とりあえずニーアに聞いてみる
「唐突だねー。」
キョトンとした顔で俺を見返すニーアのその言葉に心の中でガッツポーズする。知らないなら「知らない。」だけで終わっちまう話だからな。森の奥地にも集落があるエルフなら何か知っているかもしれんと慎重に動いていたかいがあったってもんだ。
「いや、まあ唐突っちゃあ唐突なんだが。元々俺たちがこのユーミルの樹海に来た理由がアルラウネの里を訪ねるためだったからな。」
「じゃあなんで今まで何も言わなかったの?」
本当にわからないように首をかしげながら俺を見上げるニーアの姿に、頭を撫でてやりたくなる誘惑にかられながらもそこはぐっと我慢する。行き場を失った手を軽く腕組みしながらその質問に答える。
「アルラウネ自身が隠れ住んでいるみてえだしな。その場所を知っているってことはある程度付き合いがあるんだろうし、よく知りもしない奴に教えてほしいと言われて教えることはねえだろ。多少は信頼関係が出来ねえとな。」
「ふーん、そっか。えーっとちょっと待ってね。」
俺の答えを聞いたニーアはそう言うとくるりと後ろを向いて少し離れてからしゃがんだ。ぶつぶつと何か独り言を言っているみたいだが大丈夫か?今まで見たことのないニーアの行動に少しの不安がよぎる。
「ちょっとリク。そういう大事なことは相談してから言いなさいよ。」
「悪いな。友好パラメーターが上がった音が聞こえたから、つい、な。」
「そんなことがわかるんですか?さすが先生です。」
「そんなわけないでしょ。いつもの冗談よ。あれっ、冗談よね。何か言いなさいよ、リク。」
「さあなあ。ちなみにミーゼ、友好パラメーターの他に恋愛パラメーターってのもあるんだが上げるのに苦労しているようだな。このままではカヤノルートは夢のまた夢だぞ。」
「なっ、うっ。」
「ちなみにカヤノルートに入っても俺の屍を越えて行けイベントが発生するから強さの強化も必須だからな。」
俺の言っていることが本当かどうかわからず顔を赤くして混乱し始めたミーゼの様子にごまかせたことを確信する。そんなものが見えるはずがねえだろと思わないでもないが、魔法なんかが普通にある世界なんだ。そんな特殊な能力を持っている奴がいないと言い切れねえだろうしな。
しかしそういったパラメーターが見える能力は便利そうではあるんだが実際使えるかどうかは微妙だよな。ゲームみたいに選択肢が出るわけじゃあねえし、相手に会わせるばかりの奴なんて別の言い方をすれば自分がないのと同じだし。
やっぱ最後は魅力ある人柄かが大事だろ。
それにしてもやっぱりミーゼは本気でカヤノを狙っているらしいな。
きっかけは裸を見られたから結婚してもらうと言う何て言うか良家のお嬢様のようなというか一昔前のギャルゲーのヒロインのような感じだったが、カヤノがいまいち恋愛と言うものを理解していなかったので保留になったんだ。
それからというもの、料理を勉強したり、一緒に買い物に行ったりと細々と好かれるための努力をしてんだがなんというかじれったい。そういった好感度自体はもう充分だからいかに異性として意識してもらえるかに重点を置くべきだと思うんだかな。
ミーゼはいい奴だし、カヤノを預けるならミーゼが良いと俺も内心思っている。だが、大事なカヤノを簡単に婿に出す気は更々無いしな。邪魔はしねえがアドバイスもしてやんねえよ。
「て言うかそんな能力絶対にな・・・」
「提案があります!」
ミーゼが何か言おうとしたのを立ち上がって真っ直ぐに右手を上げたニーアの声が遮る。ナイスタイミングだ。
ミーゼをこっそりと見れば、少し納得のいかないような顔をしているがそのままニーアの話を聞く体勢になっている。うむ、このままうやむやにしてしまおう。
「はい、ニーアくん。」
「質問に答える代わりにこちらの質問に答えてもらうことは可能でしょうか?」
「答えられる範囲ならな。」
俺の回答に再びニーアが思い悩む。確かにずるい言い方だからな。しかしこうでも言っておかないとまずいのも確かだ。カヤノやミーゼがダブルだと言うことがわかってしまうような質問には答えることが出来ない。それは絶対だ。
うーん、うーんと悩んでいるニーアの様子にちょっと可哀想になり妥協案を提示してみる。
「とりあえず聞いてみたいことを言ってみろよ。答えられそうならそれで解決だし、駄目なら別の条件を考えれば良いだろ。」
「そ、そうだよね。じゃあ、いくよ。」
大きく深呼吸してこちらを見るその真剣な姿にいやがおうにも緊張感が高まる。そしてゆっくりとニーアの口が開いた。
「リクってもしかして精霊?」
「そうだぞ。」
「えっ!?」
聞かれたことに普通に答えたら何故か驚かれたでござるの巻。
そんな冗談を言いたくなるほど、ニーアは驚いた表情で俺を見つめたまま動かなくなってしまった。おーい、と目の前で手を振ってみたんだが全く反応しねえな。
「大丈夫でしょうか?」
「もうちょっとオブラートに教えた方が良かったんじゃないの?」
「いや、どうやってだよ。俺には棒サイちゃんずをラインダンスさせるくらいしか思いつかねえぞ!」
「何でそうなるのよ!というか出来るの!?」
「夜に寝る必要の無い俺たちを甘く見るなよ。見せつけろ、1号、2号、3号!」
俺の呼び掛けに応じて地面から飛び出してくる1号と3号。2号もカヤノの義手からもとの姿へと戻り、一直線に並ぶ。そして軽く一礼をするとシンクロした動きでダンスを踊っていく。
初めはゆっくりだったその動きは次第に速く激しくなっていき、それでもなおそのシンクロが乱れることはない。良いぞ!
だんっ、という音とともに棒サイちゃんずの動きが止まる。そして皆で手を繋ぎこちらに向かって一礼。完璧だ!
「ブラーボ、ブラーボ!!」
「すごいです。」
練習以上の演技を見せた棒サイちゃんずに俺が称賛を贈れば、カヤノも目を輝かせて手を叩こうとし、義手が無いことに気づいて左手で太ももを叩いて感動を表す。
互いの健闘を称えあうかのように肩を組んでいる棒サイちゃんずの姿に目から汁が出そうになる。やったな、お前ら!
自分達には無理だと思っていた。
その致命的なまでの手足の短さ。夜という過酷な練習環境。発表の場があるのかさえわからないそのモチベーションの上がるはずの無い状況で努力してきたのだ。
お前たちは最高だ!
「あんた、何教えてんのよ。」
ミーゼの冷めた声が聞こえた気がしたが今の俺の感動を止めることなど出来るはずもなかった。
衝撃のデビューを果たした棒サイちゃんず。落ちこぼればかりだったはずのダンス部の活躍に称賛を贈る人々。しかし、その行為は部を見捨て去っていったコーチの顔に泥を塗ったと同義だった。元コーチからの刺客が彼らを襲う。
次回:ブレイクダンス対決!?
お楽しみに。あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




