とりあえず長と会う
いろんな意味で赤くなったミーゼをなだめつつ俺たちはログハウスの中へと入った。その玄関は圧迫感がない比較的広めの空間になっており、いくつかの部屋に続くであろう扉と、ニ階へと続く階段があった。
俺たちは少女の後について一番手前の一室へと入る。そこはテーブルと椅子が置かれ、この村の特産品だろうか幾何学的な文様の描かれた布がその上にかけられていた。調度品などはほとんどなくちょっと雑風景に見えるな。
「どうぞ、どうぞ。今お茶を持ってきますから座っていてくださいねー。」
「あ、お構い・・・」
言うが早いか少女はピューっと効果音がつきそうなほどの速さで部屋を出ていってしまう。言葉を途中で止めてしまったカヤノもちょっと苦笑している。
「なんていうか面白い奴だな。」
「そうですね。」
「面白いっていうか落ち着きがないって言うのよ。ああいうのは。」
既に鼻の赤みは落ち着いてきているが、先ほどのドアにぶつかった衝撃を思い出したのかミーゼが顔をしかめながら何気なく鼻を触る。ちょっと俺をジト目で見るのをやめねえか?
無言の圧力に負けて、小さくため息をつきながらミーゼを見る。
「俺は悪くねえぞ。なんとなく嫌な予感がしただけだし。」
「・・・わかってるわよ。でもカヤノ君には注意しておいて私は放置ってどういうこと!?」
「違うぞ、ミーゼ。」
ミーゼの両肩をがしっと掴み、真剣な表情で見つめる。突然の俺の行動に少しミーゼの顔が赤くなった。
「俺はお前なら何があっても対処できると信頼していたから何も言わなかったんだ。残念ながら不幸な結果になってしまったがな。」
「本音は?」
「ミーゼなら爆発に巻き込まれても頭をアフロにするだけで出てきそうだと思っている。」
「そんな訳ないでしょうが!?」
顔を別の意味で赤くして俺の手をミーゼが振り払う。相変わらずいいリアクションしやがるぜ。漫才でてっぺん目指してみねえか?
「目指さないわよ!」
おっと心の声が漏れていたようだ。
「さっきからダダ漏れよ。わざとでしょう!」
「ああ。当たり前だろ。」
「むきー!!」
「うわぁ、むきーっていう人初めて見た。ちょっと引くな。」
「そこで引くんじゃないわよ!」
肩で息をしながら反論してくるミーゼに微笑みを返す。
「だからと言って優しい目で見るんじゃないわよ!」
「ふぅ、文句の多い奴だ。」
「そうさせてるのはあんたでしょうが!」
わざとらしく肩をすくめるといい加減怒り疲れたのかミーゼが体力を抜いて椅子にもたれかかる。他人の家で行儀が悪いな。
「・・・」
おっとさすがにこれ以上は無理みてえだな。コミュニケーションの時間も終了か。
こんなやり取りも一緒に旅していれば何度もあるからカヤノもちょっとハラハラしながらも見守るようになっている。最初の頃は本気で止めにかかっていたからな。思えば成長したもんだ。うむ。
ちょっと感慨にふけりつつ少女を待っているとドアの外から声がかかった。
「えーっと、すみませーん。ドアを開けてくれませんかー。両手が塞がってて開けれないんです。」
カヤノとミーゼと顔を見合わせるが2人ともちょっと苦笑している。おそらく俺もそうだろう。なんて言うかそそっかしい奴だ。
俺はドアを開けるために椅子から立ち上がった。
「えっとハーブティーになります。一応エルフの里でよく飲まれているものです。苦手だったら言ってくださいね。」
カヤノとミーゼが口をつける。特に苦手と言う訳じゃねえみたいだな。俺は当然のごとく飲まねえが。味しねえし、吸収できねえしな。
少女も俺たちの対面に座り、自分用のコップに入れたハーブティーをコクコクと美味しそうに飲んでいる。そしてそのコップを机へ置いた。
「そういえば自己紹介がまだでした。一応この一の里の長のニリアルーアと言います。ニーアって呼んでください。」
「よろしくな、ニーア。俺はリク。こっちがカヤノでこっちがミーゼだ。」
「カヤノです。」
「ミルネーゼよ。紹介するならちゃんと紹介しなさいよ。」
そういえばそんな名前だったな。いつもミーゼとしか呼んでねえから頭の引き出しのどっか奥の方で眠ってたわ。よし、一応もう一度覚えておこう。たぶんあんまり使わねえから忘れるだろうけど。
・・・んっ?
