とりあえず信者を獲得する
くそっ。ちょっと話し合いに時間をかけすぎたか?人が来る様子なんて全くなかったから夜が明けるくらいまでは平気だと思ってたんだが。
地下なので時間は良くわかんねえがもろもろの状況から考えて今はまだ夜の3時過ぎくらいのはずだ。よりにもよって俺が出かけようとするときにバッティングするとはな。まあ見つかることはねえと思うが一応息をひそめて待機する。
コツ、コツ、コツ、コツ。
小さな足音が段々と近づいてくる。それに伴い緊張感も高まっていく。まぁ無視して出ていくってことも・・・いややっぱりそれは無しだな。もしかしたらやってきた奴がカヤノたちに危害を加える可能性がない訳でもない。その場合はどうすっかな。とりあえず地下空間を作って監禁しておくか。俺たちが脱出するときに交代で牢屋に入ってもらえば時間は稼げるだろうしな。
そんなことを考えているうちにそいつは姿を現した。
子供のような低い身長、エルフ特有のすらりとした手足と整った顔、そしてその手に抱かれた2体の見覚えのあるマスコットキャラクター。見覚えのあるその少女は周りを伺うようにキョロキョロと見回し、そして一直線にカヤノとミーゼの元へと向かっていった。
「「ニーア」さん。」
カヤノとミーゼが声を上げ、それに対してその少女、ニーアがしーっと静かにするように伝えている。その腕からピョンと飛び降りた2号と3号が隠れている俺のもとにやってきて敬礼してきた。いや、ばれるからちょっと今はやめろ。
「少し待って。今、鍵を開けるから。」
ポケットから鍵を取り出したニーアが牢屋の鍵穴へとそれを差し込んでいく。
「いいんですか!?」
「ニーアは私たちがリクを騙したって思わないの?」
カヤノとミーゼが小さな声でニーアに問いかける。それに答える前にカチャリと音を立てて牢屋の鍵が開いた。そしてニーアがゆっくりとその扉を開けていく。
「騙したはずない。騙したならあんなに楽しそうに過ごせるはずない。何度もそう言ったけど聞き入れてくれなくて。逆にお前も騙されているんだって言われて。どうしようもなくて。ごめん、本当にごめんなさい。」
ニーアの目から涙が溢れ、頬を伝っていく。そうか。ニーアは俺たちのことを信じてくれたわけだ。風の精霊と言う神様のような奴の言葉にも惑わされず、俺たちのことをちゃんと見て判断してくれたんだな。その結果ハイエルフの里で孤立してしまい、1人でこっそりと脱獄させようなんて無茶をしようとしたわけか。
くっ、泣かせるじゃねえか。
カヤノとミーゼが泣いているニーアの頭を撫でている。ニーアの方がずいぶん年上のはずなんだが全く違和感がないな。
「いいんですよ、ニーアさんのせいじゃありません。」
「どっちかって言うとハイエルフのせいでもないしね。元凶はあの風の精霊よ。」
カヤノとミーゼの慰めのおかげかしばらくしてニーアの涙が止まった。そして少しだけ表情を和らげたことに気づいた2人がにっこりと微笑む。
「助かったわ。それであなたは大丈夫なの?」
「わからない。だぶん2人の代わりに牢屋に入れられるんじゃないかな。」
「それ大丈夫じゃないですよね。」
「牢屋には入れられると思うけど、たぶん殺されはしないから。だから平気だよ。」
いや、殺されないから平気ってどんな基準なんだよ。よしっ、登場するなら今だな。
「フハハハハ、ならばニーア。お前も一緒に逃げればよいのだ。」
「ひっ!リク様。なんでこんな所に。」
ニーアの背後へとこっそりと出現し、その小さな肩を掴んでやるとかなりびっくりしたようでおもちゃのカエルのように体を飛び跳ねさせていた。ドッキリは成功だ。
若干カヤノとミーゼのあきれたような目が気になるのだがここは無視に限るな。
「そいつさっきからいるわよ。どうせ出るタイミングでも図ってたんでしょ。」
「リク先生。いきなり驚かすのはいけないと思います。」
「はい、すみません。」
