とりあえずハイエルフの里を案内される
ニーアさんに案内されてハイエルフの里を回っているんだけど本当にきれいな場所だ。生活に余裕があるっていうか、なんて言ったらいいんだろうよくわからないけど。
「どうしたの、カヤノ君?」
「いえ、何でもありませんよ。」
「そう?それならいいんだけど。」
そう言って再び前を向いたミーゼさんの隣を一緒の速度で歩く。そういえばミーゼさんとこんな風に2人きりで歩くのは久しぶりだ。えっといつぶりだっけ?リク先生が人間みたいになれるようになってからはずっと一緒にいたからたぶんドレークの街以来かな?それ以前もずっとリク先生は話せなかったけどいたから、実際には初めてなのかもしれない。
「なんていうか静かね。」
「そうですね。普通の街なら人の声とかが聞こえますけど。」
「いや、それもあるんだけどね・・・」
なぜか言葉に詰まったミーゼさんの顔を見れば、ちょっと顔をしかめ、なんて言ったらいいのかわからない微妙そうな表情をしていた。
「あるんだけど?」
「いや、リクがいないと何というか調子狂うのよね。」
「ミーゼさんもですか?僕もなんです。」
「違うわよ!リクが好きとかそんなんじゃないからね。そう、なんて言うの?喧嘩・・じゃないし、言い合い・・・とも違うし、うーん・・・」
「あっ、何となくわかります。会話のテンポが良いんですよね。良くミーゼさんと楽しそうにじゃれあってますし!」
「楽しくないわよ!」
ミーゼさんは顔を赤らめて怒っているが、本気で怒っている訳じゃないことは良く知っている。ミーゼさんとリク先生は良く喧嘩と言うか、お互いにちょっかいを掛け合っているんだけどちゃんと相手の嫌なことはしていないし、何か決めるときにお互いに意見が真っ向から対立してもちゃんと言い合って最後にはお互いに納得できるのはすごいことだと思う。
意見も満足に言えない僕とは大違いだ。リク先生はまだまだ僕は経験が足らないから仕方がないとは言ってくれるがもうちょっとみんなの役には立ちたいんだけどな。
「まあリクのことは置いておいて、お母さんが見つかるといいわね。」
「はい。」
そのことについては言葉短くしか返事を出来なかった。
お母さんとは会いたい。それは紛れもない僕の本心だ。リク先生はそれを知っているからこそアルラウネの里を探してくれたし、危険かもしれないからと一人で里へと向かってくれた。それはとても嬉しいことで、でもとても不安なことだった。
お母さんには会いたい。でもお母さんは僕に会いたいとまだ思ってくれているんだろうか?もしかしたら僕のことなんて忘れてしまっているんじゃないのか?いや忘れるどころか嫌われていたら、会いたくないと言われたら・・・そんな考えばかりが浮かんでしまう。
そしてもう一つ心配なのは・・・
「あっ、ごめんね。リクが行ってるんだもんたぶん大丈夫よね。あいつやるときはやる奴だし。」
ミーゼさんが僕を励ましてくれる。ダメだな、僕は。不安が顔に出てしまっていたみたいだ。たぶんミーゼさんが考えている僕の不安と僕自身の不安はちょっと違うけれど心配してくれる友達がいる。そのことは奇跡のようなものだ。リク先生と会う前の僕には、生きるだけで精一杯だった僕には考えられないほどの奇跡だ。
ミーゼさんの手を握り、出来うる限りの笑顔を見せる。
「ありがとうございます。心配してくださって。」
「う、ううん。別にいいのよ。ほら、私たち仲間だしね。」
「はいっ。」
顔を真っ赤にしてちょっと顔をそらすミーゼさんは可愛いと思う。あっ、耳まで真っ赤だ。リク先生がいたらたぶんからかうんだろうな。
ズキリっと心が痛む。顔を出そうとする不安を何とか押し戻して笑顔を作らないと。あんまりミーゼさんを心配させたらダメだ。
「大丈夫?あともうちょっとで回り終わるけど少し休憩する?」
「いえ、大丈夫です。そうですよね、ミーゼさん。」
「うん、悪いわね、ニーア。案内なんかさせちゃって。」
「いいよー。私、この里を出ている身だから暇なんだよね。」
ニパッと笑いながら楽しそうにニーアさんが再び歩き出す。その後をミーゼさんと少し早歩きで追いかけていく。「ほらっ、行くぞ。」と僕の頭を撫でてくれる先生がいないことに寂しさと少しの不安を覚えながら。
リク先生は僕がお母さんに会えたらどうするんだろう?
リク先生と会ってから僕の人生は変わった。リク先生は僕に色々なことを教えてくれる先生でもあり、一緒に遊んでくれる友達でもあり、守ってくれる親でもあった。だからこそ僕がお母さんに会えたら、もしまた一緒に住むことが出来るのなら親代わりをしてくれていたリク先生はどうするんだろう?
