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【前編】

 ※※※※※※※※※※※※※




 思えばここ最近、運のない出来事ばかりだ。



 元王太子殿下の婚約破棄騒動に巻き込まれ。

 国王陛下に『国王専属愚痴聞き係』という名の盾に任命され。

 騎士団長には『騎士にならないか?』とか言われ。

 王弟殿下に『あとで覚えてろ』とか言われ。

 公爵令嬢アイリーン様主催の茶会に招待され、友達になりたいと言われ。(ん?これはいいのか?いやだめだな)


 卒業後の社交シーズンで結婚相手を探そうと思っていた。

 それなのに、何故か『アイリーンの友達に相応しくない』と判断された私は、王弟殿下に目の敵にされてて、結果未だに見つけられないでいる。

 おうていでんかめぇぇぇぇぇ!!!!全く!!!どうしてこうなったんだ???



「そういえば、もうじき竜舞踏祭が始まるわねぇ~」


 父様の外套に刺繍をしながら、母様はのんびりと言った。


「そういえばそうですね」


 私はハンカチへの刺繍の手を止めて、過去を振り返るのをやめて、竜舞踏祭に思いを馳せた。

 べ、べつに現実逃避とかじゃ、ないんだからねっ!!??




 ※※※※※※※※※※※※※



 この竜舞踏祭について説明する前に、我がルメール王国の成り立ちを知る必要がある。



 正確な年数は定かではないが、今から千余年前、大陸で戦に敗れたご先祖様たちが、この島で建国したことから始まる。

 そう、我が国は四方を海に囲まれた、島国なのだ。


 とはいっても、大陸からの距離はそう遠くなく、再び攻め込まれる可能性は大きかった。そこで、海軍を鍛え上げ、大陸の国々と小競り合いを繰り返しながら、なんとかやっていた。



 建国しておよそ400年後、大陸とは反対側の孤島に、ドラゴンたちが巣を作るまでは。



 当時、ドラゴンという存在は死に絶えた古代の生物、という認識であった。

 であるから、そんな存在自体ありえないはずのドラゴンを見た当時の人々は、大混乱に陥り、恐怖に支配されたそう。


 さらに、ドラゴンの巣を巡回していた精鋭であるはずのルメール海軍が、海中から浮上してきた一匹のドラゴンによって木っ端微塵にされたのだ。よく滅ばなかったな我が国。

 そしてドラゴンって泳ぐんだね。


 だが、当時のルメール国王、サラマン様は狼狽えなかった。


 海軍が狙われて攻撃されたわけではないこと、ドラゴンたちがこちらに手を出してこないことを冷静に見極めると、国中にドラゴンへの接触禁止令を発令した。



 更に我が国に不運が降りかかる。


 ドラゴンたちが住み始めてから、周囲の魔物たちが年々増え、強くなっていったのだ。まさに泣きっ面に蜂。



 これでは我が国は滅びる、そう悟った王は臣下を国民を広場に集め、こう言った。



『己を鍛えよ』



 それからがすごかった。


 他国には『え?ドラゴン?うちのマブダチだけど何か?』を装って牽制しつつ、裏では死に物狂いで国民を鍛えた。


 船では海中の魔物に対抗できないため、海軍を解体。騎士団と魔術師団を設立。

 それはもう血反吐を吐ききるほど鍛え上げたそうだ。兵士平民問わず。


 その御蔭で、今では普通の漁師に見えるおじさんでも、大抵の魔物を倒せるようになっている。サラマン様バンザイ。



 そりゃ後に『思慮深き賢王』とか『ルメール王国にいてよかった王様第一位』とか『鍛錬の鬼神』とか『ドラゴンよりも怖い王様』とか言われちゃうよ。

 ・・・・・最後の方は当時の人の感想かな・・・。


 ちょっと話がずれたが、とにかく我が国がドラゴンに馴染み深いのはご理解いただけただろうか。


 大抵ものすごく遠くでしか見ないドラゴンだが(たまに鳥と間違える)、三年に一度幼体のドラゴンが隊列を組んで、我が国の上空を飛行する。


 中々見ごたえがあるので、『竜舞踏祭』と名をつけてお祭りにしたのが、サラマン様の次代女王ルルライラ様だ。

(ちなみにこの女王様の名前から私の名前を頂いた)