俺と同じところに気づいたのかカヤノとミーゼが信じられないものを見るかのようにニーアを見ている。
「長?」
「はい。」
「ニーアが?」
「そうですよ。」
「何で?」
「何でと言われても・・・。あっ、一応私がハイエルフだからです。」
「「「はぁ。」」」
胸を張ってハイエルフとのたまうニーアだったが全く偉そうには見えない。微笑ましい気持ちになるだけだ。
「まあ赴任してまだ10年しか経っていないから新米の長なんですけどね。」
「いや、それ新米って言わねえからな。」
すかさず突っ込むがニーアは何がおかしいのかわからないようで首をかしげて見返してきた。もしかして本気でそう思ってんのか。ハイエルフにとって10年なんて時間は短いってことか。
10年か・・・。んっ、赴任して10年ってことは・・・
「ちょっと待て。ニーア、お前何歳なんだ。」
「えっとたぶん100歳から200歳くらいですよ。」
「年上・・・」
「ハイエルフってすごいんですね。」
カヤノもミーゼもその事実にかなり驚いているようだ。そしてニーア、年齢がアバウトすぎるだろ。突っこんで聞くと面倒な気がするから突っ込まねえが。
「えっと年上だし長だから敬語を使った方がよろしいですか?」
一応気を使ってみる。全くそうは見えないが、この里で一番偉い存在みたいだし年齢も俺たちよりはるかに上だしな。
そんな俺に向かって無邪気にほほ笑みながらニーアは首を横に振った。
「いいです、いいです。まだ子供ですし、お飾りの長みたいなものですから。里のみんなもニーアちゃんって呼んでますし。」
「そうか、それならありがたく。」
しかし、子供とはな。外見とはマッチしてんだが、年齢を聞いた後だと少し違和感があるな。
「それよりも宿とバザーの話ですね。宿はこの家の2階の部屋が空いていますので好きに使ってください。バザーは明日の朝からこの家の前で行います。後はえっと、何か言うことありましたっけ?」
「いや、俺たちに聞かれても。」
うーん、うーんと頭を悩ませている様子は可愛らしいが、本当にニーアが長で大丈夫なのか?不安が半端ないんだが。
しばらくして結局何もないと言ったニーアにお茶と宿の礼を言い、俺たちは部屋を出て2階の部屋へと向かった。
使っていいと言われた2階の部屋はいくつかあり、それぞれ別の部屋に泊まると言うことも出来たんだが、わざわざ別の部屋を使って掃除の手間を増やすのもなんだと言うことで1つの部屋に3人で泊まることにした。
広さは十分にあったし、シングルのベッドが2つ用意されているので俺たちには十分だ。俺は寝ねえしな。
荷物を置いてほっと一息つく。
「それにしても変わった里よね。」
「そうですね。面白いですよね。」
「まあな。今まで通ってきたのが普通の人間の街だったから余計にそう思うのかも知れねえがな。」
各々の感想はほぼ一致しているようだ。
外観に驚き、中の普通さに別の意味で驚き、最後のニーアの長宣言でさらに驚いた。うん、驚いてばっかだな。
まあこういった驚きが初めての場所に行く楽しみかもしれねえが。
「今日は時間も遅いし、里の見学はバザーの後だな。」
「そうね。」
窓の外をミーゼが眺める。辺りは既に薄暗くなり始めており今から出かけるのには向かない。こっちの世界には電灯なんてものはねえから夜は基本的に寝るだけだしな。
「売れるといいですね。」
カヤノに「そうだな。」と返しながら俺は静かに暗くなっていく里の風景を目に焼き付けていた。
合法ロリの登場に異世界を再認識するリク。しかし、それを越える衝撃が襲いかかってくることをまだ知るよしもなかった。
次回:非合法お婆
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




