とりあえず夜の警戒をする
すみません。予約投稿し忘れました。
夕食を終え、日も暮れてきたためミーゼとカヤノは俺のコテージの中でシャワーを浴び眠りについた。慣れているとはいえ久しぶりに森の中を一日歩き通しだったからな。ぐっすりと眠っているようだ。
外で警戒していたんだが今日はこの休憩所に泊まるのは俺たちだけのようだ。出入り口も塞いじまうかと考えないではないが夜にやってくる可能性が無いとも言えねえしとりあえずそのままだな。
「そろそろいいか。行ってきていいぞ。」
何度目かのゴブリンの襲撃を撃退している間に夜も更けてきたので許可を出す。俺に向かって敬礼しているのは言わずと知れた棒サイちゃんズだ。
一糸乱れぬ仕草で右向け右をすると駆け足で休憩所から出ていく。うむ、あいつらも慣れたもんだな。
基本的に棒サイちゃんズも俺と一緒で睡眠を必要としない。昼は俺と一緒にこっそりとカヤノやミーゼの安全確保のために動いているんだが夜は基本的に俺がそばにいるので棒サイちゃんズは暇になるのだ。
そこで考えたのが夜の間に薬草採取とか出来ねえかなってことだ。
一応ダメもとで聞いてみたところ、普通に敬礼を返され、朝になるころには少なくない量の薬草を採取してきた。瓢箪から駒ってこういう事を言うのか?ちょっと違うか?
そんなことを考えながら先ほど倒したゴブリンの胸から魔石を取り出し、角を切って後は埋める。血の匂いで集まってきたら面倒だしな。
ちょっと血の付いた魔石を軽くぬぐってそのまま口へと放り込む。
「やっぱゴブリンは薄いな。まあ味がするだけましか。」
ころころと飴を転がすように魔石を味わう。魔石を食べれば味がすることに気づかされてから数種類の魔石を味わってきた俺だが、強い魔物の魔石は味が濃くて、ゴブリンなどの弱い魔石はかすかに味がするという傾向が見えてきている。まあ俺が食べた魔石なんて一部に過ぎないからたまたまかもしれねえけどな。
そんな味の薄いゴブリンの魔石でも俺にとっては貴重な食料だ。幸いこの樹海は魔物が多いので魔石集めに苦労する必要は・・・
「ねえみてぇだな。」
剣を抜き背後からこっそりと近づこうとしていた3匹のゴブリンを一刀のもとに切り捨てる。というかこっそりと近づこうとするなら、息遣いまで気をつけろよ。ふつうにはぁはぁ聞こえてたから気づかねえはずねえだろうが。
剣についたゴブリンの血を軽く拭くと、その刀身には一片の曇りも刃こぼれもなかった。
ホブゴブリンキングが持っていた剣だが本当に良い拾いもんだったな。気を失う前に何とか隠せてよかったぜ。装飾も綺麗だし、あいつがどっかの奴から奪ったんだろうな。奪われた奴にはご愁傷さまとしか言いようがねえが、俺だってあいつのせいで殺されかけたんだから正当な報酬って奴だよな。
誰になのかよくわからない言い訳を考えながらゴブリンを解体していく。最初は慣れなかった魔物の解体作業も今では慣れたもんだ。丁寧さで言えばカヤノには負けるが早さなら俺が余裕で勝つ。なにせ力が違うしな。
取り出した魔石を次々と口の中に放り込みながらゴブリンを埋めていく。一応ゴブリンの討伐も依頼ボードには貼ってあったから持っていくつもりだが、あんまり多いなら途中で捨てることも考えねえとな。そう大した報酬にならねぇし。
俺のコテージの壁へと背中を預けながら出入り口を見張る。
塀を作ったので魔物が俺たちを襲おうとしたら基本的には2か所の出入り口のどちらかから入る必要があるのだ。塀は2メートルあるのでゴブリンやフォレストラビットでは飛び越えられないし、登ってこられないように上部には返しをつけている。風雨にさらされればいずれ崩れてしまうだろうが少なくともしばらくは俺が離れても大丈夫に作ったはずだ。
ミーゼには昼に安全のためには自重はしないと言ったがあれは本心ではあるが全てではない。
俺の予想が正しければある程度の実力を見せておく必要が俺たちにはあるのだ。
冒険者の多いエイトロンの街だからってのもあるが・・・
「おぉ、早かったな。」
出入り口からちょこまかと入ってくる影が見えたので少し警戒したのだが、それは薬草を抱えた1匹の棒サイちゃんだった。正確に言うなら3号だな。
やはりこのユーミルの樹海は素材の宝庫のようだ。いつもなら明け方近くまで動き回ってもらってもこんなに採れないことの方が多い。
3号は俺の目の前に薬草を置くと敬礼をして再び休憩所から出ていこうとする。相変わらずストイックな奴だ。
