とりあえずニーアに明かす
目的であったアルラウネの里への手がかりがあったことは喜ばしいことだがじゃあ行きましょうってすぐに行けるはずもなく俺たちは街へと戻っていた。
ニーアに聞いたところでは目的のハイエルフの里まではニーアのところの一の里と同じような里を経由しつつ大体2週間くらいかかるそうだ。案内はニーアがしてくれるそうなので道に迷う心配はねえんだが、さすがに食料やらなんやら必要なものが足りなさすぎる。
ニーアに言わせれば「精霊様の御一行なんですから途中の里で勝手に貢物をされますよ。」とのことだがさすがにそれはちょっと気が引ける。ただでさえユーミルの樹海の奥なんて言う食料が簡単に手に入るとは思えない場所へと行くのだ。食料を分けてもらうにしても、代わりに渡すものくらいは用意したいしな。
用意するのはもちろん砂糖だ。一の里よりもさらに手に入れづらいだろうからいらないってことはないだろうし、持ち運びも比較的楽だしな。確保は少し大変だが。
そんな感じで準備が完了したのはニーアにハイエルフの里へと連れていくと言われてから1週間経っていた。不足はないか十分確認したつもりだが、それでもやはり初めて行く場所である。何がしか買っておけばよかったと思うことはあるかもしれねえが、まあその場で臨機応変に対処するしかねえだろ。
大きなリュックを背負い歩き続けること2日。問題なく一の里へと到着した俺たちはニーアに歓迎されて長の家へと入った。もちろん今回バザーは無しだ。
「どうぞどうぞ、ゆっくりして、リク様。」
「お、おう。ってかニーア、前回も言ったが様はつけなくていいぞ。」
「うん、でも前回も言った通り信仰対象である精霊様を呼び捨てになんて出来ないよ。」
きらきらした目で俺を見つめてくるニーアにとてつもないやりにくさを感じる。俺自身が精霊って自覚があんまりねえし、むしろ人間の意識の方が強いからな。
とはいえ宗教上の理由を無理やりどうにかするってのも考え物だ。実際消防なんかにいると宗教上の理由で輸血できない人の命を助けるために輸血をして裁判沙汰って話も聞くしな。
助けた方からすればそうしなければ助からなかった、最善の方法がそれだったってことなんだが、助けられた方はその人の信仰が深ければ深いほど余計なお世話という話になる。まあ個人的には命が助かる方が大事だと思うがそれも俺の考えだからな。
この辺の話は考えているとブルーになるのでやめておこう。
「では、お茶を入れてきますー。」
いつも通りピューっと効果音が付きそうな感じで部屋を出て行ったニーアの姿を見送り、残ったカヤノとミーゼに視線を送れば、2人は無言でうなずき返してきた。
やっぱり決意は変わらねえようだな。
この1週間、いやこの里に来る間にも話したことだが、これから俺たちはニーアにカヤノとミーゼの種族について全部話すことに決めている。この一の里ではフードをかぶったままで過ごすことが出来ていたので正体がばれることはなかったが、ハイエルフの里ともなれば族長なんかの立場が上の人間と面会する機会もあるはずだ。その時にさすがにフードを被ったままというのは難しい。となればカヤノの正体は確実にばれるだろうからな。
とは言ってもこの方法はリスクが多すぎる。ニーアに知られることでこの里中に広がってしまい、それが漏れてエイトロンの街まで広がる可能性は十分にあるし、それ以前についていくことを拒否される可能性さえある。今までのダブルの嫌われようから考えると拒否される確率の方が高いかもしれねえな。
せっかくいい関係が築けてきているのに、それが無どころかマイナスになり、下手をすればカヤノとミーゼはこの一の里から追い出されて、2度と入れなくなってしまうことだってあるかもしれないのだ。
俺は十分にその可能性を説明したし、カヤノもそれを理解している。それでもカヤノの決意は固かった。カヤノがそう決断したならとミーゼもそれに同意した。別にミーゼは正体をばらす必要なんてねえんだがな。律儀な奴だ。
当の2人が腹をくくっているのに俺がうだうだいうのも違うだろと一応納得はしたのだが心配なものは心配だ。これが親心ってやつなのかもしれねえな。結婚さえしてねえけど。
「お待たせしました。」
そんな考えにふけっているとニーアがお茶を持って戻ってきた。もちろん俺の分はないので3人分だ。お茶はないが小さな魔石がいくつか同じ盆にのせられているところに今までにない気遣いを感じる。
いつも通りにお茶を用意していくニーアをよそにもう一度カヤノとミーゼへと視線を送る。決意は・・・変わらねえよな。
「はい、これはリク様の分です。魔石なら食べることが出来るという話・・・でしたよね?」
