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河童少年のモイスチャー日記 其ノ十九

 テレビドラマ『ビーチボーイズ』の再放送を録りためていたやつを一気に観た。河童だってドラマは観るし、反町にも竹野内にも憧れるよねこんな世の中じゃPOISON。いや竹野内のほうは非POISON。


 だけど耐水性を考えれば、むしろ水辺に生息する僕こそが「ビーチボーイ」と呼ばれるべきなんじゃないのか?――とか思ってみるけど、ビーチとはあくまでも海岸のことであって川岸をビーチとは呼ばないので、残念ながら河童はビーチボーイにはなれないっぽいと気づいてズンと落ち込んでみたり(「ぽい」からの「ズン」)。


 かといって文字どおり「リバーサイドボーイ」となると途端に貧乏くさくなる気がするし、爺ちゃんにそう呼んでほしいってお願いしてみたら、「アンドレカンドレかい!」と謎のツッコミを入れられた。


 さすがに意味がわからないので濡れた手で検索してみると、それは「リバーサイドホテル」という曲を歌っていた井上陽水の初期の芸名であるらしい。あの人、グラサンパーマで見るからに変な人だけど、昔はもっと変だったのか。


 それに「海の家」は商売になるけど、「川の家」では商売にならないとも爺ちゃんは言っていた。そういえば「海の家」は聞くだけで海岸にあるってわかるのに、「川の家」って言われると川岸ではなくて、なんだか川の中にあるか流されている最中の家であるような気がしてくる。


 そうなれば儲かるどころか、お客さんがそこまでたどり着くのがまず大変だ。僕ら河童ならもちろん楽勝だけど、やっぱり「河童の川流れ」って言葉もあるわけだし。それにしても、海辺でシャワーを貸すだけでお金が儲かるなんていい商売だ。


 それはともかく、夏が終わると急に寂しくなるのはなんなんだろう。それは河童だって例外じゃない。もちろん僕ら学生にとって夏休みが終わる残念さは大きいけど、さすがに今年くらい長いこと猛暑が続くと、やっと涼しくなったという安心感のほうが上まわっているような気もする。でも安心感と寂しさって意外と近い。


 この夏は川の水温も異様に高くて、爺ちゃんは「いい湯だな~」とか言ってシワシワになるまで川に浸かっていたけど、よく考えたら爺ちゃんは入る前からシワシワなのだから、状態としては何も変わっていなかったのかもしれない。


 なかなか川から上がってこない爺ちゃんに業を煮やしたお母さんが、


「逆にほど良く蒸されてるほうが、アイロン当てたら皺が伸びるんじゃないの? スチームスチーム!」


 と冗談だか本気だかわからないことを真顔で言っていた。そんなことをすれば確実に老人虐待になるはずだけど、爺ちゃんならもっともっとと欲を出して、玉裏の皺まで伸ばしてもらいかねないような気もする。むしろ爺ちゃんからのセクハラ返し。


 そういえば『ビーチボーイズ』にも白髪で髪の長い爺ちゃんが出てきて、かなりいい味出して海辺でギターだかウクレレだかを弾きながら歌を歌ったりもするんだけど、うちの爺ちゃんもこのあいだ拾ってきたギターを手に河原で弾き語りをはじめた。


 とはいえそんなところまでわざわざ歌を聴きに来る客もいないし、広げたギターケースには当然のように一円も投げ込まれていなくて、かわいそうだから僕がそばにしゃがんでたった一人の観客になった。


 でもギターの弦は拾ってきたままのデロンデロン状態で音程がまるで合ってないし、喉に痰がつっかえたままの蚊が鳴くような声で歌われるその歌は、「とにかく川沿いにはなんでもある」みたいな適当なことばかり繰り返している川沿いをただひたすらに礼賛するような曲で、「なんか変な曲!」って僕が曲終わりに思わずツッコんだら、爺ちゃんはまた「アンドレカンドレ!」ってすぐさま言い返してきた。


 それは僕には明らかに素人が思いつきで歌っているように聞こえたのだけれど、気になって念のために調べてみたら、それこそが元アンドレカンドレの「リバーサイドホテル」という曲らしく、言いたいことを言いまくってるアンドレカンドレがPOISONなのかそれを変だと感じた僕のほうがPOISONなのかわからなくなって夕暮れ。

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