僕は先生と一緒にいたい。先生も僕がお願いすれば願いを聞いてくれると思う。でもそれで良いのかな?
リク先生なら僕を助けてくれたのと同じようにいろんな人を助けたりできる。先生も人助けが好きだし。僕と一緒にいて欲しいと願うのはその機会を奪ってしまうことになる。それは良いことなのかな?
わからない。
ニーアさんにアルラウネの里まで案内してくれると言われてからずっと考えていたんだけどわからないんだ。リク先生が言うようにもっと経験を積めばこんな時も迷ったりしないのかな?
ミーゼさんならわかるのかな?そう思ったりもしたけれど、何となく聞いちゃいけない気がして僕は誰に相談できずにいた。だからいつも同じようなこと考えで詰まっちゃうんだけど。
「ハイエルフの里はこんな感じだね。どう、楽しかった?」
「ちょっと変わった里だってことはわかったわ。」
「え、ええ。そうですね。」
あれっ、いつの間にか案内が終わっていたみたいだ。途中からあんまり記憶が無い。考え事に夢中になっちゃったからかな。ニーアさんに失礼なことをしちゃったな。ごめんなさい。心の中で謝っておこう。
「とりあえずどうする?私の家で休憩でもする?」
「そうね。特にすることもないし。」
「そうです・・・ね?」
ニーアさんの家には昨日も泊めてもらったし、唯一の知り合いであるニーアさんの家が一番落ち着くので賛成しようとしたんだけど、ニーアさんの後ろから近づいてくるハイエルフの長さんたちの姿に言葉を止める。
昨日はリク先生をなんか祭壇みたいなところに奉って喜びの舞を楽しそうに踊っていた長さんの表情は、一転しており、何というかある意味で慣れ親しんだ視線を感じた。僕たちハーフが良く受ける侮蔑の感情を含んだ視線だ。
午前中に案内されたときは普通だったはずなのになんで?
「ニーア、こちらに来なさい。」
「えっ、なんで?長も皆もなんか目が怖いよ。」
「いいからこちらに来るのだ。」
「えっ、ちょっと何!?えっ、本当に何!?」
ニーアさんもよくわかっていないようで、きょろきょろと視線を動かし混乱しながら引きずられていくように奥へと連れていかれてしまった。良い予感がしない。
ミーゼさんも同じようで、僕を守るように少し前へ出て警戒している。ミーゼさんがいつも着けている剣はニーアさんの家に置いてきてしまったから丸腰だ。鎧もつけていない。
「ミルネーゼ、カヤノ。両名に告ぐ。」
長さんの低い声が響く。おかしいな。昨日はあんなに優しくて安心した声なのに、今はとてつもなく冷たくて、恐ろしく聞こえる。
「無駄な抵抗はやめて投降しろ。土の精霊様を騙し契約を結んだお前たちは許しがたい。」
「そんな、騙してなんて・・・」
「言い訳は聞かん。風の精霊様が教えてくださったのだ。我々もおかしいとは思っていたのだ。なぜ忌むべき存在であるハーフが精霊様の寵愛を受けているのかと。純真な土の精霊様を言葉巧みに騙し契約を結ばせたのであろう。」
「あいつが純真ですって。あんたの目、節穴なんじゃないの!?」
「うぬぅ、我々を愚弄するか!?こやつらを捕らえろ!ただし殺すなよ。契約者が死ねば土の精霊様に何か影響が出るかもしれん。それだけは避けねばならん。」
ハイエルフのみんなが僕たちに向けて手を掲げる。昨日僕たちを踊りに誘ってくれたおじさんが、いっぱい食べなと食事をよそってくれたおばさんが、楽しそうに精霊の話をしてくれたおじいさんが、内緒だよと言って調薬のレシピをこっそりと教えてくれたおばあさんが、楽しく笑っていたみんなが僕たちに攻撃を仕掛けようとしている。
うそ・・・だよね。
体が震える。何もできない。何も考えられない。
ミーゼさんが僕をかばうように抱きしめてきた。その背後から、みんなの手から魔法が放たれるのが見える。みんなが僕たちを狙っている。それがどうしても現実に思えなくて、でも僕のことを力いっぱい抱きしめているミーゼさんの姿が、これこそが現実だと知らしめていて・・・。何もできない僕に出来るのは願うことだけだったんだ。
助けて、リク先生!!
そして僕たちに向けて10を超える魔法が飛んできたのが見えた。
突然のハイエルフたちの変貌によりピンチに陥るカヤノとミーゼ。脱出不可能な要塞とも言える洋館から2人は無事に逃げ切ることが出来るのか?
次回:ダメ!その窓ガラスからはゾンビ犬が!!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