 それが今では国中で行われる、国一番のお祭りとなりました。


 そんな竜舞踏祭が、あと1ヶ月後に行われる。

 いつもは領地で祭りを楽しむのだが、今回は(・・・色々あって)王都で祭りを楽しむこととなった。

 王都での竜舞踏祭は、それはもう盛大だそうなので、初めて参加する私としては楽しみな限りだ。わくわく。



「た、たいへんだぁぁぁぁ!!!!リーアァァァ!!」



 なんか、兄様の声が聞こえるが、きっと幻聴なんだ。そうに違いない、そうであってくれェェェ!!!





 ※※※※※※※※※※※※※





「私が、王都の竜舞踏祭の『花鱗の乙女』役を、ですか・・・?」



 王宮の政務塔に呼ばれた私は、大分やつれた風の目の下の隈が色濃く残る文官様に告げられた言葉を、繰り返した。



「はいそうです、ルルリーア嬢には王都の竜舞踏祭で『花鱗の乙女』役をやっていただきます」



 忙しそうになにかの書類を仕分けている文官様が、無感動に繰り返した。

 くっ!ちょっとは『あ、間違えました』みたいな振りが欲しかったァァ!!



「こちらが任命書になっておりますのでご確認下さい。では」



 ぺろっと紙を渡されて風のように居なくなる文官様。

 ちょ、ちょっとまってぇぇぇ!私、まだ、納得してなぁぁぁぁいいいい!!


 任命書と言われた紙を持ちながら魂を飛ばしていると、入り口から誰かが顔を出した。



「よし、受け取ったか」



 お、お前はっ!騎士団長!!!!

 なんだなんだ、なんなの??いや説明してほしくないけど知りたいいいいい!!



「『花鱗の乙女』とは名誉なことだな。よかったなルルリーア嬢」



 ん?んんん???


 なんで騎士団の長が、祭りの配役とか、知ってるの??

 ・・・・・・・・・・・・・・・まーさーかぁぁぁぁ????



 問い詰めると、騎士団長は簡単にあっさり白状した。



『私が推薦した』



 なんだってぇぇぇぇぇ!!!!!

 王都でやるお祭りだよ!!??国中から人が集まって、他国からだって人が来るのに!!????

 こういうのは王家とか公爵家とか巫女様とか、そういう有名な人がなるもんでしょうがぁぁぁ!!


 またしても問い詰めると、どうも、騎士団長はかなりゴリ押ししたらしい。

 当然だ。知名度もない爵位も微妙な私を、管轄外である騎士団長が推薦して、むしろよく通ったと思いますよ。


 なんでそんなことしたぁぁ!!ゴリ押すな!!!!



「みなを説得するのに時間がかかってしまったな」



 いやいやいや、なに満足そうに『やりきった』感だしてんのよ騎士団長ぉぉぉぉ!!!


 一体何故なんだ?こいつがここまでする理由はなんなんだ???


 私の恨みを込めた視線など、歯牙にもかけない騎士団長は、キラキラした目で私にこう言った。



「これで騎士に一歩近づいたな」



 ん?

 んんん????どゆこと??私にはわかんなかったなぁぁぁ??

 ・・・・・ん・・・・・あっ。



「あああああぁぁぁぁぁあああっ!!!!!」



 思わず叫んでしまったよ私。どうどうとか言ってんじゃないよ騎士団長!!!



 わかってしまった。騎士団長こいつの狙いがわかってしまった!



 せ、説明・・しよう・・・。

 国中の民が全力で鍛えまくった、という話をしたと思う。


 魔術師は攻撃魔法はもちろん防御魔法を重点的に鍛え上げ、更に肉体まで鍛えた。

 騎士は肉体はもちろん剣技を重点的に鍛え上げ、更に魔法まで鍛えた。


 そしてこれ!!

