とりあえず風の精霊は面倒だった
「とりあえず人を指さすんじゃねえよ。」
「えっ、土の精霊ってもしかして真面目系?信じられないんですけどー。って言うか君って人間じゃなくって精霊じゃん。という事はボクは人を指さしてないじゃん。おぉー、万事解決。」
くそっ、ニーアから自由気ままな方とは聞いていたがこっち系か。俺の苦手なタイプだ。
俺だって生真面目ってわけじゃねえ。冗談も言えば人をからかって遊んだりするし、冗談は冗談として受け入れられる方だ。でもそれは相手が本当に嫌がらない線引きを明確にしてからしていることだ。
だが風の精霊はおそらく違う。こいつは自分の思った通りに自分の思ったまま振る舞うのだ。相手のことなんて微塵も考えちゃいねえ。そんな気配がプンプンする。
「まあいいや。で俺たちに何の用だ?会いたいって聞いたんだが?」
「んっ。別に用なんてないよ。久しぶりに外から里に人が来たって聞いたから呼んだだけー。」
「さいでっか。じゃあこれで終わりだな。また機会があったら会おうな。じゃあ行くぞ、カヤノ、ミーゼ。」
こういう輩は関わったら最後、面倒なことになるのが目に見えているからな。
カヤノとミーゼの背中を押してハイエルフの里へと行こうとしたんだが、振り返ったその先には既にニヤニヤした顔の風の精霊がいた。
しかし回り込まれてしまったって状況か。
「えー、折角なんだからもっと遊ぼうよ。」
「遊ばねえよ。俺たちは用事があってここまで来たんだ。それにお前の遊ぶってのは一緒にじゃなくて俺たちで遊ぶって意味だろうが!」
「おっ、よくわかったね。意外と土の精霊って人を見る目があるじゃん。ボクは人じゃないけど。」
素直に認めんのかよ。
というか何でハイエルフたちはこんな奴を神様としてあがめてんだ?絶対に振り回されてるだろ。
いや、違うのか。精霊信仰をしていたハイエルフたちで遊ぶためにこいつがわざわざハイエルフの里にやってきた。そう考えたほうがしっくりくるな。
「用事があるってことは何か欲しいモノがあるってことだよね。じゃあボクを満足させたらそれをあげるよ。」
風の精霊が胸を張り、俺たちを見下ろしながら尊大な態度で言う。
ぐっ、こういう人の痛いところを察するのは上手いんだな。
「具体的には?」
「1、ボクと戦う。2、3つの試練を受ける。3、ボクが欲しいものを持ってくる。さあどれ?」
「全部却下だ。」
「えぇー!!」
いくら信じられないという顔をされたとしても当たり前だ。
まず1は無い。精霊と戦ったことなんてないからどうなるかは予想がつかんが、勝ったとしてもこいつが素直に約束を果たす未来が見えねえ。悔しがって勝つまで挑んでくるだろうし、そもそもこいつの性格から言って普通に戦うはずがねえ。
2も当然却下だ。3つの試練なんて言葉の響きは良いが言い方を変えてみれば俺たちに3回何でも言うことをきかせる権利をこいつに与えるのと同義だ。まずロクなことにはならん。
そして3も当然却下だ。かぐや姫臭がプンプンする。コイツの場合は手にいれられそうなギリギリのラインを言ってきそうではあるんだが、それにしたって面倒だし時間もかかる。
受けるわけねえだろ。
「もう、わがままだなぁ。」
「わがままで結構。それに俺たちが手に入れたいのは物じゃなくてアルラウネの里についての情報だしな。」
「えぇー、エリクサーとかもう少し奥にある秘宝の眠るダンジョンの情報とかじゃないの?特にダンジョンはオススメだよ。目指せ一攫千金。」
「目指さねえよ。まあちょっと面白そうなのは確かだがな。」
というかやっぱりあるんだな、ダンジョンって。興味があるかないかと言われれば興味はありありなんだが今はアルラウネの里の方が優先だ。
「そっかじゃあまあいいや。また遊びに来てよ。」
そう言い残して風の精霊は笑いながらどこかへと飛んでいってしまった。最後まで自由なやつだったな。
「なんていうかすごい方でしたね。」
「すごいって言うか自由なやつだな。」
「はい、風の精霊様はいつもあんな感じです。」
いつもあんな感じなのかよ。苦労がしのばれるな。
「まあいいや。とりあえずハイエルフの集落の方へ行こうぜ。アルラウネの里の情報も聞かねえといけねえし。」
「わかりました。では案内します。」
とりあえずここにはもう用はないので集落の方へと向かおうとしたんだが・・・
「どうした、ミーゼ?」
ミーゼが俺の方をじっと見ながら全く動こうとしなかった。声をかけても何とも言えないような顔をしながら俺を見ている。
本当にどうしたんだ?
「いや、今まであんたの事をおかしい、おかしいって言ってたけど案外あんたって普通だったのね。」
「いや、あんなのと比べんじゃねえよ。というかミーゼ。ちょっと俺の認識についてとかそこんとこゆっくり話し合おうぜ。」
「嫌よ。あっ、違うわね。おかしい程度が違うだけで両方おかしいんだから精霊って皆どこかおかしいのかも。」
「おい、俺はおかしくねえだろ。なあカヤノ、ニーア。」
「あはは。」
「えっとそこまで付き合いが長くないので何とも・・・」
くっ、なんというか気遣いが俺の心をえぐってきやがる。特に変なことはしたつもりはねえんだが、何が悪かったんだ?
あれか?棒サイちゃんずに芸を仕込んだことか?それとも・・・
カヤノとミーゼからの思わぬダメージに考え込んでしまった俺は、いつの間にかカヤノに手を引かれたままハイエルフの集落のある里の中心部へと向かって歩いていたのだった。
「アルラウネの里ねぇ。」
せっかくの久しぶりの訪問者だったのでもっと遊ぼうと思っていた風の精霊だったが、訪問者の要求が思った以上にしょぼかったことにがっかりしていた。
風の精霊にとって遊ぶことは一番大切だがそれにもルールがある。求めるものが小さいのに試練を難しくしてもフェアじゃないしつまらないからだ。
そのルールの中で最大限からかって遊ぶ、それが楽しいのだから。
「うーん、どうしよっかなー。」
そういう意味で言えばアルラウネの里の情報なんてゴミのようなものだ。そう大して遠い場所にあるわけでもないから探そうと思えば自力で見つけることも出来るからだ。
大したことは出来ない。だからこそ風の精霊は頭を悩ましているのだ。久々の訪問者をそのまま情報を渡して帰すなんていう選択肢はそもそもない。
「あぁ、そっかアルラウネの里ね。あそこならあれがあるはずだし、案内するくらいなら釣り合いが取れるよね。うん、面白そう。」
眼下を歩いている4人を見ながら風の精霊がにししと笑う。その無邪気な笑顔の先に何があるのかは風の精霊以外まだ誰も知らなかった。
申し訳ありませんか今回は嘘予告でなくお知らせです。
先週辺りから角膜炎にかかってしまい病院にも行ったのですが症状が悪化しております。具体的に言うとこの文字を50ポイントの太字でかろうじて打っている状況です。
ストックを使ってなんとか更新しておりましたがついに切れてしまい現状でこれ以上の更新は実質不可能としか言いようがありません。治り次第更新を再開しますのでしばらくお待ちいただけると幸いです。
大変申し訳ありません。