「あんま無理すんなよ。」
俺の声掛けに再び俺の方を向いて敬礼をした3号のすぐ後ろに影が差した。俺がゴブリンだと気付いた時にはそれはもう始まっていた。
敬礼を即座に取りやめた3号がしっぽのドリルを地面に突き刺すと勢いよく体が半回転し、そのいきなりの挙動に襲い掛かろうとしていたゴブリンが一瞬硬直するのを見逃さずその体を掴んだ。
そしてゴブリンの体をがっしりと掴んだまましっぽのドリルがうなりをあげ、3号の体がゴブリンごと高速回転しだす。その速さは残像のせいで3号だと判別できないほどの速さだ。まるでコマのようだ。
しばらくしてその回転するコマからポーンと空高く何かが飛んでいき、しばらくして俺の目の前にそれが落ちてくる。
頭から地面へと落ちたそれはピクピクと痙攣するのみだ。
ちょっとふらふらしてから頭を振り、そして再び敬礼してきた3号に軽く敬礼を返すと3号は休憩所から外へと出ていった。また薬草を探しに行ったんだろう。
「あいつら強くなったよな。」
目の前で死んでいるゴブリンを解体しながらしみじみとそう思った。
棒サイちゃんズに関してはいろいろわからないことだらけだ。一応俺が生み出した妖精と言うことではあるんだが、その生態はいまいち不明だ。
水の精霊のところのように自由気ままに遊ぶ想像通りの妖精とは違い、俺の言うことを聞くなんて言ったらいいのか微妙なところだが部下のような感じだ。
ただこいつらは俺の命令に反対と言うか拒否をしねえんだよな。まあ俺もこいつらに無理を言うつもりがねえからそうなのかもしれんが。
と言うか精一杯頑張ってる棒サイちゃんズに無理な命令なんて出来るかってんだ。
魔石を食べるようになってなんとなくわかったんだが、俺の中に魔石の力を蓄えることが出来て、それを使って妖精を生み出す能力が精霊にはあるみてえなんだ。
でもな、3体のあの棒サイちゃんズは最初からの付き合いで、しかも1号、2号、3号と名前とは言えねえかも知れねえが愛称までついているので思い入れがあった。
妖精が多い方が人手が増えるので出来る依頼も、仕事の効率も上がったかも知れねえが安易に増やすのは何となく違うんじゃねえかと思っちまったんだ。あいつらはただの道具なんかじゃなくって俺の大事な部下だしな。
で、そうすると魔石を食べることでたまったエネルギーの行き場がなくなるわけだが、一つ思い出してほしい。水の精霊のところで唯一執事服を着た妖精がいたことを。
あの時はあんまり不思議に思わなくて聞きそびれたが、考えてみればおかしかった。大きさや頭の良さからして普通の妖精とは段違いだったのだ。しかも水の精霊の言葉が正しければあいつも元は飛び回ってた小さい妖精と同じだったはずなのに。
そこから俺が出した結論は、妖精も成長できるんじゃねえかってことだった。
そう思いついてからすぐに行動に移した。そして棒サイちゃんズを呼び出して頭に手を触れた瞬間、確信が生まれた。魔石のエネルギーで棒サイちゃんズを強化できるってな。
まあそんなこともあり、道中で魔物を狩っては棒サイちゃんズの強化に充てた結果、棒サイちゃんズは強くなった。ただ単純に強くなっただけじゃなくって多才になったっていう方が正しいのかも知れねえな。
具体例を挙げるならカヤノの義手だ。
今は俺が普通の人間のように振るまっているのでカヤノの義手の役目は果たしていない。それを誰が代わりにしているかと言えば棒サイちゃんズの中の誰か一人だ。
俺がさんざん苦労した義手の動きを至極あっさりとされた時はちょっと落ち込んだもんだ。そんな訳で今は交代でカヤノの義手をやってくれている。カヤノにも好評だ。
あとはオプション装備が出来るようになったりしたことかな。とび口とかスコップとかを器用に扱っている。どこから取り出したのかは俺にもわからねえが。
と言う訳でこの程度の魔物なら今の棒サイちゃんズにかかれば楽勝なのだ。
何かが木にぶつかるような音や、キュイイーンと言う音と共に聞こえる魔物の悲鳴なんかが夜の森に木霊しているが大した問題じゃない。
大した問題じゃ・・・ないよな?
うん、ちょっと強くし過ぎたかも知れねえな。
ついに山にこもった成果で必殺技を会得した3号。肩を叩きあい喜ぶ3人の元に一通の手紙が届く。それは彼らに対する挑戦状だった。
次回:VS マジンガー
お楽しみに。
あくまで予告です。実際の内容とは異なる場合があります。