 魔術師も騎士も、最低限必須なのが、足場を固定して空中位でも戦える『固定魔法陣』を扱えることなのです。

 海の魔物相手だと、船だと壊されちゃうからね。空中で戦うのだ。


 ココまでは覚えたかな?


 竜舞踏祭のドラゴンたちの飛行に合わせて、ドラゴンの鱗を模した『花鱗』を撒くのだ。そこが一番盛り上がるからね。

 撒くのは男女二人、『花鱗の乙女』と『花鱗の騎士』となって、上から撒くのだ。


 そう、自力で、それも固定魔法陣を足場にして、集まった国民の『上から撒くのだ』。


 つまり固定魔法陣が出来ないと、この役目を果たすことは出来ない。


 ココも覚えたかな?



 最後に一言。私『固定魔法陣』下手くそなんだよね。あっ魔法全般か、てへっ。

 先生に『魔法学を専攻すると卒業できませんよ』と言われるほど魔法音痴なんだよね。・・・ぐすん。



 それらを踏まえて私が導き出した答えは、おそらく真実であろう。


 騎士になる→固定魔法陣が必須→私魔法音痴で出来ない→『花鱗』役は固定魔法陣が必須→できるようになるまで訓練できる→騎士になる!!??


 つぅまぁりぃぃぃ?????

 騎士団長こいつ、私を騎士にするために、固定魔法陣を出来るようにさせるためだけに、『花鱗の乙女』に推薦したなぁぁぁぁ!!!????



 ・・・・・ねぇねぇ騎士団長・・・この祭り、国で一番力が入ってる祭りだって、ホントわかってる???



「なにせ王都の竜舞踏祭の『花鱗の乙女』は固定魔法陣が必須、国を挙げての最高の環境で心置きなく鍛錬できるだろう。私が指導するゆえ、明日から騎士鍛錬場に来てくれ」



 あっ、これ特に隠してないわ、むしろ『いいことやった!』みたいな感じがヒシヒシと伝わってくるわ!



「ぇええぇえ??いや、いやぁぁ!なんでこうなるのぉぉぉ!!わたし淑女だから騎士にならないっていってるでしょぉぉぉ!!!じ、辞退っ!じたいしますぅぅぅぅ!」



 もうなりふりかまってられない。

 苦手な魔法の練習をしたくないし、大勢の目前に晒されるの恥ずかしいし、祭りを楽しむ側でいたい!楽しむ側でェェェ!!!!


 そう、渾身の叫びで訴える私に、騎士団長はそのピクリともしない顔を、やはりピクリともしない顔で言った。




「これは、決定事項だ」




 こ、これだから権力を持つやつなんて嫌なんだァァァァ!!!!!!





 ※※※※※※※※※※※※※





 ごきげんよう、ルルリーアです。


 私の気持ちとは裏腹に、とても清々しいくらいに澄んだ青空です。


 なんだろう。私は何かに呪われているんだろうか??

 ・・・・・神殿にお参り行こうかな・・・・。



「ルルリーア嬢、鍛錬場では気を抜かぬよう。いつ、模擬剣が飛んでくるかわからないからな」



 そう厳しく指導するのは、隣りにいる騎士団長閣下だ。



「だが問題ない。すぐに何が飛んできても対処できるようになるからな」



 え?えええ??そこは『私が守ってやるからな』的なのがほしいんですけどぉぉぉぉ!!??

 ていうかそこまで鍛える気なんてサラサラないんですけどぉぉぉぉ!!????


 いい??諦めずに何回でも言うよ???


 私伯爵令嬢だからっ!!!淑女だからっ!!!騎士なんてならないからっ!!



「全然嬉しくないですねー問題も大アリですからねー?」



 精一杯の抗議を込めて騎士団長を睨みつけるが、全く効いていないようだ。くすん。



「さぁ、鍛錬を始めよう。まずはルルリーア嬢の固定魔法陣をみせてもらおう」



 あっ、私の抗議は無視ですかそうですか。しかももう鍛錬が始まるのね・・・。

 動きやすい格好、ということで、兄様の子供時代の洋服を来てきました私、婚活中の伯爵令嬢です。


 ・・・・こんな姿見られたらお嫁に行けない、って思ったそばから、騎士様方にがっつりみられてるぅぅぅ!!

