とりあえずハイエルフの里へ向かう
ハイエルフの里への道程は苦難の連続だった・・・と言いたいところだがそんなこともなく。
里間を物資の交換なんかするためにエルフが異動することもあるため、ちゃんと途中には休憩所があったり、寝る場所はツリーハウスが作られていたりと整備されていたからだ。もちろんそれがあると知っていなければこの広大なユーミルの樹海で見つけられるようなものじゃないので案内してもらわないとわからねえだろうがな。
ツリーハウスは男心をくすぐられるものがあったのだが、どう考えても俺のコテージの方が安全性も利便性も高かったので夜寝るときは俺のコテージ一択だったけどな。ニーアが滅茶苦茶喜んでたから俺もちょっと調子に乗ってニーア用の部屋まで作っちまったし。とは言え空きスペースを改造しただけだが。
で、夜に誰もいなくなったところで俺はツリーハウスを堪能したわけだが・・・うん、これはみんなでわいわいするから楽しいんであって、一人で過ごすならただの粗末な小屋だということを認識しただけだった。
いや確かに最初はすげーってなるんだぞ。だけどやはり慣れちまうし、木の上に家を作る技術はすごいとは思うが、それにしたって作りが豪勢なはずもなく何もないただの小屋なのだ。まあ考えてみたら当たり前なんだけどな。
魔物についてはやはり奥地に行くにしたがって強くなっているがそれでも今のところ対処に困るようなことはない。一応ニーアの妖精のウィンが魔物があまりいないルートを探ってくれているので遭遇する機会が今までに比べると比較的少ないっていうのもあるんだろうが、俺が足止めしてミーゼが魔法で攻撃、カヤノがその補助で大体対処できてしまっている。
ニーアも当初は手助けするつもりだったらしいが、危なげない俺たちの姿に今のところ静観しているようだ。
今のところ通過したエルフの里は6つ。どの里でも最初は警戒された。まあ奥地の方のエルフの里はほとんど外の人と交流がないようだから当たり前だ。
俺たちが里の外で待機して、その間にニーアが長のところまで事情を説明しに行くという感じで里に入る許可を待つわけだが、毎回長直々に俺たちを迎えに来るのが少し気まずい。
いや頭ではわかっているんだ。エルフ、というかまあ長はハイエルフなわけだが、精霊を信仰している奴らの前に精霊が来ましたとなれば、ある意味神様が降臨したようなもんだということなんだよな。わかっている、わかっているんだが気まずいもんは気まずい。俺自身偉い立場なんて縁がなかったからなおさらだ。
で、毎回なぜか宴会を開こうとするのを何とか説得し、持ちきれないほどの食料というかお供え物を渡されそうになるのを断り、必要な分だけをもらって砂糖をお返しに渡すというパターンを繰り返すんだがエルフってのはみんなこうなのか?奥地に行くほど対応が仰々しくなっていく気がしてハイエルフの里へと行くのがちょっと気後れするようになってきたんだが。まあ行かないわけにはいかねえんだけど。
「とりあえずそろそろ野営の準備をするか。日も落ちそうだし。」
「そうですね。」
「もう少しで家があるはずですからそこで薪をもらいましょう。」
「なんか悪い気がするけど、やっぱり楽よね。」
若干だが日が陰ってきたのでそう提案すれば、3人も少しほっとした様子でそれぞれ言葉を返してきた。さすがにこの2週間くらいユーミルの樹海で過ごしてきたから多少慣れたし、ウィンが偵察してくれるから魔物の不意打ちを受けることなんてほとんどないとはいえ緊張感を切らすってことは出来ないしな。まあだからこそ早めに野営の準備をするようにはしているんだが。
ニーアに案内され家、というかツリーハウスのことだが、の近くに俺のコテージが作れるだけのスペースを確保し、そこに早速コテージを建てる。
ニーアとミーゼがツリーハウスのある木の下から薪を適当に持ってきてコテージへと入っていった。荷物はもう運んでおいたからカヤノが整理しているだろうし、とりあえず周囲を回っての安全確認は棒サイちゃんずに任せるとして俺も夕食を作りにコテージに行くか。
