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第1話 二人の出会い

 私、羽田恵那の好きな人は宇宙人です。

 なんて言うと頭の痛い女だと思うだろうけど、彼自身がそう言っているので、私はその事実を愛を込めて約一年と半年保留中だ。

 白井優は宇宙人だ。なんて意味不明な噂は、入学してから二ヶ月後、私に届いた。

 私は友達四人で行った中間テストの総合点争いに負けてしまい、隣のクラスの白井くんにその事実を確かめにいかなくてはならないという重要な任務と言う名の罰ゲームを与えられた。

 ちなみにそのとき初めて彼の存在を知った。

 あまり行き慣れていない隣の教室に、私は遠慮がちに腰を屈めながら入り、教卓で白井と言う名を確認して、その窓際の机に向かった。

 休み時間だったから席に着いていないことを祈ったけど祈りは通じず、その机には寝癖まじりのワリと顔の整った男子が無表情で、話しかけてくるな、という雰囲気を醸し出しながら座っていた。

 このまま引き返そうかと考えたけれど任務未達成で戻る方が、何をされるかわからないので怖い。私は思い切って白井くんに声をかけた。

「初めまして、えーと、白井くんですか?」

「そうだよ」

 無愛想な声を発して、私の方に顔を向けず、窓から見える国道に向かって言った。

「単刀直入に訊くけど白井くんは宇宙人ですか?」

「宇宙人じゃない」

 だよね、あんなしょうもない噂、誰が考えたんだろう? 白井くんは姿形がめちゃくちゃ人間なのに宇宙人な訳がないよ。

「異星人だ」

「はい?」

「宇宙人だとこの星に住む人類も宇宙人と言える。だから俺は違う星から来た異星人だ」

 白井くんはそう言って私の眼を見つめた。

 目が合った瞬間、私はその場から逃げるように立ち去った。

 やっぱりだ。噂通り白井くんは不思議だ。そしてあの異様な雰囲気。私の好きなタイプだ。無論、人目惚れです。

 その日から私は白井くんを意識し続け、誰にも言わないでその気持ちを暖めてきた。今考えてもやっぱり不得要領だ。何故私は白井くんを好きになったのだろう? ただ一度会話しただけなのに。もしかしてこれが宇宙人の不思議パワーなのかもしれない。

「不思議なのは恵那でしょ? 白井なんてよくわからない奴好きになって。中学のときもそんなだったでしょ。だからそれなりに顔は良くても、生まれて十七年彼氏も出来ないのよ」

 と厳しいことを言うのは豊里織恵、通称おりちゃん。

 おりちゃんとは中学が同じで仲が良く、退屈な授業が終わった放課後、家にも帰らず机を囲んでよく雑談している。そして今日。白井くんへの恋心を、気持ちが芽生えてから二度目の冬を迎えてやっと友達に伝える決心がついた。何でこんなにも先延ばしになったかというと白井くんが余りにも不思議かつ電波な人だからだ。

 それにしても今日のおりちゃんはいつにも増して言葉の棘に磨きがかかっている。ということは。

「また彼氏とケンカしたの?」

「そうよ、文句ある? あたしは悪くないのよ。あいつ年上で社会人だからって調子のって。今日はイブよ、クリスマスイブ。約束してたのに。疲れたから今日は寝させてだって。ふざけてるでしょ? 私が怒る理由もわかるでしょ!」

 おりちゃんが機嫌の悪いときは八割方、恋人とのケンカだと決まっている。そんな状態のおりちゃんに話しかけると決まってこうグチを聞かされるはめになるので、私はいつも聞いたフリで済ませる。毎週グチを訊いていれば自然とこうなってくるのは当たり前でしょ。

「恵那も男できたらわかるって、あたしの気持ち。もう白井なんてほっといて他当たりなよ。何ならあたしが紹介しようか? せっかくのイブで、しかも明日から冬休みなのに独り身なんて切ないでしょ?」

「いいよ私は慣れてるし。でも今日はおりちゃんに白井くんを好きだって伝えられてよかった。なんかすっきりしたよ」

「気付いてたけどね。恵那が白井を好きだってことくらい」

「どういうこと?」

「授業中も隙があれば、食堂でも隙があれば、登下校中も隙があったら白井を見てるでしょ? それに恵那が変な人を好きになるのは中学校から有名だし」

 気付かない間にそんなに見てたんだ。自分でもビックリだよ。でも聞き捨てならない言葉が含まれている。

「変な人ってどういうことよ!」

「中学の頃好きだった大北ってゲームオタクでしょ、それに相川だってアニメオタクでしょ。高校に入ったら入ったで自称宇宙人だなんてあんたイタイよ」

「うるさいな、好きな人がたまたまそうなだけだからいいでしょ。それにゲームとかアニメが好きな人のどこがいけないっていうのよ」

「それは何ていうか雰囲気が……」

「じゃ、あたしはそういう雰囲気が好きなの」

「それって十分イタいんだけど……わかったわかった、あたしが悪かったよ。じゃあ聞くけどその白井くんと同じクラスなのにどうして話しかけないのよ?」

 一年生の頃、隣のクラスだった白井くんは、私の週一回の寺参りによって、二年生で同じクラスになった。お参りしていた寺が商売繁盛のご利益がある、と知ったときはお参りをやめようかと思ったけど続けてよかったよ。寺によってご利益が変わるとか言ってるけど案外関係ないかもね。無理して遠くの恋愛成就の寺に行かなくてよかった。

