とりあえず大歓迎される
医者から症状が落ち着いたと言われましたので再開します。
長らくお待たせしました。
目薬を差すだけで20分かかる生活はしばらく続きそうですがww
ハイエルフの里の中心部へとニーアに先導されて向かった俺たちは歩きやすい平らな小道を進んでいた。ニーアによるとハイエルフは魔法が得意なので土魔法を使って道の整備などをするのは朝飯前なのだそうな。整備された公園のような風景が続く中、しばらくして視界の先に住宅地が見え始めた。
重厚感のある濃茶色の木材で作られたその家々は、ほぼすべてが2階建てであり、その壁面は磨き上げられたように光沢を放っている。1軒、1軒の家の大きさも今まで見たことがないほどで、家というよりはお屋敷という言葉が似合いそうな大きさだ。だってそれぞれの家の周りを囲むように柵があって、サッカーができそうなほどの庭があるんだぜ。
しかし・・・
「誰もいないわね。」
「確かにな。」
決して寂れているわけじゃない。人が生活しているだろうという空気はそこかしこから感じるのにだれ一人としていないのだ。かれこれ10分は歩いただろうか。異様な雰囲気にカヤノとミーゼが不安そうな表情を見せている。
「・・・」
ニーアに目をやれば楽しそうに笑っているが何も答えない。なにか企んでいるんだろうしそれが俺たちにとって害になるようなものではないとは思うが少し警戒度を上げておく。
まあ、取り越し苦労になるとは思うけどな。
さらに5分程度歩き、おそらく集落の中心部に近い家々が密集する通りを抜けた。そこにはかなり大きな広場があり、その中心部には今までなぜ気づかなかったのか不思議なほどの巨大な樹がそびえ立っていた。思わず誰もが視線を奪われる。
バン!!パパパパン!
「危ねえ、カヤノ!」
いきなり両脇から飛んできたファイヤーボールが弾け、それを追うように火が、水が、風が、土が斜め上空へと飛び交い俺たちの前に数多の魔法で作り上げられたトンネルが出来上がる。そんな非現実的な光景をカヤノを抱えながら俺は見ていた。
「先生、痛いです。」
「おっ、すまん。」
カヤノの抗議の声に慌てて手を緩める。
「わあ、きれいですね。」
「まあ・・・確かにな。」
俺の肩越しにその光景を見たカヤノの歓声に、しぶしぶ同意する。
確かに見た目はきれいな光景だしな。しかしその1つ1つがそこいらにいる魔物なら一撃で倒せそうな威力の魔法であることを除けばだが。
まあこちらを害しようとする様子はみえねえし、いつまでもカヤノをかばった態勢でいるのもなんなので立ち上がりカヤノの隣へ並んだ。そんな俺へと冷ややかな声が飛んでくる。
「リク、あんた私のことはこれっぽっちもかばわなかったわね。」
ミーゼの声には多分に怒りが含まれている。まあ確かに俺がとっさにかばったのはカヤノだけだったし、旅の仲間として一言あろうというのはわからないでもない。だがな・・・
「そういうお前もちゃっかり俺とカヤノの後ろに隠れたけどな。」
確かに俺はカヤノしかかばわなかった。かばわなかったわけだがミーゼは何の迷いもなく俺の背後へと逃げ込んだのを俺は知っている。
「・・・まあそれは置いておいて。」
「置いておくんじゃねえよ!」
「それより、アレ、何?」
「アレって?」
ミーゼが指さした方を振り向くと、魔法のトンネルの奥から数人が何かを板のようなものを皆で担ぎながらやってくるのが見えた。そしてそいつらはトンネルをくぐり俺たちのすぐ前までやってくると恭しく頭を下げた。そしてそれと同時に魔法のトンネルが消える。
「ようこそいらっしゃいました、土の精霊様。ハイエルフの里一同、全身全霊をもって歓迎させていただきます。」
「お、おう。」
何というかバリバリに気合が入っていますとわかるその声と態度にどう対応していいのかわからず生返事をしてしまう。というかこいつら全く顔を上げようとしねえんだけど。もしかして俺が顔を上げろと言うまでそのままとかいう落ちか?
ニーアを見ると、ちょっと困った顔をしながらうなずいていた。げっ、マジかよ。
「えっと顔を上げてくれ。それにそんなにかしこまる必要はねえぞ。俺たちは聞きたいことがあったから寄っただけだし。」
「何とお優しい。ご用件についてはすでにニーアから聞いております。アルラウネの里でしたらここから1日程度の場所にありますので後日ご案内させていただきます。万事お任せください。」
「助かる。良かったな、カヤノ。」
「はい!!」
カヤノが満面の笑みを返してくる。何というかとんとん拍子に進んでしまって本当に大丈夫なのかちょっと心配になるくらいだ。まあ悪いことか良いことかで言えばもちろん良いことなんだけどな。
「では土の精霊様、こちらにお乗りください。歓迎の式典会場までご案内させていただきます。」
「いや、いいぞ。歩いていくし。」
担いできた板っぽいものは一人が座れる椅子がついた神輿だった。しかも無駄に精緻な細工が彫ってある高そうなやつだ。いやいやいや、こんなもん乗るやついねえだろ。どこの王様だよ。いや王様がこんなもんに乗ってんのかは知らねえが。
そんな俺の答えが予想外だったのか、受け答えをしていた男がその整った顔を驚きに染め、そしてすぐに首をぶんぶんと横に振った。
「そんな失礼なことできません!!」
「いや、俺が良いって言ってんだが・・・」
「遠慮なさらずに、ささっ、どうぞこちらへ。」
半ば強引に神輿の椅子へと座らされ、6人のエルフが息の合った動作で持ち上げられる。持ち上げられているのに傾きも全くなく、木の椅子なんだがそれ自体が程よく柔らかく座り心地も悪くない。悪くは無いんだが、居心地がいいかと言われたらそうではないと答えるが。
「良く似合ってるわよ、リク。」
「そういうのは目を見ながら言え。」
顔をそらしながら言ったミーゼの言葉に反論する。ぜってえ笑ってるだろ。
「わぁ、高くて良く見えそうですね。」
「まあ、確かに良く見え・・・る」
んだが・・・何だよ、アレ。
「なあ、聞いていいか?」
「何なりとどうぞ。」
「そこらに転がってるやつらはどうしたんだ?」
先ほどまでは見えなかったが持ち上げられて視点が上がり、両サイドに塹壕が掘られその中で何十人というハイエルフたちが倒れているのが見えていた。しかし倒れている割に良い笑顔をしているのがちょっと不気味だ。
「あぁ、これはお目を汚してしまい申し訳ありません。すぐに片づけますので。」
「いや、片づけるというか大丈夫なのか?集団で倒れるなんてなんかやばい・・・」
「いえっ、彼らはただ魔力切れで倒れているだけですので。」
「魔力切れって・・・あの魔法のトンネルか!?」
「全力で歓迎させていただきました。」
にこやかな顔でそう言いのけた男の言葉に俺は返す言葉が無く、ただハイエルフって滅茶苦茶賢いイメージだったんだがただの馬鹿なんじゃねえのかと答えを出したくない疑問が頭をぐるぐると回る中、神輿にのせられ俺たちを歓迎するための宴の会場まで運ばれてしまうのだった。
案内された宴会場で待っていたのはふんどしを締め、頭にはねじり鉢巻き、そして法被を着たハイエルフの集団だった。困惑する3人をよそにお囃子と太鼓が楽しげな音を奏でていく。
次回:祭り!
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