夕食も終わり、明日に備えて3人がそれぞれの寝室に向かったので俺もコテージから出て警戒を続ける。まあ今のところ俺のコテージに危害を与えられそうな魔物は出てきたことがねえんだが、奥地に進むにつれて大型の魔物も出てくるようになってきたしな。
今のところ一番強かった魔物はアサシングリズリーだ。いきなり木の上から音もなくとびかかってきたときには一瞬肝を冷やした。幸いにもカヤノとニーアがすぐに気づいて声を上げたので土壁を作って対処できたが、木の上から音もなく襲い掛かってくる魔物がいるなんて想定外だった。いや、サルとかはいるかと思っていたがまさか3メートルはあろうかという熊が落ちてくるとは思わねえだろ。
とはいえヒヤッとしたのはあくまでカヤノたちがいたからであって俺の場合は最悪攻撃をくらっても問題はねえから夜の方が気楽なんだけどな。
棒サイちゃんずは相変わらず薬草なんかの採取と魔物のせん滅をしているのでそもそもここに魔物が来るのも最近は減っているんだけどな。
「・・・い。」
「んっ?」
「リク先生、聞こえますか?」
壁越しにくぐもった声が聞こえてくる。この声は・・・
「カヤノか。」
何か用でもあるのかと、地面を伸ばしてカヤノの部屋の壁に穴を開ける。そこには寝るためにローブも脱いで薄い服の上下だけを着たカヤノがいた。空いた穴から差し込む月明かりがカヤノの頭の蕾を優しく照らす。あまり日の目を見ることのないカヤノの頭の蕾だが順調に成長はしているようでもう少しで花開きそうな感じだ。出会った頃はまだまだ緑の蕾で茎も細かったんだけどな。
「どうした?眠れないのか?」
「えっと・・・はい。」
「そうか・・・」
カヤノの気持ちをすべてわかるなんて言うことは出来ねえ。俺には小さいころに親から引き離され一人で浮浪児のように街で生活するなんて言う波乱の人生の経験なんてものはねえしな。だが少なくとも想像することはできる。
明日にはハイエルフの里へと着く予定だ。まだまだアルラウネの里の情報が手に入ると確定したわけではないが今までのほぼ進展がなかった状況と比べれば大きく変わる。
母親に会いたいという希望を叶えるためにこんな辺境まで来たんだ。カヤノのそんな思いが生半可な物じゃないのは百も承知だ。だからこそ不安なんだろう。今までの雲をつかむような状況ではなく、手掛かりがあるかもしれないとわかってしまったからこそ。
ハイエルフの里に行って本当にアルラウネの里のことを教えてもらえるのか、教えてもらえたとして自分が行くことが出来るのか、行くことが出来たとして母親と会うことはできるのか、そして母親は自分を・・・
「大丈夫だ。俺が何とかしてやる。」
「リク先生。」
「俺の初めての友達で生徒だからな。大船に乗った気でいろ。」
実際のところこれからどうなるのかは俺にもわからん。ハイエルフの里は少なくとも宗教上の理由からむげにされるようなことはないとは思うが、アルラウネが精霊信仰だという話は聞いたことがない。奥地に引きこもっている種族だ。会ってくれるのかさえ不明だ。
考えれば考えるほど心配事は思いつく。だがそれをカヤノに見せるわけにもいかない。年長者として、そして先生としてカヤノの不安を取り除くのが俺の役目だ。
カヤノの頭を優しくなでる。気持ちよさそうに目を細めるカヤノの姿にその思いを強くする。
「・・・はいっ。」
そう答え、いつものように俺を見つめるカヤノの目は俺に全幅の信頼を置いていることがわかる。これを裏切るわけにはいかねえよ。「おやすみ。」と言って窓をふさいだ俺は空に浮かんだ月を見ながら話がうまく進むようにといるかもわからない神へと祈った。
エルフの里で様々な貢ぎ物を貰っていくリク一行。懇願され少しずつ衣装を変えていくリクたちだったがその事に意味があると気づいたのはすでにハイエルフの里へと着いた後だった。
次回:貢ぎ物の多いハイエルフの里
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