 えぇえぇ、珍しいのはわかりますよそうですよ、私が逆の立場だったらガン見しますよ。



 でも見ないでぇぇぇぇ!!!



 四方八方から不本意な注目を浴びて、私がかなり腰が引けていると、騎士団長から殺気が飛んできた。

 もう!!ちょっとした注意の代わりに殺気飛ばさないでよ!!!


 あーはいはい、そんなに殺気立たなくてもやりますよ、騎士団長。

 やればいいんでしょおおおお????


 ちょっと不貞腐れながらも、固定魔法陣を発動する。

 だがしかし、私の魔法音痴を舐めてはいけない。あらゆる魔法系分野の教師が、揃って匙を投げるほどの実力なのだ。


 えいっとグラグラしている陣に乗っかる。と同時にパリンっと砕け散った。


 ふふふん、どうです??そう!!私の実力こんなもんですよ??

 祭りの乙女役は、最低でも1時間は固定魔法陣の上で花鱗を撒かなくてはいけないのだ。


 くっくっくっ!騎士団長よ!!花鱗の乙女役とか、騎士とか、騎士とか、騎士とか!!諦めませんかねぇぇ??


 期待を込めて騎士団長を見るが、彼はこの事態にも動じていなかった。



「そうだな。固定魔法陣の強度が足りていないようだ。そこから鍛錬だな」



 ぐぬぬぅ!!騎士団長めぇ!!


 そ、そうだ!他の騎士様にしてみたら、固定魔法陣が出来ない私なんぞ『え?あんなのも出来ないの?』と蔑まれる対象だ。

 そこから噂をしてもらって、元からデキる人に変更してもらってっ!!!!


「す、すごい」「あんなに近くで団長の殺気に耐えられるなんて・・・」「固定魔法全然出来てないけど問題ないな」「むしろそっちどうでもいいな」「・・・団長の嫁か?」



 ・・・・おい、最後に言った奴、でてこいやぁ!!


 なんなの?その認識!!!『殺気に耐えられる女性=騎士団長嫁』なのっ!!???それは騎士団内では常識なのっ!!??



 あぁ・・・なんだか鍛錬始まったばかりなのに、もう疲れたオウチカエリタイ・・。



「まずは、固定魔法陣の強化だが、足の裏で、ガッとやってぐぐっと力を込めるんだ」


 は、はぁぁぁいいいい?????

 あれれぇ?おかしいなぁ??私、騎士団長が言ってること、全然理解できないぞぉ???



「いいか?見本を見せるぞ?・・・こうして、足の裏に力をグッとまとめて、割れないようにパッと陣を何重かにするんだ」



 目の前では、一瞬の内に、華麗かつ最小限に足元へ多重固定魔法陣を展開した、騎士団長がいる。



「さあ、ルルリーア嬢もこの通りにやってみるんだ」



 ・・・・今の説明で???グッと、とか、パッと、とか言ってたあの説明で?????



「その説明でわかるかぁぁぁぁ!!!!!!」




 今日一番の魂の叫びが出たと思う。





 ※※※※※※※※※※※※※





 あれから、騎士団長に、言葉による説明だと全く上達しないことを納得してもらい、実地で教えてくれるよう必死で説得した。

 あれじゃ、何十年かかっても私が固定魔法陣を扱えるようになることはないだろう。


 ・・・・なぜか鍛錬していた騎士様たちも加勢してくれたのは、日頃苦労してるからなのかな・・・?何に、とは言わないが。


 その甲斐あって、騎士団長の固定魔法陣に乗ったり、一緒に多重陣を構築したり、と実地で鍛錬は行われた。



『あら、騎士団長って優しいのね』なーんて勘違いをしてはいけません。いけませんよ??



 一緒に乗った陣を突然消されて10mの高さから落下している最中に『固定魔法陣を展開するんだ』とかされたり。

 私が展開してる足元の固定魔法陣を、騎士団長の陣で押し潰してきて『ルルリーア嬢の陣が無くなったら落ちるぞ』とかされたり。

(そうですねぇー地面まで2mくらいあるかな?うふふ?)


