。気を失うなんて聞いてないよ。」

「おっかしいな~。グレーラットではうまくいったのに。」

「くっくっく。魔物に襲われなくて良かったねぇ。」


 3人の着ている服や防具は土にまみれて薄汚れており、少女たちのそれは明らかにサイズが合わないものを無理やり縛って着ているような状態だった。しかしその足取りは年齢に見合わないほど熟練したものでありちぐはぐな印象を与えていた。


「ゲギャア!」

「雑魚が。うるさいんだよ!」


 襲い掛かってきたホブゴブリンを獣人の少女が鞭で打ちすえ、ひるんだ隙に男が頸動脈を切り裂き始末していく。アルラウネの少女は鮮やかなその手際を見終わると、やって来た森の奥の方へと視線を向けた。


「彼は大丈夫かな~?ねえ、ローちゃん。」


 少し心配そうにするアルラウネの少女に目もくれず、男が警戒する中、獣人の少女はナイフをホブゴブリンに突き立てて魔石を採取していた。


「知るか。どっちにしろあいつは長くないんだ。確かあんたが薬で何とかもたせていたんだろ?」

「うん、お得意様だったからね~。」

「くっくっく。あちらに精霊の注目が向かってくれればいいですねぇ。」

「確かにね。あいつらとは2度とやりあいたくないね。よし、行くよ。」


 獣人の少女の合図で3人は再び外へ向かって歩き出す。3人が森の奥を振り返ることは二度となかった。

遂に組織の最終目標である不老不死への一手となる若返り薬の開発に成功したフラウニ。しかしそんな夢のような薬に副作用が無いわけもなく知らずに飲んだ黒幕は絶望に苛まれることになるのだった。


次回:全毛根死滅


お楽しみに。

あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。

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海の日記念の新作です。次のリンクから読もうのページに行くことが出来ます。

「退職記念のメガヨットは異世界の海を今日もたゆたう」
https://ncode.syosetu.com/n4258ew/

少しでも気になった方は読んでみてください。主人公が真面目です。

おまけの短編投稿しました。

「僕の母さんは地面なんだけど誰も信じてくれない」
https://ncode.syosetu.com/n9793ey/

気が向いたら見てみてください。嘘次回作がリクエストにより実現した作品です。
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