無視するなんて無理だったね。ミーゼはまあいつも通りだが、カヤノにまで怒られてしまったら謝るしかねえよな。タイミング的にはばっちりだと思ったんだが、もう少しお笑い要素を入れるべきだったか。次回への課題だな。
「まあいいや。で、どうする。」
「どうするとは?」
「いや、俺たちと一緒に来ねえかってことだ。もちろんニーアが牢屋に入ってもハイエルフの里に居たいってなら無理に連れていくことはしねえけど。」
「でもこの森から出たこともないし、信仰を捨てるわけにも・・・」
ニーアが不安そうに俺を見る。それに対して俺は笑って返してやった。
良かった。仲間を見捨てられないとか家族がいるとかそんな理由じゃねえんだな。なら大丈夫だ。牢屋にいるよりはよっぽど良いだろ。
「子供はいつか旅立つもんだ。未知の場所に行くのは怖いかもしれんが俺たちが一緒なら大丈夫だろ。それに信仰だって捨てなくていい。」
「えっ?」
驚きの声をあげるニーアに俺は自信満々に自分を指さしながら言う。
「俺だって精霊だからな。今の風の精霊信仰をやめて土の精霊を信仰すればいいんだよ。ちなみに今んところの信徒は2人だけだけどな。」
「ちょっと誰が信徒なのよ。」
「照れんなよ。会員ナンバー002。」
「照れてないわよ!しかも会員制なの?おかしくない!?」
「もちろんカヤノは会員ナンバー001だからな。」
「ありがとうございます。」
「えっ、すんなり受けちゃうの?ねえ、カヤノ君、あれっ?」
突っ込みそして混乱と忙しそうなミーゼはとりあえず置いておいてニーアに向き合う。
「いいんでしょうか?」
「もちろんいいぞ。しかし土の精霊信仰は戒律が厳しいぞ。まず仲間を大切にして裏切らない、なるべく一緒にご飯を食べる、そして喧嘩しても出来るだけ早く仲直りするだろ。そんでもって最大の戒律がみんなで一緒に楽しく過ごすだ。厳しいだろ。」
「うん・・じゃない、はい。」
「あっ、もう1個追加な。俺に対する敬語は禁止だ。もちろん様をつけるのもな。」
「えっ、でも・・・」
「大丈夫よ、ニーア。リクは様をつける必要があるような奴じゃないから。」
「おい、ミーゼ。それは自分で言うから良いのであって、他人から言われたらただの悪口だろ。」
「でも事実でしょ。それとも呼ばれたいの。呼んであげましょうか?リク様、リク様ー。」
「くっ、殺せ。」
「いや、殺さないわよ。何言ってんのよ、あんた。」
「うわー、わかってねえ、わかってねえよ。そこはブヒブヒ言うところだろ。」
「太ってるって言いたいわけ。そんなに死にたいなら殺してあげるわよ。」
「いや、おいちょっと落ち着け。だー、ふらふらしてんじゃねえか!細い、細い。ミーゼの足はゴボウのように細いって。」
「ふふっ、今度は毛深いってわけね。殺すわ。っていうかあんたわかってからかってるでしょ。」
「そんな訳ないだろ。なっ、カヤノ。」
「はい、ミーゼさんの足は細くてきれいだと思います。」
「えっ、あっ、うっ。」
さすが天然系男子カヤノだぜ。何のためらいも無くミーゼのハートを打ち抜くとは俺には出来ねえことをいとも簡単にやってくれる。そこにしび・・まぁいいや。面倒だし。
「くす、くすくすくす。」
「おっ、笑ったな。で、どうするんだ?」
「今すぐ入会する!」
「よしっ、それならニーアは会員ナンバー002だ。ミーゼ、お前は003に降格な。」
「なんか釈然としないけど、まあいいわ。よろしくねニーア。」
「よろしくお願いします、ニーアさん。」
「はいっ、まずは会員数100人を目指そう!」
「「却下。」」「はい!」
若干不安要素が増えたような気がしないでもないが、こうしてニーアが俺たちの仲間になることになったのだった。
ついに宗教法人を立ち上げることに成功したリク。税金免除でウハウハだぜと考えていたリクだったがそこには大きな落とし穴があるのだった。
次回:あっ、駐車場貸し付けは課税対象です
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