 してたんだからなぁぁぁぁ!!!!お陰様で落ちまくって擦り傷だらけ土まみれのボロボロですけど何かァァァ!???


 なんなのぉぉぉ!!??

 別に祭りの乙女役だけなんだから、多重固定魔法陣の練習とかいらないからね!!???

 移動もあんまりしないから、不安定な体勢における高速陣展開の練習とかいらないからね!!???



 あぁ・・・もう3時間は経っただろうか・・・・。

 何度も何度も、壊れた固定魔法陣から落ちてボロボロになった私を見て、騎士団長がぽそりと呟いた。



「ルルリーア嬢は、魔法のセンスがないな」



 お、お前がそういうかぁぁぁ!!????

 だから諦めてよぉぉぉ!!なんなの?この粘り強さ!


 癪だから『出来ません』とか言いたくなくて音を上げない私も私だけどさぁ!!!



「で、です、から・・、わたくし、には、むずかしい、かと・・・」



 息も絶え絶えに訴える。お願いだから諦めてェェェ!!?



「仕方がない。私では荷が重かったようだ」



 ・・・なんだか言い方が釈然としないが、これでこの苦行から逃れられるのであれば、もうそれでいい、いやむしろお願いします。



「明日からの鍛錬は、ソランに頼んでおこう。では、忙しいのでこれで」



 さっきまで(私目線では)激しい鍛錬の跡を見せず、颯爽と去っていく騎士団長。

 それを見送りつつ、何故か近くで応援してくれていた騎士様に、確認する。



「あの・・・。騎士団長、今、明日っていいました?」

「ええ、言ってましたね」



 とても可哀想な子を見るような目で私を見てくる騎士様。

 ちょっ!やめてっ!同情するなら代わってくれ!



「ソランって、誰、でしたっけ?」

「そうですね。魔術師団長の養子の、ソランくんですね」



 あぁ、あのアイリーン様信奉者の方ですねー。

 なんだか最近お茶会で会ったことがありましたねー。


 ・・・・・・・えぇえぇそうですよぉぉ知ってたけどぉぉぉ!!

 聞いてみただけです、違う人かなという希望が入ってました。ごめんなさい。



「・・・騎士団長、忙しいって言ってましたよね」

「そうですね。今祭りの警護準備で凄く忙しいですね、団長」



 タオルありがとうございます騎士様。

 騎士様、そんな忙しい騎士団長がこんな面倒を引き起こさせないよう、是非見張っていただきたかった。



 ・・・・・これ、明日もこなきゃいけない、のか、な????





 ※※※※※※※※※※※※※





「ほんと、なんなの?きみ」



 開口一番、喧嘩腰で言われております、ルルリーアでございます。

 なんだかんだありましたが、どうも『花鱗の乙女』役を辞退できそうにないので、ここは頑張らないと相当まずい気持ちがヒシヒシとしている、ルルリーアでございます。



「ごきげんよう、ルルリーア・タルボットです。この度は鍛錬をお引き受け頂きありがとうございます」



 礼儀は大事だからね。いくら相手が名乗らず、私にガンつけてきたとしても、礼儀と言う名の建前って必要だと思うの。

 そして、魔導の申し子(笑)と名高い彼に教えてもらえれば、私でも出来るようになるのでは?という希望も入っている。



「はぁ?僕が君のためになにかするとか、ホンキで思ってる?」



 ええええ???なになに教えてくんないの???

 鍛錬場に来てるから教えてくれると思うじゃん、じゃあなんできたんだよ!



「・・・・ではどうしてココに?」

「・・・ライオネルさんに・・言われたから・・・」



 何故か急に勢いをなくした魔術師団長養子ソラン君。

 えっなに、騎士団長ライオネルに脅されたのか??目が泳いでるぞ??



「とりあえず、適当にやってれば?大体、固定魔法陣なんて練習とか必要ないでしょ」



 こんの、天才がぁぁぁぁ!!凡人には出来ないことが山程あるんだよぉぉぉ!!!

 喧嘩売ってんのかってそうだよ売られてたよ喧嘩っ!!