そう言って俺の前に魔石を置くニーアに少し微笑みながら腹の中で覚悟を決める。
「ありがとな。さっそくいただきたいところだが、ちょっとその前に伝えたいことがあってな。まあ伝えたいっていうか確認したいんだが・・・」
「何ですか?」
「ニーアは、というかエルフはハーフの存在についてどう考えている?」
俺の口から出たのはそんな言葉だった。カヤノとミーゼの非難めいた視線が俺に突き刺さる。いや、確かにニーアに正体を明かすとは言ったが何というか話のきっかけが無かったんだよ。いきなり本命に行って爆死するのが怖かったという考えがなかったわけでもねえから俺的にはいい考えだと思ったんだが、肩透かしを食らったように感じたんだろうな。
とは言ってもこの話題もかなり突然だ。ニーアも意味がわからないといった様子で首をかしげていたが、精霊の質問に答えないというわけにもいかないと思ったのか「うーん、うーん。」と真剣に考えだした。
「そうですね~。個人的には特に何も。エルフ全体としてはまあ普通に忌避している人が多いと思います。」
「なんでニーアはそうじゃないんだ?」
「だって会って話してみても普通の人と変わりませんし。普通の人でも悪いことをする人は嫌いですし、ハーフだとしてもカヤノやミーゼのようにいい人もいるってこの里に来て知ったし。」
「・・・カヤノ、ミーゼ、ちょっと集合。」
不思議そうに俺たちを見るニーアにちょっと待ってろと手を開いて合図をし、カヤノとミーゼを呼び寄せる。その理由は言うまでもない。
「おい、バレバレじゃねえか!」
「何ででしょう?」
「知らないわよ。でも好都合じゃない。悪い印象ではないんだし。」
何というか散々話し合って覚悟を決めたことが完全に相手に知られていたという間抜けさに3人とも肩を落とす。
とは言ってもこのまま3人だけで額を突き合わせていても全く意味がないので解散してニーアの方を向き直った。
「一応ハイエルフの里に行く前にニーアにカヤノとミーゼがハーフだということを伝えておこうと思ったんだが、どうして知ってたんだ?」
「ウィンのおかげ。」
その言葉に応えるように風の妖精のウィンがニーアの肩に降り立ち、そのウィンの頭を優しくニーアが撫でる。
「ウィンにはこの里に来た人たちを監視してもらっているんです。たまにエルフを誘拐しようと冒険者に化けて悪者が来ることもありますし。とは言ってもずっとって訳じゃあありませんけど。カヤノとミーゼがハーフだって知ったのはそういった理由です。ごめんなさい。」
「いや、事情はわかるしな。出来るならするのが長の仕事だろ。」
「ありがとう。」
必要のない感謝の言葉に少しむずがゆくなりながらも、特に問題なくハイエルフの里へ行くことが出来そうなことにちょっと安堵する。最悪俺一人で案内してもらって、後日にその道を通ってカヤノたちを連れていく気だったからな。
ニーアには既にカヤノたちがダブルであることがわかっていたのに里のエルフたちに広がっていないところを見ると情報が漏れる可能性も低いしな。
それにしても誘拐か。ユーミルの樹海に住んでいるエルフの里で誘拐しようなんて無謀もいいところだと思うんだが、やっぱりばかなことを考える奴はいるんだな。
「そういえばカヤノやミーゼみたいにって言ってたが、もしかして他にもいるのか?」
「うん。私が知っているだけで今は他に2人いるよ。ここの長になってからだと30人くらいかな。いい人たちだったよ。」
「意外に多いな。」
「ハーフだと隠そうとするとどうしても定住は難しいし、冒険者になるハーフは多いみたいだね。エイトロンはその辺り厳しくないし。」
「確かにな。」
魔物も冒険者も多い土地柄ゆえか、エイトロンの門番の冒険者に対するチェックは厳しくない。厳しくして冒険者が減っては大問題になってしまうし、もしチェックをすり抜けた奴が悪いことをしようとしても対処できると考えているんだろうな。
冒険者も兵士も掃いて捨てるほどいるしな。
ニーアの言葉にカヤノとミーゼも顔を見合わせて驚いている。
「えっと、ちなみにどんな種族の・・・」
興味をひかれたのかカヤノが質問をしだし、それにニーアが答えていく。そんな様子を眺めながら俺は目の前の魔石を口の中へと放り込んでいった。
お茶、冷めちまうぞ。
ついに隠していた正体がばれてしまったカヤノとミーゼ。2人を狙った賞金稼ぎたちが続々と集まる中、リクも2人を助けるべく行動を開始し始めていた。
次回:マネキン?いえ兵馬俑です
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




