とりあえず反抗計画を練る
まあ反撃を開始するといっても現状を確認しないと方針の立てようもないので車座になってカヤノたちにアルラウネの里の異変や襲われたこと、地下の空間でカヤノの母親らしき人物に会ったことを伝える。「良かったね。」と喜ぶミーゼとは対照的にカヤノは少し困ったように笑っていた。まあ理由は察しが付くが。
「でだ、その女の人の名前はエルノと言うんだが聞き覚えはあるか?」
カヤノは黙って首を横に振る。はぁ、やっぱりか。
ミーゼが説明しなさいよというような視線で俺を見るんだが向ける相手が違うんじゃねえか?とはいえ直接聞きにくいってのもわかる。カヤノに確認の視線を送るとコクリと首を縦に振ったので話し始める。
「カヤノは母親の名前を知らないんだよ。」
「えっ?なんで?」
「隠れるように母親と2人で住んでいたんだぞ。ちょっと想像すればわかるだろ。」
「ん~、ダメ。わからないわ。」
「お前、想像力ねえな。」
「なんですって!」
「まあまあ。」
カヤノが間に入り顔を赤くしたミーゼを抑えている。ここぞとばかりにフフンと鼻を鳴らして馬鹿にしてやると更に顔を真っ赤にさせた。いやー、いつもの反応ご馳走様です。
っとと。
「体調が悪いんだからあんま怒んなよ。」
「あんたがそうさせたんじやない!」
いや、失敗したな。ミーゼの体調のことをすっかり忘れてた。ふらついたミーゼをとっさに支えることは出来たがちょっと自重しねえとな。
「まあそれは置いておいて。」
「置くんじゃないわよ。」
「まあ2人でいるってことはお互いを呼ぶのは相手だけなわけだ。つまりカヤノは母親からしか呼ばれないわけだし、母親はカヤノからしか呼ばれない。ここまでは良いよな。」
「さらっと無視したわね。後で覚えてなさいよ。」
不穏なことを言いつつもミーゼが首を縦に振る。いや、ここまで言えば大体わかるだろ。
結構出血したらしいし頭に血が回ってねえんじゃねえのか。「頭大丈夫か?」と言ってやりたいところだがまず確実に怒るだろうしな。黙っておこう。
「えっと僕にとってはお母さんはお母さんなんです。」
「ん~、あっ。そういうことね。」
カヤノの言葉でやっとミーゼも理解できたようだ。カヤノの言う通り、母親とカヤノしかいないならお母さんだけで通じるもんな。わざわざ名前を教える必要がなかったんだ。
「ってことで、カヤノの名前を出した反応と容姿が似ているから母親だとは思うが確証はないんだ。聞く前にぷっすり刺されちまって聞けずじまいだしな。」
「役に立たないわね。」
ぐっ。相手は弱ってるんだ。ここは落ち着いて大人の余裕をみせろ。クールにいけ。俺のせいじゃねえとは思うが聞けなかったのは確かだしな。
「そんなことないですよ。こんなにすぐに手掛かりを見つけるなんてさすがリク先生です。」
さすがカヤノだな。素直なお前が俺は・・・
「でも結局確証は持てないのよね。もし違って逆にカヤノ君に危害を加えようとするやつらだったらどうするのよ。ほんと詰めが甘いんだから。」
「おおう。そんなに喧嘩を売りてえならいくらでも買うぞ。」
「私は事実を事実として言っているだけよ。」
「ぐぬぬぬぬ。」
「えっと、やめましょう。2人とも。ねっ。」
「ちっ、カヤノと自分の体調不良に感謝するんだな。」
「捨て台詞なんて負け犬みたいね。」
しばらくミーゼとにらみ合っていたがカヤノの手前いつまでもそうしているのもみっともないのでやめる。決着はミーゼの体調が完全に復活してからだな。覚えてやがれよ。
「じゃあ今後の予定だが、まずカヤノの母親に会いに行くことは大前提だな。そのための装備や服なんかは俺がこっそり動けばなんとかなるだろ。他にやりたいことはあるか?」
「あのふざけた風の精霊をぶっとばす。」
「えっと、出来たらアルラウネの里を助けてあげたいです。なんでフラウニさんがいたのか気になりますし。」
ミーゼはかなり頭にきてるみてえだな。カヤノはアルラウネの里を助けてほしいか。一応カヤノと母親を引きはなしたのはそいつらのせいなんだがまあ、カヤノがそう言うなら助けてやらんでもない。確かに俺もなんでフラウニがいるのか不思議だしな。
しかしどっちも面倒くさそうだ。少なくとも俺たちだけでは人手が足らねえだろう。誰かに協力してもらうか?いや、ハイエルフたちは無理だろうから協力してもらうとしたらカヤノの母親とそれと一緒にいた光の精霊くらいになるのか?そう大して増えねえな。
「人手が足らねえな。うーん、棒サイちゃんずを増員するか?」
「えっ、あっ。すみません。」
「えっと悪いわね。私たちのために2号と3号が・・・」
思いつきで言った棒サイちゃんずの増員計画だがこれは無しだな。いや、数を増やすだけなら出来るような気もするが今の棒サイちゃんずのように強くなるにはそれなりの時間と手間がかかる。生半可な実力の者がいても足を引っ張るだけだ。とりあえずは実力のありそうな光の精霊と相談してからだな。
それにしてもカヤノとミーゼがえらく申し訳なさそうに俺を見ているんだが・・・何でだ?
