とりあえず変身する
「なっ!」
カコウの顔が驚愕に染まっていく。いいぜ、その顔が見たかった。
俺の周囲を埋め尽くす土が俺のイメージの通り変形していく。棒サイちゃんずに任せた部分が躍動を開始する。最後の仕上げに翼を生やしてやれば完成だ。
「どうしましょう、リク先生と棒サイちゃんずがドラゴンになっちゃいましたよ!」
「なんてことしてんのよ、あいつは!」
カヤノとミーゼが心配そうに俺を見つめ、ニーアにいたっては目を見開いたまま固まっている。いいリアクションだ。そんなリアクションをされたならもっと見せつけてやりたくなるじゃねえか。
俺は今、体長10メートルを超える三つ首のドラゴンに変身している。ちなみに棒サイちゃんずがそれぞれの首を担当し、俺が胴体を動かしているわけだ。俺が背中から生えている翼をバッと広げればそれに反応して3つの頭が威嚇するようにその咢を開いて鋭い牙を見せつける。練習の成果が出たな。タイミングはばっちりだ。
俺たちのあまりの迫力に誰かから小さな悲鳴が上がる。
「ドラゴンに変身だと?高位の存在へと姿を変えるなど我々とて危険なのだぞ。もしや、取り込まれたか?正気を取り戻せ!」
「ええっ。リク先生、取り込まれちゃったんですか!?」
「こんなことで飲み込まれるんじゃないわよ、この馬鹿!」
「戻ってきて、リク。一緒にいてくれるっていったよね。」
うん、カコウが焦った表情をしながらよくわからんことを言ったせいでカヤノたちが大変な感じになってる。やべえ、すごく気まずい。カヤノとニーアなんて泣きそうになってんじゃねえか。これ俺は悪くねえのにぜってえ後で怒られるやつだよな。エルノに怒られるならちょっとそれもいいかもと思っちまう自分がいるのも確かだが、さすがにこれはまずい気がする。なんかないか?この状況を笑い飛ばせるような気の利いたものは・・・
「が、がおー。」
「「「「「・・・」」」」」
沈黙が辺りを支配する。やっちまった。先ほどまでの俺を心配する空気が一変し、呆れるような目で見つめられている。
「リク先生、後でちょっとお話ししましょうね。」
「いや待て、カヤノ。俺は悪くないはずだぞ。お前たちを誤解させるようなことを言ったのはカコウだ。」
「またもや我に責任をなすりつけるか!?その腐った性根叩き直してくれる。」
「なすりつけるんじゃなくて事実だろうが!お前こそ頭を地面に突っ込んで冷やしやがれ!」
剣を抜いて向かってくるカコウを棒サイちゃんずが操る3つ首が迎え撃つ。
「ちぃ、硬い!」
おお、なんということでしょう。ドラゴンの3つ首が普通にカコウの振るった剣を弾きやがった。斬られたら再生すればいいやと思っていたのだが思わぬ誤算だ。よし、これなら勝てるぞ。行くんだ、棒サイちゃんず、がんばれ棒サイちゃんず。
基本この戦いに俺は参加できねえからな。出来るとしたら体当たりとか翼や尻尾による攻撃なんだがどうしても大振りになっちまうからカコウには当たると思えねえ。だから俺にできるのは棒サイちゃんずが戦いやすいようにずりずりと動いてやることだけだ。
カコウの剣を1つの首が弾き、残りの2つが微妙に時間差をつけながら攻撃を加えていく。棒サイちゃんずならではの絶妙なコンビネーションなのだが、カコウもさるもので数に勝る攻撃の数々を余裕をもってさばいている。くそっ、こいつ無駄にスペックが高えな。
「おらおらおらおら。どうした、全く効いてねえぞ。」
「くっ。」
何というか気分は悪役だ。というかはた目から見たら勇者がドラゴンに挑んでいるようにも見えなくないよな。だってあいつ金ぴかに光ってやがるし。さしずめ俺は邪竜ってところか?