 けど、私はそんな苦労してまで同じクラスになったのに、指折り数えるほどしか彼と会話をしていない。話さない理由なんてあるのだろうか? ただ勇気が出ないだけと思う。だって自称宇宙人だし。

「本当に宇宙人だったら怖くない?」

 おりちゃんは溜め息をついてから微笑んだ。

「宇宙人なわけないでしょ、ばーか。もういいや、みんな誘ってカラオケ行こ。せっかく学校昼で終わるしクリスマスイブだしさ、恵那どうせ暇でしょ?」

「残念でした。今日は行く所があるので」

 私はカバンを持って席から離れ、帰る用意をしている、クラスメイトの寺内くんに近づいた。寺内くんはこの学校で唯一白井くんと行動を共にしている変わった人だ。

 背後からおりちゃんの声が聞こえる。

「恵那、もしかして本気で白井のこと好きなの?」

 私は首だけおりちゃんの方に向けて睨みつけた。

「言いふらしちゃダメ。二人だけの秘密だから」

「秘密にしなくてもみんな気付いてるわよ、寺内だってそうだろ?」

 そんなわけないじゃない。おりちゃんがわかったのは中学からの付き合いがあってからだこそだよ。みんなが気付くような態度を取った覚えなんてないし。

「恵那ちゃんが優のこと? それに気付かないような鈍い奴なんていないでしょ」

「マジで?」

 私、そんなわかりやすい態度取ってたの? だとしたら今まで胸の奥でしまい込んでいた恋心はどうなるの? やばい、クラスのみんなが知っている事実に気付いた途端登校拒否したくなってきた。まさに人生最大の恥だよ。

 よかった、明日から冬休みで。

「そ、そんなことより寺内くん? 白井くんはいつもの場所にいるの?」

「おっ? いるよ。一緒に来る?」

「もちろん」

 教室から出ようとする私に「あんな奴とつるむよりカラオケ行った方が面白いって」なんて声が聞こえてくるけど聞こえないフリだ。確かにおりちゃん達とカラオケに行った方がそれなりに楽しい放課後、クリスマスイブを過ごせるだろうけど私はもう決めた。

 一年半以上かかったけれど、やっと決心がついた。

 白井優と、いや、宇宙人と関わることに。



 ………



 俺は嘘をついている。

 けれど、それはあまりにも滑稽で笑えないものなので冗談とも言えない。しかし非現実的過ぎて嘘とも呼べないだろう。

 俺は異星人だ。

 道化もいいところ。自分で言っておいて鼻で笑ってしまうよ。もしその言葉を鵜呑みにする奴がいたら脳内にビッグバンを起こして赤子の脳内から始めた方が良いだろうな。

 きっとクラスの奴らも腹の底では笑っているのだろう。中には変人扱いで蔑んだ眼で見ている奴もいる。まあ、俺でもそうするな。

 自分から日常を破綻させる言葉を吐く奴なんてろくな者じゃない。

 でもたまに後悔することもある。もし俺が異星人だ、何て言わずに高校生活を続けていれば友達も十人くらいはできたかもしれないし、運動場で汗を流し、マネージャーとの愛に勤しみ青春映画の真似事が出来ていたかもしれない。

 けれど今頃そんなことを言っても普通の高校生活なんて出来ないだろうし、そんな普通なことをするつもりもない。

 この後悔の先はいつも普通なんて下らない。これが結論だ。 

 正解だった。異星人だなんて嘘をついて。

 おかげで俺はほとんど誰とも関わらずに高校に通っている。

 一年の一学期辺りは興味本位で話しかけてくる奴もいたが、それも流行と言うものだろう。二学期からは見事に誰も話しかけてくることはなく、異星人と言うよりは気体くらいの存在感で教室に居座ることが出来た。

 そんな俺は放課後、旧図書室で静かに誰にも触れられることなく、熱心に未確認飛行物体について調べている。今では誰も使わない教室だから少しほこりにまみれているが、人にまみれているよりはマシだ。そして異星人の俺が放課後に向かう旧図書室も、今では生徒にその名で呼ばれず『異星人の部屋』と呼ばれるようになった。

「ちょっと恵那ちゃんはここで待っといて。優に用があるから」

 扉の向こうで風太の声が聞こえる。

 風太とは唯一この学校で異星人としての俺に交流してくる奴だ。

 休み時間にしろ、昼食にしろ、風太は何が面白いのか俺につきまとってくる。放課後この旧図書室に足を運ぶこともある。風太は何もせず、ただ俺が持ってきたオカルト雑誌を読むだけだが。

