とりあえず母子が再会する
何故か前話の後書きが消えていましたので書き直しました。著作権違反でしょうか?
「貴様は何度言ったらわかるのだ。頭に土しか詰まってないのではないか?」
「うるせえ、今回は俺のせいじゃねえだろ。」
「だが貴様の連れなのだろう。」
「ぐっ!!」
カコウの言っていることが正論すぎて反論できねえ。事前にこうなることが予想出来ていたのにそれを止められなかったわけだからな。
「反論できまい。」
「っち。悪かったよ。だとしてもお前も毎回俺の頭をかち割るんじゃねえよ!」
「減るものでもあるまいに。」
「減るんだよ。俺の心の安寧とかそういう大事なもんが。」
「ふっ、くだらんな。」
人の頭をぶった切っておいて挙句の果てにくだらないだぞ。さすがに温厚で通った俺も怒らざるを得ないな。しかし反論してやろうとしたところでカヤノから声がかかった。
「あの、お話し申すみませんが、大丈夫なんですか?」
「何がだ?」
「いや、あんた剣刺さったまんまじゃない。なにのんきに話してるのよ。」
「いや、別に刺さっても痛くも痒くもねえし。見た目がグロいぐらいか?」
「さすが精霊だね。」
「ちょっとニーア。今度あなたの精霊観について話し合いましょう。早期の修正が必要な気がするわ。」
まあ剣が顔に刺さったまま話しているのはショッキングな光景であることは確かなのでカコウと無言で視線を交わし剣を納めてもらう。それと同時に俺も顔の斬られた部分を即座に元通りに戻した。よし、これで問題なしだな。
「あらっ、お肉が来たようですね。」
「おい、せめて人が来たと言え。」
開口一番とんでもないことを言いながらエルノが現れる。こいつが話に聞くカヤノの母親なのか?ちょっと心配になってきたぞ。
そんな俺の心配をよそに、俺じゃなくて俺の持っているハイオークからエルノの視線が外れ一点を凝視して固まった。その視線の先にいるのはもちろんカヤノだ。エルノに見つめられたカヤノはもじもじと恥ずかしそうにしている。そして少しの間、下を向き目をつぶると顔を上げしっかりとエルノの方を向いた。
「ただいま、お母さん。」
「っつ!!」
言葉は無かった。エルノが風のような速さでカヤノへと飛びつきそして力いっぱい抱きしめる。カヤノの目からもエルノの目からも涙が流れ、顔はぐしゃぐしゃだ。
「おかえり・・カヤノ。ごめんね・・、迎えに行けなくてごめんね。ごめんなさい。」
「お母さん・・・お母さん。」
カヤノの手がエルノをぎゅっと抱きしめ返す。
「大好き、大好きよ。カヤノ。」
「僕もお母さんが大好きだよ。」
久しぶりの親子の再開を俺たちは温かく見守り続けるのだった。
「カヤノの母親のエルノと申します。このたびはカヤノを連れてきていただき本当にありがとうございました。」
カヤノと手をつないだままエルノが俺たちに頭を下げる。その目は赤くてちょっとはれているが顔はとても幸せそうだった。カヤノも少し恥ずかしそうにしながらも喜んでいる。
「えっとこちらが僕の先生のリク先生で、友達のミーゼさんとニーアさんです。」
「まぁ、カヤノに友達が。お庭に生えていたスミレの花を友達と言っていたカヤノに人の友達が・・・うぅ。」
「ちょっ、お母さん。そういうのは言わなくていいから!」
ナチュラルに過去を暴露されたカヤノがぽかぽかとエルノを叩いている。叩かれながらもエルノは嬉しそうだ。この光景を見ているとカヤノを連れてきて良かったなと思うな。
まあほのぼの親子で和むのは良いんだが・・・
「おい、なんでお前は俺の後ろに隠れてるんだよ。」
「いや、隠れてなどおらぬわ。貴様の気のせいであろう。」
「ほぅ、そうか。」
すすっと横へと動くと、俺の後ろにいたカコウが俺の動きに合わせて移動する。
「いや、隠れてんだろ。」
「ふんっ、思い込みもここまでくると哀れだな。」
ほぅ、そういうことを言いますか。ならこっちにもやりようがあるんだぞ。
右に動くと見せかけて左に行ったりとフェイントをかけていくが、やはりカコウの実力は高いようでなかなか引っかからない。まあ別にいいんだけどな。
「ほいっと。」
「なっ!!」
地面に潜り姿を消す。俺の姿がいきなり消えたので身を隠すところが無くなってカコウがおろおろしている様子を下から眺める。なにしてやがんだ、本当に。
「あっ、カコウ様。どこに行っていらしたのですか?」
「うむ、いや、なんだ。よそ者が入ってこないかちょっと警戒にな。」
「それはお疲れ様です。私が巫女をしている光の精霊のカコウ様です。あなたのお父さんですよ。」
「えっと、カヤノと言い・・・えっ?」
「んっ?」
いや、ちょっと待て。今とんでもなく聞き逃せないことをサラッと言われた気がするんだが俺の聞き間違いか?
