とりあえずエルフの里に着く
魔物に襲われたことを除けば特に問題なく夜を過ごし、朝食を食べ終えると俺たちは結構な量の薬草を持ってエルフの里へと向かった。やはりユーミルの樹海は豊かなようだ。
道中、たびたび魔物に襲われるがミーゼの魔法や俺の攻撃で迎撃していった。まだまだこの森に入ってからの日数が短いから対応できているが、長期間森に入ろうと考えるなら結構厳しいと思う。休みたいときに休めないっていうのは体力を削るからな。体力が落ちれば集中力が落ち、思わぬミスをしちまうもんだ。
でもそう考えるとなんでエルフや獣人の里は森の中にあるんだろうな?森の外に出れば魔物に襲われる可能性なんてかなり減るのに。この辺りの魔物に襲われるなんて問題ないくらい強いのか?
そんなことを考えながら時折休憩をはさんで歩き続けること7時間ほど。俺たちの目の前にはエルフの里と思われるものがあった。
「すごいな。」
「そうですね。」
「これ、どうやって作ったのかしらね。」
森の中に突然現れたエルフの里は普通ではなかった。まあ樹海の中で生活している段階で普通のはずがねえんだけどな。
何より俺たちを驚かせたのはその外観だ。魔物の侵入を防ぐために俺が作った塀なり、普通の街の防壁なりがあることは俺たちも予想していた。しかしそれがちょっと変わっていたのだ。
俺たちの目の前にある防壁は全て木製だ。いや正確に言うならば木だ。しかも伐採されたものじゃなく、今も地面に生えているものだ。15メートルほどのいくつもの大樹がまるで融合でもしているかのようにくっつきあい壁になっていた。
ぽかんと口を開けてそれを見ていた俺たちに入り口に立っていた2人のエルフのうちの1人がちょっと笑いながらこちらへと近づいてきた。
「こんにちは、初めての人だね。ギルドの依頼かな?」
「あ、ああ。依頼書はこの通りだ。一応売る物も持ってきたんだがどうすればいい?」
「それは嬉しいね。とりあえずギルドカードを貸してくれるかい?手続きが終わったら入っていいよ。」
カヤノとミーゼからギルドカードを受け取り門番のエルフへと渡すと、その門番は里の中へと入っていった。と言うか荷物検査とかねえんだな。
街に入る時は軽くではあるが荷物のチェックを受けるのが普通だ。危険なものを持ち込む可能性を考えたら当たり前だ。とは言っても魔物が存在する世界なので、剣などの武器は普通に持っているし、荷物検査も空港のチェックのようにしっかりしたもんじゃない。俺たちが個人で旅しているからかも知れねえが、あんな適当な検査で本当に発見できんのかよっていうくらいの物だ。まるで検査しましたっていう実績だけが欲しいようなもんだな。
とは言えノーチェックってことは今までなかったんだが・・・。
っと門番が戻ってきたな。
「うん、大丈夫。交易品があるって話なら中央の大きな建物に行くといいよ。そこで売る場所と宿を紹介してくれるはずさ。」
門番に軽く礼を言い木で作られた門をくぐる。
木で囲まれているので里の中は薄暗いのかと思ったがそんなことは無かった。不思議に思って防壁になっている木を見て理解した。木の上の方が外側に向けてノの字を描いているのだ。エルフの里の上空には日光を遮る物が何もなく、森の中とは思えないほどの明るかったのだ。
「すごい技術だな。いや、技術って言っていいのか知らんが。」
「やっぱり森に棲んでいるんだからそういったことが得意なんじゃない?」
「そうなんですか。」
ミーゼの言葉にカヤノが感心したようにうなずいている。それを見てミーゼの額から汗が出ているような気がしないでもないがとりあえず放置だ。合っているといいな、ミーゼ。違ったら責任を持ってカヤノの認識を直せよ。
外とは違いちゃんとした道を通って進んでいく。外観がすごかったので内も木を変形させたような家とか、木の上に家があるとか、ちょっと外してキノコの家とかを期待していたんだがそれは外れた。エルフの家は丸太で作ったログハウスのようだ。
