とりあえず合流する
うへぇー、ひどい目に遭ったぜ。とは言ってもカヤノの母親を見つけられたんだから幸運だったと言ってもいいのか?アルラウネの里はちょっとアレな感じに占拠されていたが幸いにもカヤノの母親の方は無事だったしな。カヤノとの再会に関しては問題ねえだろ。アルラウネの里については要相談と言ったところか。まぁ、俺一人でどうにかできる問題でもねえだろうし、ハイエルフの長にでも相談を・・・って・・・
「おい、なんで牢屋に入ってんだよ。」
「リク先生?・・・っぜんぜーい!」
「うわっ、カヤノどうしたんだよ。っていうか何があったんだ。泣くな、泣くな。よしよし。」
気が付いたらそこは牢屋でしたってか?いや、急展開すぎんだろ。
とりあえず俺に抱き着いて泣いているカヤノの頭をポンポンと撫でながら周りの様子を見る。うん、まごうことなき牢屋だな。どっかの地下に作られているんだろうが周りは土の壁で目の前の鉄格子で逃げられないようになっている。
部屋の奥にはついたてとトイレ用なのか桶が置かれており、手を付けられていない二人分の食事が地面に置いてあった。
とまあここまでは普通の牢屋の風景と言ってもいいかもしれん。まあこれで牢屋に入るのは二度目なわけだが、バルダックの牢屋と比べても変わり映えはしないな。
で、問題は床に転がっているミーゼだ。カヤノがやったのかわからんが粗末な布団の上に寝ている。まあそれ自体はどうでもいい。顔色が青ざめており、体調が悪そうに見えるが呼吸もしているようなので命に別状はないだろう。まあこれも問題ではない。
問題なのはミーゼの服が切り刻まれていてもはや服の役目を果たしていないのだ。傷はカヤノが癒したのか全く見当たらなかったのだが、何とも目に毒な光景である。
俺のストライクゾーンからは外れてるんだが、気を失っている婦女子のそういった姿を見るのは紳士としてするべきじゃねえしな。妙齢の女性に見ても良いよと言われれば這いつくばってでも喜んで見るんだがな。そしてそんな俺を踏んでくれたならなおよしだ。
おっとそんな場合じゃねえよな。とりあえずもう一つあった布団をミーゼに適当にかけておく。さすがに替えの服なんて持ってねえし。
「スン・・・スン・・・」
「落ち着いたか?」
「はい。」
「じゃあ何があったか話してくれ。」
「はい。僕とミーゼさんは・・・」
カヤノに聞いた話ははっきり言って衝撃だった。まさかあれだけ歓迎してくれていたハイエルフたちがカヤノたちを襲うなんて想像だにしていなかったのだ。しかし考えてみれば俺たちとニーア以外のハイエルフたちが会ったのは昨日が初めてだった。それを無条件に信頼してしまい、カヤノたちを危険にさらし、ミーゼについては死ぬ一歩手前までの怪我をさせちまった。これは俺の判断ミスだ。
「すまなかった。」
「そんな、リク先生のせいじゃないです。僕がもっとしっかりしてれば」
「いや、カヤノたちを預けると判断したのは俺だ。風の精霊がそこまでするとは思ってもみなかったが。いや、これは言い訳だな。すまない。」
カヤノに頭を下げる。ミーゼが起きたらあいつにも謝らねえとな。ミーゼのことだ。ここぞとばかりに俺を責めるだろうがまぁそれは甘んじて受けようじゃねえか。いや、もちろん進んで受けたいわけじゃねえけどな。
ちょっと思考がそれかけたが、今一番大切なのはカヤノに謝ることだとすぐに思い直し気持ちを入れ替える。しばらく頭をさげたままでいた俺だったが、違和感を感じゆっくりと顔を上げた。そこには今にも泣きそうな顔のカヤノがいた。
「何でですか?」
「いや、あの・・・カヤノさん?」
「何でいつもリク先生は自分だけで責任を取ろうとするんですか!?そんなに僕たちが信用できませんか?僕たちは先生に守られるだけの存在なんですか?」
カヤノの瞳が決壊し、ぽたぽたと玉のような涙が流れ落ちる。
「僕は、リク先生が好きです。ミーゼさんも棒サイちゃんずもみんなリク先生が好きなんです。だから・・・だから・・・。」