 今日もそんな意味のない放課後が始まるのだろう。

「よっ、優。今日は何かいい情報見つかったか?」

 いい情報とは未確認飛行物体のことだ。いつだったか忘れたが、俺は風太に旧図書室にいる理由を話した。

「二組の松村って奴から桂木山でUFOらしき物を見たと聞いたから、今日の夜向かうつもりだ。お前も来るか?」

 俺は風太に顔を向けず、雑誌を読みながらいつものガセネタを伝えた。

 先月も松村は、俺に宇宙人を見たという面白い嘘をついていた。高校生にとって夜は暇そのものなので、俺は風太と目撃場所である港に向かったことがあった。

 もちろんそんな生物は見当たらず、いるのはシンナー中毒者かホームレスなど、そういった類の人間ばかりだったがな。

「大事な話しがある」

 いつもへらへらしている風太が大事な話しと言うのだから、普通の人間の二倍は大事なことだろう。俺は雑誌から眼を離し、風太を見た。

「俺、受験するから放課後ここに毎日来れなくなる。悪いな」

「別に俺から頼んだわけじゃなくお前が勝手に来るだけだろ? 悪くはない。どちらかというと巻き込んだ俺が悪いのかもしれない」

 正直こいつが受験のために放課後を勉強の時間にあてると言う事実に驚いたけれど、大学に進学するなら仕方のないことだろう。

「がんばれよ。それでどこの大学に行くつもりだ?」

「大阪大学。今から勉強してどうにかなるかわからないけどな」

「それはでかい目標だな。お前は記憶力がいいし推測力もある。どうにかなるだろう」

 これはほんの気休めだ。風太の学力は良いとは言えないが、一年間必死に勉強すればどうにかなるだろう。日本第三位の大学に入学するくらいなら。

「そう言ってくれるとありがたいよ。それと、俺がいなくなる代わりと言っては何だけど、今日からこの子をお前の相棒とするけどいいか?」

 俺はお前を相棒にした覚えはない。まあ、風太が紹介する奴ならそれはそれで少し気になる。

「別に俺は静かにしてくれれば一人でも二人でもかまわない、それ以上は嫌だけど。で、誰だ? 異星人な俺と関わりたいなんて思ってるUMAは?」

「そうだな、今廊下にいるから呼んでくるよ。俺はこれで帰るけどあとはよろしくな」

 そう言って風太は俺に怪しげな笑顔を向けて教室を出ると、廊下にいた誰かが入れ替わりで入ってきた。

「どうも、白井くん。こんにちは!」

 ――誰だ? 

「あれ? 白井くんだよね、宇宙人の」

「宇宙人ではなくて異星人だ」

「そうだね、異星人だよね」

 ……こいつ正気か? 俺は異星人だと言ってるのに何が「そうですね」だ。ニコニコ笑って俺を見つめていないで、もっと疑いのまなざしで見つめろよ。変な奴だな。

「ごめん、顔は見た覚えがある気もするが、名前が出てこない」 

「うっそ! 私ってそんなに存在感ないかな? 思い出してよ、わかるでしょ同じクラスでしょ」

 間髪入れずそう言って彼女が泣きそうな顔で俺を見つめた。

 同じクラスか。それなら見たことがあるのも当たり前か。でも俺はそいつの存在感どうこうより、人と関わることに興味がないからこの学校に通っている生徒の名前で知っているのは、たまにガセ情報を提供してくる松村と俺につきまとう風太だけだ。だからそんな悲観的になるな、さっきまで笑っていたじゃないか。

 俺はくしゃくしゃな顔をした二重まぶたの彼女をもう一度見つめ直す。

「思い出したよ。羽田だろ? 羽田恵那」

「そう! ナイスフルネーム」

 そうだ、こいつはいつも俺を監視している奴だ。

 よく飽きもせず毎日俺なんかを見てられるな。やっぱり俺が異星人だとか言っているからだろうか。

「白井くんはここで何してるの? 噂ではUFOを探してるとか宇宙人とのコンタクトを取る方法を考案中とか聞いたけど」

「異星人だ」

「ごめん、そうだね」

 羽田は手を合わせて本当に申し訳なさそうに頭を下げた。

 別にそこまでされるほど怒っていないけどまあいいか。謝罪に度が過ぎるということは滅多にないことなので少し気持ちがいい。

「噂は正しい、よく調べたな。ところで風太から聞いたけどお前もその活動を手伝ってくれるそうじゃないか」

 羽田は一歩前に踏み出し、

「えっ? いいの、放課後ここに来ても」

 とさっきよりも五カラットほど目を輝かせて俺を見つめた。

「好きにすれば良い。騒々しくなければそれで十分だ」

「ありがとう、これで私も一員だね」

 何の一員かは少し気になるけど、どうせ生徒同士の噂か何かでそういう物があるのだろう。

 雰囲気といい、俺に疑いの目を向けないところといい。少し頭の痛い奴だけど面白い。こいつが普通か普通じゃないか少し試してみるか。

 「今日の夜。桂木山でUFOを探す。お前も来るか?」



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