とりあえずウルフェルを追う
突然の高熱でこの三日ダウンしております。
回復魔法がほしい。あっ、風邪は治せないんだった。orz
うぁあ~、なんか、なんかもうちょっと返しようがあったんじゃねえか。その場で返す言葉が見つからなくて見送っちまったが、あれは完全に決意表明だ。
しかしどんなに俺に好意を向けたとしてもそれが叶う可能性はウルフェルが男と言う時点でほぼ無い。まあ同性カップルもいないわけじゃねえからゼロとは言わねえが、それに等しいはずだ。
そんな超絶に低い可能性のためにあいつの人生を潰させちまうってのが嫌だ。好意に応えることは出来ねえが、あいつ自身は馬鹿で、オープンMで、どうしようもない奴ではあるが・・・考えてみたら本当にどうしようもない奴だな。だが、悪い奴じゃねえんだよな。
「なに身悶えてんのよ。」
「大丈夫ですか、リク先生?」
「あ、ああ。まあ気にすんな。」
いつの間にか起きだしていた2人に疑惑の目を向けられながらとりあえずとりつくろう。
仕方ねえ。とりあえず俺がウルフェルに惚れる可能性なんて無いってことをわかるまで伝えるしかねえな。それが真剣に告白してくれたあいつへの誠意ってもんだ。
ちょっと陰鬱になりそうな気持ちを何とか切り替え、カヤノたちと一緒に長の家の客間を出る。
でもやっぱり会うのは気まずいな。
「出ていっただと!?」
「兄貴は自分を磨き直すんだって言ってました。」
「危険な道だから家族のいる俺たちはここに残るように言い残して。」
男泣きに泣いているウルフェルの仲間2人を見ながら思わず舌打ちする。
くそっ、あの馬鹿。勝手に出ていきやがって。
出ていったのは昨日の夜。俺が長の家に入ってすぐのことらしい。つまりあの言葉は俺への最後の挨拶だったわけだ。その言葉に俺は何も返せなかった。あいつがどんな想いでその言葉を口にしていたのかそれを理解できなかった。
馬鹿なのは、俺だ。
今から追ってもウルフェルは見つからねえだろう。この森に関してはあいつの方が知り尽くしているし、強くなると宣言してひっそりと出ていったあいつが俺たちが暮らしているエイトロンの街にとどまることはねえだろう。いや、旅をしようとすればある程度の時間がかかるはず。今から追えば、間に合うか?
「帰るぞ?」
「えっ?」
俺の言葉にミーゼが驚く。カヤノはただ黙ってうなずいてミーゼの手を引きながら荷物を取りに部屋へと戻っていった。
「帰ってあの馬鹿をぶん殴る。」
姉御!と言いながら近寄ってくる馬鹿の顔を思い出しながら俺も2人の後を追って部屋へと戻っていった。
森の中をがさがさとかき分けながら走っていく。
「あの木に着いたら少し左の方です。」
「了解!」
1回しか通っていない道だが、カヤノの記憶力は確かだ。小さいころから森で暮らしていたカヤノは森の怖さを良く知っている。自分の位置を把握する重要性を何より知っているのだ。
バルダックの街で薬草採取をしていたころ、カヤノに聞いてみたことがある。どうやったら森の中でそんなに簡単に位置を把握できるのかと。
その俺の言葉に対するカヤノの答えはこうだ。
「だって、木って同じものがないんですよ。」
当然のように答えたカヤノの言葉に、その当時は頭を抱えたもんだ。一応俺も特徴のある木を覚えて同じようなことが出来るようにはなったが、それでもカヤノには全くかなわなかった。アルラウネだからか?いや、単純にカヤノの力の気がするな。
そして今、それが何より頼もしい。
体が揺れないように注意しながらそれでも全力で走る。大地を蹴る自分の足が森の凸凹した地面を均していく。そうだ、俺にとっては走りずらい森の中なんて関係ねえ。
「リク、少し休憩したら?」
「俺は大丈夫だ。疲れたか?」
「疲れたか、疲れてないかって言えば疲れては無いんだけどね。」
「ミーゼさん。リク先生のやりたいようにさせてあげましょう。リク先生がこんなに必死になるってことはきっと大切なことなんです。」
「はぁ、わかったわよ。」
俺の肩の上でカヤノとミーゼが言いあっているのを聞きながら、そのまま森を疾走する。俺はそんなに必死になってるのか?あの馬鹿のために?