 派手にその喧嘩買ったろかぁぁ!???


 鍛錬場の長椅子に座り込む魔術師団長養子ソラン

 いやほんとに教える気ゼロですねそうですね。


 しょうがない、こんなんに教えられても嫌だし、どうせこいつ明日からは来なくなるだろう。

 そして、こいつが来なくなったら、あのちょっと仲良くなった騎士様に教えてもらおう。


 ん??むしろそっちのほうが良い気がしてきたぞ?



「では、私は鍛錬してますので」



 そう言っておいて、私は黙々と固定魔法陣の練習を始めた。





 ※※※※※※※※※※※※※





 やっぱり、体を動かす、というのは気持ちがいいね!

 なんだかどんよりした雰囲気を纏った誰かが、鍛錬場の片隅にいるが、まあ気にしない。


 昨日と同じようにボロボロになりながらも、独特の爽快感が体を包む。



 ・・・・・まあ、全然上達できてないんだけどねっ!!!!



 そうね、百点満点(自己採点)頑張った私なので、休憩でもしようそうしよう。

 1時間の鍛錬中、魔術師団長養子ソランは一切口を出してこなかった。逆にすごいな。


 彼が座る長椅子の隣の長椅子に座り、家から持ってきたレモン水を飲む。ちょっと甘味がついてて美味しい。

 飲みながら、なんとなく横の魔術師団長養子ソランを見る。



「・・・なんでなんで・・ぼくには・・アイリーンしか・・・なのに・・」



 うおおぉぉぉ!??なんかブツブツ呟いてるぅぅ!!!!

 ちょっ、こーわーいー!こいつ怖いよ!!


 ・・・・・・これって無視しちゃ駄目かな?いいかな??


 ひゃあ!ちらちら見てたら魔術師団長養子ソランと目があった!!

 って目虚ろ!しかもなんか黒いものが体から出てるよ???



「・・・・ねぇ、なんでなの?・・ぼく、こんなにアイリーンのこと、愛してるのに・・・」



 ちょっ!おいこら!魔力、魔力漏れてるからァァァ!!

 地面抉れてるっ!うわ椅子壊れたー!!魔力暴走してるのか??



「あぁぁ・・・なんでアイリーンは、ぼくのことっ、愛してくれないの?」



 ・・・・・・・はいはいはい。再燃しましたよ、怒りが。フツフツと湧いてきましたよ?

 今ブツブツ呟いているそれ、私関係ないよね?そして、今関係ないよね???


 ユラユラしながら魔力の塊を手当たり次第ぶつけている魔術師団長養子ソランの近くへ行く。

 魔力の帯が当たって細かい傷ができるが、とりあえず無視。



「ぼくはぼくはぼくはぼくはっ」

「知るかぁっ!!!」



 ----ガッ!!!!!!!




 ローブをひっつかんで、渾身の力(怒り)を込めて、やつに頭突きを叩き込む。



「っ!!????」



 びっくりした様子で額を抑えながら座り込む、魔導の申し子(笑)。

 ローブを手放して、周囲を確認する。暴走していた魔力は無事霧散したようだ。うむ、狙い通り。

 まだ暴走するようだったら、また頭突かなくてはいけなかった。


 以前、『魔術師って頭揺らしたら魔法使えなくなるのよねー』と言っていた我が親友のサラ。さすが!!!

 ・・・・すでに実戦済みのような一言だったが、その話はまた今度にして下さい、サラ様。



「どうでもいいから人様に迷惑かけてないで魔力くらい制御しろっ!!」



 全く!っていったぁデコ!!!頬に傷がぁぁ!!うわっ腕にも足にも傷がある!!!

 嫁入り前なのに・・・くすん・・。



「・・・・ぼくだって」



 全身の傷を確認してたら、なんか呟いてるよ?魔導の申し子(笑)。

 と思ったら、ボロボロと涙を流し始めた。やめてよ!私がいじめてるみたいじゃないっ!!



「ぼくだって好きで膨大な魔力を持って生まれてきたわけじゃないっ!!」



 えっ?ああ、そういやそうだったね。国一番、いや近隣諸国でも類を見ないほどの魔力の持ち主でしたねー。


 で????