高床式だし、しっかりと隙間なく作られているその建築技術はすごいと思うんだが、何と言うかがっかり感が半端ない。
通りを歩いていて見かけるエルフも、何と言うか普通だ。
俺のイメージが悪いのかもしれんが、俺の中ではハープを弾いていたり、弓矢の練習をしていたりといったこれぞエルフと言った先入観があったんだ。しかし通りから見かけるのは洗濯物を取り込んでいたり、道端で井戸端会議をしていたりと言った普通の人々と変わりないエルフだった。
それを見てがっかりするのは失礼だと思う。考えてみればエルフだって普通の人だ。普通に生活しているんだから当たり前なんだ。
当たり前なんだけどな・・・・なんだかなぁと思ってしまうのは仕方ねえだろ。
そんなのんびりとした田舎のような風景を見ながら道を進み、中央のひときわ大きなログハウスを目指す。
見た感じこのエルフの里は直径1キロくらいの円状になっており、おそらく数百人程度のエルフが住んでいる感じだ。多くても500はいかないんじゃねえかな。
家も密集しているわけじゃなくぽつぽつと立っているし、その家の近くには畑で野菜が育てられているので人口密度は低そうだ。あっ、農作業しているエルフを発見!
周りを見ながら歩いているとあっという間に中央のログハウスへと着いてしまった。他の家の大体2倍程度の広さだろうか。と言うかここって立地的にも大きさ的にも長の家とかじゃねえのか?いいのか、初めて来たよくわからない奴に来させて。
ドアの前でカヤノとミーゼを見たが、俺に向かってコクリと首を縦に振るだけだった。やはり俺が先頭をきることになるんだよな。まぁ当たり前ちゃあ当たり前だが。
コンコンコンコン
4回ドアをノックすると「ちょっと待ってくださーい。」と言う女の声と中でどたどたと走るような音が聞こえてきた。
何となく嫌な予感がしたので、ドアを見て、そして何気ない風を装って一歩後ろへと下がる。ついでにカヤノも一緒に下がらせる。カヤノがちょっと不思議そうに見返してくるが、何も言わずに従ってくれるところが俺たちの信頼関係を表しているよな。
そんな俺たちを怪訝な表情で見ていたミーゼの顔が消える。
ゴスッという鈍い音と共に。
うむ、俺の勘も捨てたもんじゃねえな。
「はいはーい。お待たせしました。あれっ、どなたですか?」
「ああ、ギルドの依頼を受けた冒険者だ。売るものがあるって言ったらここに行くように言われたんだが大丈夫か?」
出てきたのは小学校低学年くらいの小さな少女だ。部屋着なのか薄いシャツとショートパンツというラフな格好なのだが、そこから伸びるすらりとした長い手足とエルフの代名詞とも言える整った顔立ちのお陰でまるでモデルのように見える。
俺の答えに得心がいったのか、ぽんっと少女は手を打った。
「そうなんですか。それじゃあ明日はバザーですね。後で皆に知らせなきゃ。あっ、こんなところで立ち話も何ですよね。どうぞ入ってください。」
「おお、悪いな。じゃあ遠慮なく。」
親切にも家の中へと案内しようとする少女の後に続こうとした俺だったがその服をくいっと掴んで止める者がいた。
カヤノだ。
「どうしたんだ?」
「どうかされましたか?」
俺と少女の声が重なる。二人から見つめられたカヤノは少し言いにくそうにしながらも口を開いた。
「あの、ミーゼさんが・・・」
カヤノの指し示す方向を見る。ドアにぶつけ真っ赤になった鼻を押さえしゃがみこんでいるミーゼがいた。
「だ、大丈夫?」
「うわあ、だれがこんなことをー。」
「あんた達のせいでしょーが!!」
鼻どころか顔を真っ赤にしてミーゼが叫ぶ。
うん、知ってる。
エルフの少女に壁ドンされ顔を赤くするミーゼ。胸の高鳴りを押さえきれないミーゼの前に立ちはだかるのは自分という存在だった。
次回:性と種族の狭間
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