自分の顔が赤くなるのがなんとなくわかり、ぶんぶんと顔を振る。
いや、好きとかじゃねえし。というか俺が好きなのは俺をビシバシといじめてくれるS嬢であって、あんな変態のオープンMは願い下げだ。そう俺は黙って出ていこうとしたあの馬鹿を一発殴るために頑張っているだけだ。
「あんた、何赤くなってんのよ。ははん、もしかして・・・」
「何を想像したのか知らんが、違うからな。」
訳知り顔で俺を見下ろすミーゼのにやけた顔にかなりイラッと来たのでこっそりと走るルートをずらして木の枝にミーゼの顔を突っ込ませる。葉っぱのこすれるかさかさと言う音とミーゼの短い悲鳴が頭上に響いた。
「アー、シマッタ。チョットフラツイチマッタ。スマン、ミーゼ。」
「何で片言なのよ!あんた全然そんなこと思ってないでしょ!!」
「当たり前だろ。」
「なんで当たり前なのよ!!」
俺の頭をぺしぺしと殴るミーゼをカヤノがなだめるのを聞きながら、2人をかついだまま前進する。最初はいつも通りそれぞれ歩いて進んでいたが、俺と違ってカヤノとミーゼの体力は無限じゃない。疲労もするから休憩が必要なのだ。
獣人であるウルフェルは夜目が効くらしいし、森にも詳しい。行きは初めての俺たちに気を使って道の見分け方なんかを教えながらゆっくりと歩いていたが、ウルフェル単独なら1日かからずに森を出ることが出来るだろう。このままでは間に合わない。そう決断するのに長い時はかからなかった。
素直に了承したカヤノとちょっと嫌がるミーゼを半ば無理やりに肩にのせ、時たま襲ってくる魔物は基本的には無視、正面から突っ込んでくる奴だけを穴に落として埋めていく。面倒なので地面を固めたりはしていないので潜って出てくるかもしれんが問題ない。
全速力で走ったおかげで、俺たちがユーミルの樹海を脱出したのはまだ日の高い、午後2時を回る手前だった。
自分自身で歩いていないし、俺自身も揺れないように気を付けてはいたが、カヤノもミーゼも疲労の色が濃い。しかし俺が2人を見るとコクリとうなずいてくれた。
俺は良い仲間を持った。
ここからエイトロンの街までは歩いて20分。走れば10分を余裕で切るだろう。あんまり変わらねえかもしれねえがここまで無理したんだ。最後の最後で気を抜くようなことはしない。
程なくして門が見えてきた。ここまで来れば大丈夫だろ、とカヤノとミーゼをおろす。少し足元がふらついていたが問題は無いようだ。
そして門に目をやる。そこに最近見慣れた青い毛の獣人が出てこようとしていたことに思わず口がにやつく。天は俺に味方したようだな。
「あ、ちょっと・・・」
ミーゼが何かを言いかけたが、それを聞かずに一直線に走り出す。
どんどんその姿が大きくなっていく。今の感情をなんて表せばいいのかわからんが・・・
「あ、姉御!!どうしてここに!!」
ウルフェルが俺を見つけたのか驚きで目を見開いている。
表せばいいのかわからんが・・・一発殴らせろ!
「この馬鹿野郎が!!」
「ぶべっ。」
ずさささーと言う音を響かせながらウルフェルが転がっていく。いきなり近づいてきて、ウルフェルを殴り飛ばした俺を取り押さえようと門番が掴みかかってきたがそんなのは関係ねえ。
門番の男たちを引きずりながら地面に転がったままこちらを見上げているウルフェルの元へと歩いていく。そしてその腹へと足を乗せぐりぐりと踏みつける。
「勝手に決意して勝手に出ていくんじゃねえよ、この馬鹿が!」
「うわっ、はっ。」
「気持ち良くなってんじゃねえ!!」
こんな状況なのに嬉しそうに嬌声を上げ始めたウルフェルの様子に、門番たちの冷たい視線が刺さる。そしてなぜか俺に向けられる苦労をねぎらうような目。
その視線に耐え切れず足をどけてウルフェルを無理やり立ち上げる。門番ももう大丈夫と思ったのか離れていった。
「あ、姉御!」
「どうして黙って出ていった?」
「え、いや、そのっ・・・。」
「どうしてだ?」
有無を言わせぬ俺の態度にウルフェルの目が泳ぐ。そして何かに気づいたようにバッと俺の方を向いた。
「はっ、まさか姉御!俺のことを心配して!!」
その嬉しそうな顔を掴んできりきりと力を込めていく。
「黙って出ていくなってんだ。俺がお前を好きになるなんて万に1つもねえが、勝手に出てかれたら後味が悪いだろうが!」
「うおぉぉ。出ちゃう、出ちゃうっす。鼻の穴から出ちゃいけないものが出ちゃうっす。」
しばらくうめいていたウルフェルだったが次第に静かになってきたのでその手を放す。痛みにその顔をしかめながらもどこか嬉しそうな様子にこいつの業の深さを改めて知る。
しばらくして落ち着いたのか、ウルフェルが立ち上がり俺を見た。
「出ていくって何のことっすか?」
「はっ?お前、強くなるために街を出るんじゃねえのか?だからここにいるんじゃ?」
ウルフェルの言葉の意味が分からない。ウルフェルも俺の言葉の意味が分かっていないようで首をかしげている。
「強くなるとは言ったっすが、街を出るとは言ってないっすよ。」
「はぁ?じゃあなんで街から出ていこうとしてるんだよ?」
「姉御、冷静になってくださいっす。街を出るならこっちじゃなくって逆から出るっすよ。」
そういえばそうだ。こちらはユーミルの樹海へと行くための門。街を出ていくつもりなら俺たちが街に来た時と同じ門から出ていくはずだ。そしてそれはこの門じゃない。
「強くなるためにはユーミルの樹海は良いところっすし、姉御もいるっすから街から出ていくわけないじゃないっすか。」
「ってことは?」
「姉御の勘違いっすね。いやー、普段は男っぽく振る舞ってもやっぱり姉御も・・・」
余計なことを言おうとしやがったウルフェルの顎を右45度からのアッパーが襲う。綺麗な放物線を描きながら地面に落ちたウルフェルが気絶している。呼吸も正常だし問題はねえはずだ。
パタパタと言う足音に振り向くとそこにはカヤノとミーゼがいた。
「帰るぞ!」
「えっ、あの・・・」
「放っておいていいの?」
「大丈夫だ。こいつなら死んでも帰ってくる。」
気絶したウルフェルを心配そうに見つめるカヤノの手を引きながら門番に軽く謝って街へと入る。はぁ、完全に無駄足だったな。
朝食をパンへと変えた甲斐があり、曲がり角で意中の彼に右ストレートをおみまいすることに成功したリク。あらっ、気絶しちゃったみたい。リクは治療のため仕方なく自宅へと連れ帰るのだった。
次回:それは拉致監禁と言います
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