「なんで謝ってるんだ?」
「ええっと、僕たちを守るために2号さんと3号さんが自爆して・・・」
「いや、それはさっき聞いたが。」
「あんた何とも思わないの。一緒に過ごしてきた仲間なのよ。いくら生み出せるからってそんな・・・」
「いや、ちょっと待て。2人とも盛大な勘違いをしてるぞ。まず2号と3号だが死んでないぞ。」
「「えっ!?」」
2人の顔が驚いたまま止まっている。やっぱりな。最初にカヤノの話を聞いた時やカヤノがミーゼに気絶した後のことを教えていた時も違和感があったんだがこれが原因だったんだな。
「あれを使った後は半日くらい土と同化して動けなくなるんだけどな。今頃復活して俺たちを探してるんじゃねえか?」
「えっ、じゃあ本当に?」
「ああ。それにあれは自爆じゃねえし。」
「自爆じゃなかったら何だってのよ。」
2人の視線が俺に集まる。しまった。いざというときのために編み出した自爆技だって言っておいた方が良かったか?なんかそっち方がきれいにまとまった気がするな。まあ今となっては後の祭りだが。
よし、言うぞ。絶対に怒られるだろうが。
「・・・・」
「聞こえないわよ。」
「すみません。僕もです。」
くっ、小さい声でごまかそう作戦も無理か。ふぅ、いよいよ年貢の納め時か。
「・・・ごっこだよ。」
「えっ?」
「だからヒーローごっこで遊んでたんだよ。ヒーローに吹き飛ばされた怪人は最後に爆発するだろ。アレだよ、アレ。常識だろ!!」
「そんな常識聞いたことないわよ。しかも遊びで使ってたって、ばっかじゃないの?」
「断じて違う。わからないのか?様式美なんだよ、様式美。やられた怪人が最後に一花咲かせる。それを見てヒーローがきたねえ花火だ、って言い捨てるんだよ。男ならこのカッコよさがわかるよな、カヤノ。」
「すみません。」
くそっ、これが異世界ギャップというやつなのか。棒サイちゃんずはノリノリでやってくれていたからもっと賛同を得られると思ってたんだが。カヤノの本当に申し訳なさそうな顔が心に刺さるぜ。
「まあいいや。とりあえず俺は外の様子を探ってくる。日が明けるまでにすぐに逃げるか明日逃げるかだけでも決めておきたいしな。」
「あっ、ごまかしたわね。」
そんなミーゼの声に何も答えずに溶けるようにして地面と同化する。なんか最近は人間形態でいるから地面と同化するのはこういった隠密行動をするときだけなんだよな。昨日、いや一昨日の夜もハイエルフの里をこの形態で散歩したんだがこんな場所には心当たりがない。ってことは最悪ハイエルフの里の外の可能性もあるんだよな。面倒だ。
まあうだうだしてたら日が昇ってしまうのでさっさと行くか。地上へと続くと思われる階段へと向かおうとしたその時、俺の耳にコツ、コツという階段を下りる足音が聞こえてきたのだった。
ついに3年間引きこもっていた部屋を出ることを決意したリク。しかし部屋を出たとたんに聞こえてきた足音に体が硬直して動かなくなる。そして出逢った運命の相手とは!?
次回:あっ、どうも空き巣です
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