「えっとお父さん?」
「はい、お父さんですよ。」
「・・・」
カヤノもこの状況に思考が追いついていないようで小首をかしげたままエルノに聞いている。そんなカヤノをカコウがじっと険しい表情で見つめていた。ミーゼやニーアも驚きで固まっているし、俺も・・・あっ、しまった。地面に同化したまんまだったわ。とりあえず人型に戻るか。同化したまんまだと話せねえし。
「カコウ様、カヤノが会いに来てくれたのです。何か言うことがあるのではないですか?」
「いや、その、な・・・」
「カコウ様・・・」
「うむ、お前の父親の光の精霊のカコウだ。覚えてはおらんかもしれんがな。」
エルノのプレッシャーに負けたのか、カコウがおっかなびっくりカヤノに自己紹介をする。いや、自分の息子にする挨拶としてはどうなのかと思うような内容ではあるんだが、カヤノからは父親の話なんて全く聞いたことが無いから記憶には無さそうだし、ある意味初対面ともいえるのか?いうなれば赤ん坊のころに蒸発した父親と再会しましたみたいな感じなのか。なんか例えは悪いが何となく気まずいってことはわかるな。
「お父さん・・ですか。ごめんなさい。覚えていないんです。」
「そう・・・か。いや、仕方がないのだ。お前と別れたのはお前が生まれて半年もしない頃であったからな。」
そういって強がりつつもカコウの表情にはさみしさが垣間見えていた。しんみりとした空気が辺りを包む。その原因の1つであるカヤノはどうにか話をしようとしているが、うまく言葉が浮かばないようで口をパクパクさせるだけだった。
パンッ。
そんな空気を破るように柏手の音が響いた。
「ご飯にしましょう。せっかくお肉も来ましたし。」
「そうだな。ここに来るまでの食事は悲惨だったし俺も手伝うぞ。」
エルノの言葉をきっかけに止まっていた時間が動き出す。カヤノとカコウの空気は少し硬いままだが一緒の食事を取れば親密度は深まるはずだ。まぁ、少なくとも今よりはましになるだろ。
エルノに先導されて案内された住居は数本の木が融合するようにして作られたドーム型の空間で扉なんかはつけられていないので外から中が丸見えだった。大きさとしては3人が暮らすのが限界くらいの広さだな。今は俺をアルラウネの里へと案内してくれたハイエルフ2人が寝ている。
家の外には簡素な石造りのかまどがあるんだが長年使っているためか少々ボロいし使いにくそうだ。早速調理しようとしたエルノに待ったをかける。
「ちょっと待ってくれ。使いにくそうだし新しいのを作るわ。」
「ありがとうございます。」
許可が出たのでかまどと調理台を作っていく。使うならやはり立って作業できる高さが楽だよな。前のやつだと背が低すぎて腰をかがめないと使えないから大変そうだ。かまどは2つ並べておいて通常は1つだけ使うようにすればいいだろ。後は洗い場か・・・
「そういや水はどうしてんだ?」
「私が水魔法を使えますので。」
「おっ、そうか。じゃあ排水だけ考えればいいな。」
洗い場から住居の方へと流れないようにと地面の中に排水路を作っておく。よっぽど大丈夫だとは思うが詰まった時を考え地上部分も多少斜めにしておいた。とりあえずこのくらいでいいだろ。
それにしても本当に水魔法は便利だな。俺も使えたら楽なんだが。
「こんなもんだな。」
「わぁ、ありがとうございます。」
エルノに頭を下げられお礼を言われるがその姿がカヤノにそっくりなことにちょっと苦笑する。離れていても親子ってのは似るもんなんだな。
「じゃあ作るか。何を作るんだ?」
「もちろんハイオークのステーキです。久しぶりのお肉ですし、お客様もいますから腕が鳴りますね。カヤノも好きだったわよね。」
「はい。あっ、解体手伝います。」
「そう、じゃあ一緒に解体しましょうか?」
和やかな親子の交流、なお光景としてはかなりグロテスク、が繰り広げられているのを横目に俺はかまどに火を入れるため薪が積んである家のそばへと歩いていくのだった。
幻の食材、ハイオークの肉を使用したバーベキューを求めて始まった争いは拡大していき、そしてそれはいつしか国をも巻き込んだ大きな戦争へと発展していく。果たしてこの戦いの勝者は!?
次回:上手に焦げました!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




