とりあえずカコウの事情を聞く
よし、とりあえず何もなかった。マンイーターの花の色つやがさらに毒々しいものになったような気もするが多分気のせいだ。そうに違いない。
「そういえば預けたハイエルフたちはどうだ?」
「えっ、あんたこの状況を無視するの。」
「馬鹿野郎。突っ込んだところでろくな結果になるはずがねえものに自ら突っ込むなよ。」
「うーん、まだまだ動けなさそうですね。一応水は飲ませて治癒魔法を定期的にかけていますからしばらくすれば回復すると思います。」
「えっ、当人も無視するの!?」
ミーゼが突っ込む中、ハイエルフたちの容態を確認する。体調が良ければアルラウネの里へ行くときに一緒に行こうかと思っていたがさすがに無理か。フラウニは確か3日は動けないと言っていたからまだ1日以上は無理だろうし、たとえ動けるようになっても衰弱しているだろうからさすがに無理か。案内してくれたハイエルフたちは戦力としては十分だったし、里での騒動にもかかわっていないから回復していればと思ったんだけどな。
となると動かせるのは最大で俺、カヤノ、ミーゼ、ニーア、棒サイちゃんず3人、カコウ、エルノの計9人か。俺とカコウがいれば大概のことは何とかなると思うが、とりあえずは偵察からか。どうにも占拠されているようだったからあんまりのんびりもしていられねえんだよな。
「アルラウネの里をどうにかするにしてもとりあえず偵察からだな。」
「うむ、頼むぞ。」
「いや、頼むぞってお前も行くんだよ。自分の子孫なんだから率先して働けよ。」
完全に俺に任せる気満々のカコウの言葉に思わず突っ込む。しかしその後俺が期待していたような「なぜ我が行かねばならん。」とか「ふっ、冗談だ。そんなこともわからんのか、貴様は。」といったような反応はなく、悔し気に拳を握りこみうつむいているだけだった。
そんなカコウの肩をそっとエルノが抱く。慈しむようなまなざしをカコウへと向け、そしてすっとこちらを見た。
「カコウ様はここから出ることが出来ないのです。」
「はっ?何でだ?」
「それは・・・」
「よい、ここから先は我が話そう。」
エルノの言葉を遮り、カコウが顔をあげる。その表情は、悔しさ、怒り、悲しみ、様々な感情がごちゃ混ぜになったような何とも言えない表情をしていた。カコウは一拍、間を置きそして話し始めた。
「我はここから出ることは出来ん。ここは地下だから我の力の源である光は届かぬし、なによりこの空間は精霊の力を弾く仕掛けがしてあるようで出ることはおろか傷つけることさえ難しい。」
「なんでそんなことに・・・」
「ふっ、騙されたのだよ、風の精霊にな。数百年は前だろうか、我は子孫であるアルラウネたちと暮らしていた。そこに風の精霊がやってきてな、この穴にアルラウネの子供が落ちたと言われたのだ。慌てて助けに来てみれば確かに幼子が泣いておってな。宥めすかして話を聞いてみれば風の精霊にさらわれたというではないか。懲らしめに外へ出ようとしたのだが結界のせいで出られず、挙句の果てに我の核までここに放り込まれてしまったのだ。それ以来ずっとここにいるのだよ。情けないことにな。」
自嘲するように笑うカコウの肩に乗せられたエルノの蔦の手にきゅっと力が入る。それに気づいたカコウが少し表情を和らげ、そしてその蔦の手の上に自身の手を置いた。
「アルラウネの人たちは助けようとしなかったの?」
「したさ。我も何か方法はないか考えつく限り試した。だが無理だったのだ。仕方なくここで過ごすことに決め、アルラウネの集落から巫女として共に過ごすものがやってくるようになった。違和感を感じるようになったのはしばらくしてからだな。巫女の我に対する態度がよそよそしくなったのだ。そうだな、まるで腫れ物にでも触るような感じになったのだ。」
「どうして?」
「風の精霊のせいだ!!奴は我を害すだけでなく我の子孫にまで手をかけおったのだ!!」
怒りを露わにしたカコウの言葉と態度に質問したカヤノがびくりと体を震わす。そのことにすぐに気づいたカコウは怒りを納め、カヤノに頭を下げて謝る。
「ここからは私が話しますね。アルラウネの里ではカコウ様、光の精霊様は信仰の対象ではあるのですが荒ぶる精霊と言われていました。だから巫女を遣わしてその怒りを鎮めるのだと。私自身、ここに来るまではそれを信じていましたし、里の他のものもそう信じています。カコウ様と実際に会い、そのお心に触れてすぐに間違いだと気づきましたけどね。」
「なんでそんなことに?」
「カコウ様の話と里の口伝の違いを考えると風の精霊が少しずつそういう話にしていったのではないかと考えているわ。実際里には風の精霊がたびたび姿を現していたから。」
「我と過ごしていたアルラウネもいなくなり、その孫の世代になってしまえば我のことをよく知る者などほぼいなくなってしまうしな。実際に見たことのない我の言葉と、たびたび訪れる風の精霊の言葉。奴の言葉を信じてしまったとしても責められまい。その変化にもっと前に気づけていれば手の打ちようもあったのだがな。」
どんよりとした空気が漂う。
本当にろくなことしねえな、風の精霊は。カコウを閉じ込めるわ、さらに孤立させるわ、いたずらという範囲をはるかに超えちまってるだろ。何がしたいんだろうな?