「この目もっ!髪もっ!!ぼくが選んだわけじゃないっ!!」



 ん??ああ、そういや赤い目で白い髪でしたねー。確か『悪魔の子』とか言われてるんでしたねー。


 で????



「こんな!!こんな理不尽な世界でっ!!!アイリーンだけが僕を認めてくれたんだっ!!!!アイリーンだけが僕の全てなんだ!!!アイリーンが僕を愛してくれなかったら僕はっ!!!」



 あぁ・・・まるで昔の自分を見ているようで、腹が立つ。

 世界の理不尽に晒されて、泣くだけしかできなかった自分。悲嘆に暮れて何も守れなかった自分。


 泣きながら頭を掻きむしるやつに、苛立ちが募る。



「おい、アイリーンアイリーン煩いわ」



 乱暴に彼の襟首を掴んで、無理矢理立ち上がらせる。

 自分の世界に浸りきっていた彼は、揺り起こした私を睨みつけてきた。




「世界が理不尽なのは当たり前だ」




 睨みつけてきたその赤い目を、真正面から覗き込む。



「己に浸るな。理不尽に抗え」



 腹に力を込めて、自らの言葉に苦い気持ちを噛み締めながら、彼を睨めつける。

 こんなの只の八つ当たりだ。奴のも八つ当たりだけど。



「抗って抗って、最期の瞬きの瞼が落ちきるその時まで、抗い戦え」



 膨大な魔力を持つ苦悩も、『悪魔の子』と言われる苦痛も、どんな理不尽に晒されたのかも、私には理解らない。

 でもこれだけは理解る。言える。



「私には貴様の苦労はわからない。でも彼女が大事なら、愛してるなら、縋るんじゃない。貴様が守れ」



 襟首を離すと、ソランはぽかんとした顔で座り込んだ。

 ぽろり、と目から水晶のような涙が溢れる。ふんっ、まったくもう・・・・・。



 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ちょっと冷静になってきたよ?

 ・・・・あっ・・・なんか・・・・淑女に・・あるまじき・・言葉を色々言った気がする・・・。


 なんだかワタシ的に気まずい空気が流れる。


 こっ、これはっ!!なんか誤魔化そうっ!!



「・・・・と言うことで、今日はなんだか雲行きが怪しくなってまいりましたねー?私帰りますわ」

「・・・・いやいやいや、え?なに?え?」



 そそくさと帰ろうとしたら、座り込んだソランが声を上げる。


 ちっ!そのまま呆けてれば良いものをっ!!



「どうかされましたか?ソラン様」


「いや、どうかされましたか、じゃないよ。何、歴戦の猛者みたいなこと言ってそのまま帰れると思ったの?」



 し、しらないなぁー??私、淑女で伯爵令嬢だから、歴戦の猛者とかよくわかんなぁぁぁい???



「女の子に頭突きされたの、生まれて初めてだし・・・あっこれかっ!!!」



 いやいやソラン君よ。これから人生長いからそういうこときっとあるよ?いっぱい頭突きされるよ???多分。

 って、なにかな??何故に、その何かを期待したキラキラした目でこっち見てくるのかな??お目々、えぐり出してもいいのかな?



「これが、拳を交えた男の友情ってやつだねっ!!」

「おいこら、私は女だ」



 間髪入れず突っ込んだが、僕こういうの憧れてたんだよねーなんて頬を緩ませてるよ魔導の申し子。



「友情とか芽生えてないから、どこにそんな要素あったのっ!!???」


「あーそういう反応ね。いいよいいよ恥ずかしがらなくても」



 おいこらぁぁぁ!!話聞けぇェェェ!!!

 なんなの??私の周り話し聞かない人ばっかぁぁぁ!!



 ーーーもういやオウチカエリタイィイィィィ!!!



 その後なんと言っても、ソランは『照れ隠し』と言って聞いてくれなかった。

 ・・・・えっ?もしかして・・・私こんな面倒くさいやつに、友達認定、された?????