「・・・」
「僕たちにも一緒に背負わせてください。先生は1人じゃないんです。先生が僕たちの幸せを考えてくれるように、僕たちも先生の幸せを考えたいんです。」
「そうか。」
俺は間違っていたのかもしれねえな。カヤノやミーゼが小さいからって自分に言い訳して大切に育てているつもりなだけで、成長する機会を奪っちまってたのかもしれねえ。
言われて改めてわかったよ、カヤノ。俺もお前も一緒だったんだ。一緒に成長していくべきだったんだな。俺は知ったかぶってただけのただの馬鹿野郎だったわけだ。そう考えるとカヤノたちの方がよっぽどましだな。
ぎゅっと握りしめられているカヤノの手に自分の手を置き、膝をついて視線を合わせる。
「カヤノ。俺は今、ここで誓おう。カヤノ、ミーゼ、棒サイちゃん。俺は全力でお前たちを助ける。だからお前たちも俺を全力で助けてくれ。俺たちはチームだ!」
「はい!」
カヤノの目から涙が止まり、そしてぎこちなく笑顔を浮かべた。
はぁ、カヤノの親代わりを気取っていた割に、カヤノの成長に驚かされることになるなんてな。実際の親もこんな感じなんだろうか?大変だな。
「なに臭いことやってんのよ。うるさいから起きちゃったじゃない。」
「ミーゼさん!」
「よう、起きたか。ミーゼ。」
ミーゼがゆっくりと体を起こそうとしている。しているんだが満足に体が動かないようでカヤノが手助けに行った。うん、カヤノ。気遣いは素晴らしいと思うんだが、それは時と場合によると思うぞ。
「あー、ミーゼ。無理して起きない方がいいと思うぞ。」
「何言ってるのよ。とりあえずここから逃げる算段をつけないと。っていうかなんでリクがいるのよ。もしかして私、何日も眠ってた!?」
「いえ、たぶん襲われてから半日くらいだと思います。さっき見回りに来たハイエルフの人が半日も寝やがってって怒ってましたから。」
「あー、まあこっちも色々あったんだよ。ミーゼたちの状況もカヤノから聞いたから知ってるぞ。大変だったな。」
「大変だったなんてもんじゃないわよ。風の精霊、あいつだけはぶっとばすわ。」
ミーゼが気勢をはいている訳なんだが何とも落ち着かない。いや、一応大事な部分は奇跡的に何とか見えていないんだけどな。動くたびにチラッ、チラッとするのを目が追ってしまうんだ。うーん、ロリコンの気はないはずなんだが、これが男の悲しい性と言うものなのか。
「あー、わかったからとりあえず布団被っとけ。そういう趣味があるんなら止めねえが。」
「趣味って・・・っ!!」
やっと自分の格好に気づいたのかミーゼが声にならない悲鳴を上げて布団かぶりテルテル坊主のような姿でこっちを睨んでくる。いや、なんで睨まれるんだよ。教えてやっただけだろうに。
「見たわね。」
「いや、見ずに注意するってどんな達人だよ。」
「ちょっとあんたの頭をエアカッターでスパッと切っちゃっていい?脳のあたりをぐちゃぐちゃにしたら記憶が無くならないか試してみたいんだけど。」
「怖えよ。というか俺とお前は同性だろ。っていうかカヤノは良いのかよ?」
「カヤノ君は・・・カヤノ君だから良いのよ。リクはなんか嫌。」
「お前、理不尽にも程があるだろ。なんか嫌、で頭をすっぱり切られる俺の身になってみろ!」
「ふっ、ふふふふ・・・」
俺とミーゼの言い争いは笑い出したカヤノの声で中断する。何というかいつもの雰囲気だ。当たり前の空気がとても心地良い。
「まあ言い争いはこのくらいにしましょう。」
「ですね。」
「そうだな。じゃあ・・・」
「反撃を始めようか。」
ついに三千里を踏破し合流したリクとカヤノたち。感動し喜び合う3人だったが、この直ぐ後に絶望がやって来ることは誰も知らなかった。
次回:あっ、万歩計がカンストしてた!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