カコウの顔が悔し気に歪み、そして大きく後ろへと飛び距離が離れた。
「いいだろう、久しぶりに本気を見せてやろう。」
そういったカコウの剣が輝きを増し、刃渡りが一気に2倍くらいまで伸びる。真剣な表情から感じ取れる感情は、悪・即・斬。って・・・
「おいおいおい、殺すつもりだろ!!」
「大丈夫だ。精霊なら核を壊されなければ死なん。いくぞ!!」
「馬鹿、熱くなりすぎんじゃねえよ!!」
カコウは止まらない。剣を上段に構えながら弾丸のような勢いでこちらへと飛ぶように近づいてきている。あっ、これは聞く気は全くねえわ。
確かに精霊なら核さえ攻撃されなければ復活可能だからって普通ここまでするか?まぁあいつは精霊だから基準がちょっと普通の人間とは違うのかもしれんが。って普通の精霊ならだよな。ということは妖精の棒サイちゃんずはあの攻撃くらったらちょっとまずい可能性もあるんじゃ?
「くらえ、光断!!」
「うおぉぉぉ!!」
そのままカコウの斬撃を今まで通り受け止めようとしていた棒サイちゃんずを守るように体を半回転させ背中を見せる。全く無防備になるわけだが四の五の言ってられねえからな。まあ俺自身が一時的に消えちまうかもしれんがそれもまた良し。どちらにせよ少しの休憩は必要だからな。
うん?いつまでたっても攻撃された感じがしねえんだが。なんか大層な名前を叫んでいたしカコウの必殺技っぽいから俺だけじゃなくて地面まで切断されるとかそういった感じになるかと思ってたんだが。
視界を移動して後ろを見てみるとカコウが俺の背中に剣を切りつけた姿勢のまま驚きの表情をして固まっていた。その剣の下を見れば傷1つついていない。
「なぁんだ。こけおどしの技かよ。はぁー、マジで殺されるかと思ったぜ。演技派だな、お前。」
「・・・違う。」
「はぁ?」
「光断は我の奥の手の1つだ。本気で殺すつもりで放ったのになぜ斬れん?」
本気で殺すつもりってマジかよ。それ思っていても言っちゃあいけないやつじゃねえのか?唖然としたまま自らの手を見ているカコウの肩にエルノの手が置かれる。振り返ったカコウが見るのは満面の笑みを浮かべ、しかし妙な迫力を伴ったエルノの姿だった。
「カコウ様、何をしてらっしゃるのですか?」
「いや、その、な。・・・そう、精霊同士の戯れと言ったと・・・」
「本気で殺すつもりとおっしゃいましたよね?」
「いや、それは言葉のあやと言うか・・・」
「座ってください。少しお話があります。」
「はい。」
カコウが地面に正座してこんこんとエルノに説教されてやがる。ははっ、いい気味だ。冗談を本気にするなんてなんて奴だ。いいぞ、もっと説教してくれ。あっ、あとついでに俺を踏みながら説教してみませんか?
そんなことを想像していた俺だったが、いきなり棒サイちゃんずがドラゴンから抜けだし溶けるようにして地面へと消えていった。んっ、どうしたんだ?
「リク先生。」
聞きなれた声のはずなのに、そのあまりの冷たさにそちらを向いてはダメだと本能で悟る。しかしそんな俺の気持ちなど通じるはずがない。
「リク先生、ちょっとお話ししましょうか。」
しぶしぶ見たカヤノの顔は、カコウに説教をかましているエルノにそっくりだった。うん、やっぱり親子だな。そんなカヤノの背後には明らかに怒っているミーゼと、少し困った顔をしているニーアがいる。俺、詰んだんじゃね?
っていうか棒サイちゃんず、逃げやがったな!!
俺の言い訳がこんな状態の3人に通じるわけもなく、アルラウネの女性に説教される光の精霊と、3人の子供に説教されるドラゴンと言う今後見ることが無いであろう光景が展開されるのだった。
自分を想う3人の涙によって意識を取り戻したリク。しかし依然として体は言うことを利かず破壊の限りを尽くしていく。逃げ惑う人々を見たリクは最後の決断をする。
次回:俺ごと封印しろ!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。
 