 ※※※※※※※※※※※※※





 ----それから。


 友達だから、と、魔力暴走でついた私の傷を綺麗に治し、恥ずかしそうに済まなそうに謝ってくれた。

 その表情が、そこらの乙女よりよっぽど可愛らしかったのは秘密だ。そしてその可愛らしさに免じて、許そうかなって気になったよ。あ、気になったような気がするだけだから、つまりまだ許してない。てへ。


 うわー美形、すげーーー。



 その後も、人が変わったように丁寧に教えてくれるようになった、魔導の申し子ソラン

 お陰様で私の固定魔法陣が大分上達しました。


 このまま行けば『花鱗の乙女』の役目を十分果たせる、と騎士様に太鼓判を押してもらった。

 そういえばそんなこともありましたね。忘れかけてたけどこの魔法音痴の私がよくぞここまで・・・。


 うわー魔導の申し子、すげーーー。



 しかし、鍛錬中顔を見せた騎士団長に『さすがルルリーア嬢、ソランを手懐けるとは』としたり顔で言われたときは、本気で殺意を覚えたなぁ・・・・うん。

 おっお前のせいでぇぇぇぇ!!!!ぐぁぁぁああ!!!



「嗚呼、兄様。なんだか大変なものに取り憑かれたような気がします。どうしよう、やっぱり神殿に行ったほうがいいかしら・・・」


「そんなお前にプレゼントだよ」



 ・・・・この間、兄様の出世の道を険しいものにしてしまってから、ちょっと私に冷たくなった気がする。

 よよよ、と泣き真似をしていると、兄様がニヤニヤしながら手紙を渡してきた。


 ・・・・・・・・ぅゎ・・アイリーン様、からだ・・・・。


 破り捨てたい衝動を押さえ込んで、とりあえず一旦読むことにした。


 えっと、なになに??


 あーー、要約すると、『ソランがまともになったんだけど何したの?』か。

 ・・・・何かしたっけ??頭突きしたくらいしか覚えてないなー。


 だからとりあえず、ソラン君の頭に頭突きすればいいんじゃないかな??好転するかは保証できんがね。

 二回目だから、また元に戻る可能性もある。



 あら、追伸もあるぞ?なになに??


『ルルリーアさんの友達は宣言した者勝ちなんですか?でしたら』




 ・・・・・・・・・・コレ見なかったことにしてもいいかなぁぁぁ!!!





 ※※※※※※※※※※※※※


※此処から先は書ききれなかった設定です。主人公目線なので主人公が知らないとどうしても書けませんでした。ので読まなくても問題ありません。

※裏設定


騎士団長ライオネル・アレスタント

 甥っ子と仲のいい(と思っているが実際はライバル)魔術師団長養子のソラン君の様子が最近おかしいので、主人公の騎士育成プログラムとソラン君の公正の一石二鳥を狙った。上手く言ってよかったな←イマココ


・文官様

 本当は財務担当なのに人手不足で祭事に駆り出された挙句、本来の仕事もやっていて睡眠不足気味。この祭り終わったら妻子と共に遠くに遊びに行くんだ。←イマココ


魔術師団長養子ソラン

 赤目白髪で両親に捨てられ、魔力の高さのみで魔術師団長に拾われたが、放任主義の魔術師団長にも愛情はもらえなかった。そんな自分を綺麗と言ってくれたアイリーンに執着する。何百回目かの告白をやんわり濁されて精神的に病んで魔力暴走したら頭突された。←イマココ


・騎士様

 今年第二子が生まれて幸せいっぱい。騎士団長は怖いが、姪っ子と同い年の主人公がなんだか放っておけない。でも怖いから何も出来ない。頑張れ!!←イマココ


主人公ルルリーア・タルボット

 本当は魔術回路が迷子になっていたせいで魔法音痴になっていたが、知らない間にソラン君に正されて魔法が上手く使えるようになった。早熟にならざる負えないこの国では若くても色々苦い過去があるようで、ある男にガツンと植え付けられたトラウマを思い出させられてイライラしてぶちまけたら大変なことに。オウチカエリタイ。←イマココ


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[一言] 「裏設定」の「ソラン君の『公』正」←ここ、「更生」でしょう。
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