ってちょっと待て。精霊が出られない空間ってことは・・・
「おいっ、ってことは俺も出られねえんじゃねえか!?」
前回は仮の体で核はカヤノのところにあったからそのまま核へと戻ることが出来たが、今回は核を持っているカヤノもこの穴へと入ってしまっている。つまり俺もカコウと同じ状況になっちまったってことだ。
「そうだ。」
「いや、そうだって冷静に言ってんじゃねえよ!教えろよ、そういう重要なことは前回来た時に言っておけよ!」
「言っただろうが。」
「いつだ?聞いた覚えがねえぞ。」
「言ったぞ。お前が消える直前に伝えただろう。カヤノを連れてくるときは核は外へ置いて来いと。」
「言ったか・・・?」
前回のことを思い出してみる。カヤノの名前を出した途端、カコウとエルノに詰め寄られて頭をさっくりと刺された辺りまでは鮮明に覚えている。その後、文句を言いつつカヤノを連れてくると言ってああ、そういえば何か言ってたような気がするな。聞き取れなかったが。
「頭ぶっすり刺されて消える直前に言われても聞き取れる訳ねえだろうが。どうすんだよ!」
「知るか。我はちゃんと忠告した。聞き取れなかったのは貴様の責任だ。それに我は剣を寸止めしたぞ。」
「あーあ、そういうこと言うんだな。エルノさーん、この男こんなことになったのはエルノさんのせいだと言ってますよ。」
「ばっ馬鹿者!我はそんなことは一言も言っておらんわ!」
「いや、だってお前の責任じゃねえとしたら、俺を揺さぶったエルノさんのせいってことだろ。」
「違うぞ、違うからなエルノ。そもそもあの程度でふらつく貴様が悪いのだろうが。この軟弱物が!よく回る口を叩き切ってやろうか。」
カコウが自身の光る剣を抜く。おぉし、そっちがその気なら受けて立つぜ。
「ふんっ、前回の俺と一緒だと思ったら後悔するぜ。」
「弱い奴ほどよく吠えるのだ。ごたくはいいからさっさとかかってこい。」
剣を地面に突き立て俺を挑発するその姿は自信が漲っており威風堂々としていた。確かにカコウは実力も高そうだし普通に戦えば勝敗は五分五分か俺が少し不利になるだろう。それをカコウ自身もわかっているからあんなに余裕があるのだ。だがその余裕が命取りだぜ。
「来い、棒サイちゃんず!秘密特訓の成果今こそ見せる時だ!!」
俺の呼びかけに応え、棒サイちやんずが俺の両肩、そして頭へと乗り戦隊ヒーローのようなポーズを決める。そんな俺たちをカコウがただ見ていた。ふふん、その余裕がいつまで続くかな。
「変・身!」
「俺のターン。ドロー。よしっ、いけるぞ。土の精霊と棒サイちゃんず3体を生贄としてこいつを特殊召喚だ!」残り少ないライフポイントの中、それは起死回生の一手となるのか!?
次回:カウンター罠発動!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




