もう一度
もう一度だけ…もう一度、希望を持ちたい。
もう一度だけ、走ってみたい。
出来るところまでやってみたい。
限界を超えてまででも…
もう一度だけでも走れる足に…
叶わないことは分かってる。
でも、希望を持てば出来る。
そう思いこんだ自分が「もう一度走りたい」そう願った。
だからこそ…だからこそ少しだけでも…たった少しでも最後に走れた喜び。
その時はすごく嬉しかった。
コーチから走れなくなるといわれてから自分がやってきたこと…
『辞める』そう決意してもなかなか辞められない自分が居た…
そのことをコーチに話したら
「お前はそれほど陸上という競技がすきなんだよ。だから無理に辞めることは無い。
ただ走れないだけで辞める必要はないだろう」
そういってくれた。
『辞められないくらいに好き』
その言葉に自分でも驚いた。
だって、いままで…そこまで夢中になることも無かったのに…
コーチに言われて初めて実感する。
『自分は陸上が好き』ということを…
ここまで好きなるとは思わなかった。
走れないといわれた時ははっきり言って諦めてた。
でも、少し希望が見えた。
その希望を表し始めたのは自分。
自分が見つけた希望。
何もすることのなかった自分が初めてやったこと。
それは足に無駄な刺激を与えないようにマッサージをしたりしたこと。
病院へ行って治療してもらってたこと。
それを繰り返してみたら足は楽になった。
約1ヶ月ほど続けていた2つのこと。
たった1ヶ月でこれだけ良くなるとは思わなかった。
少し感動した。この1ヶ月間何も考えずにいた。
ただ自分の足にマッサージや治療をしてもらっていただけなのに…
その嬉しさが大きく出て、また走れるようになった。
でも、完全に治った訳ではないので無理はしすぎてはいけない…
そのことだけ自分の中に閉じ込めておいた。
無理したら一回走っただけで今までの努力はなくなってしまうから…
だからちゃんと自分の中で『無理はしない』と決めてもう一度走ることを決めた。
―――――全然走ってなかったからすごく鈍くなってるのが自分でも分かる。
体力もなくなって最初に戻ったかんじ…
ちょっとショックだった…少し走らなかっただけでこんなにも変わるなんて思っても無かった…
それでも完全に1からやり直しではない。
少しは体力あるし、走り方も覚えてる。
一発目から全速力で行かないで少しずつ…少しずつ頑張っていこう。
まずは実力の三分の一の速さ。
大体マラソンで走る速さでスタート。
そこから少しずつペースを上げていく。
そうしていくことですぐには足に刺激は来ない。
これなら長く走れる。
次にある大会にも出れるかもしれない。
そんな期待を抱きながら練習に励んだ。
何日かして、足に痛みは来るけど走れる足に戻っていた。
クラブが始まる前と終わったら病院へ治療しに。毎日家に帰ったらマッサージ。
それを毎日のように続けていた。
だからこそ今の足がある。
少しでも走れるようになった足。
やっぱり陸上として走れない足は嫌だ…
趣味や急ぐ時だけに走る足なんていらない…陸上として走りたい!
陸上の選手として他の人と走りあいたい。対戦したい。
それほど走ることが…陸上が好きだから…
希望は誰かがくれるものと自分から開き出して見せるものがある。
そしてその二つを今自分は見つけた。
だからこそ少しでも走れる足になれた!
すごく嬉しいことでもあるし感謝の気持ちもある!
――――――もう一度走ることを許してくれた。
神様のおかげ?
――違う。
親のおかげ?
――違う。
支えのおかげ?
――違う。
じゃあ何?
そう考えると分からなくなる。
でも、言える事、
『神様は人を不幸にするだけじゃない。』
たまに…本当にたまに!
お願いを聞いてくれることもあるんだ。
そう。だからこそ希望をくれた。
一ヶ月頑張ったからこそ希望をくれた。
『――もう一度走るチャンスを』
でも、きっと神様にお願いするのなら何かを代償としなきゃいけないんだ…
その後悔はきっとまた後で来るんだろう…
でも今は…今は!走れた喜びでいっぱい!
もう一度走れる!
今の自分の足では何処までできるかわからないけど今は走れる!
その喜びがたくさん!
その喜びのおかげで練習してても足の痛みはあまりしなくなってきた。
逆に良くなってるようにも思えるほどだった。
―――――何日かして、大会があることを知らされる。
走れるようになった自分には嬉しい知らせだった。
―――でも、コーチはその喜びを消し去ろうとした…
コーチが大会の知らせを言った後、皆はまた練習に戻った。
そして自分も練習に戻ろうとした時、コーチに呼ばれる。
「悠、ちょっと良いか?」
その言葉を聞いた時に振り返りコーチのところへ行く。
そして大会について言われた…。
「今回の大会は…お前は出場させられん…」
その言葉を聞いた時体の力が全部抜けたかのような感覚に襲われる…
いきなり言われたコーチからの『出場させられん』の一言…
意味が分からなく立ち止まってるとコーチの口が開いた。
「悪い。でも、今の状態じゃ…出れないだろう…」
そんなことを言ってくる。
その言葉の意味が分からなくウチは反抗した。
「走れるじゃんか。だから練習にも出てる!今の状態?そんなの良いに決まってるじゃん!
だから走ってんだよ!」
そういうとコーチは「悪い…」と言う。
「嫌だね。絶対に嫌だ。走れるようになったんだ!だから大会に出させてよ!」
「・・・。」
「いままで頑張ってきたし、まだ走れる!コーチはウチが走れなくなる足にナルかもしれない事を
気にしてるんだろ!?でもな、今は平気。走れる。コーチに心配されるほどウチは弱くない!」
「・・・。」
「コーチは努力を強さだと思ってるんだろ?だったらウチは努力してる!だからこそまた走れた!
そんなウチは強いだろ?コーチが思ってる以上に強いだろ!だから走れなくなるかもしれないって
言われた時でも治療してなんとかここまで来た。それは努力があったからだよ」
そう言った時にコーチはやっと口を開いた。
「そうだ。俺は努力が強さだと思っている。だからこそお前を次の大会に出すか困ってるんだ」
その言葉を聞いたときに意味が分からなかった。
強さだと思ってる。
だったら次の大会に出してくれても良いと思う…
なのに出してくれない…
そんなコーチにだんだんむかついてくる…
「意味がわかんねぇ…」
そういうと
「お前は努力しすぎだ」
といきなりコーチが言い出した。
『努力のしすぎ』その言葉にすごくむかついた…
「意味わかんねぇよ!努力しすぎなんて見てる側に分かるかよ!」
そういって近くに合ったハードルを投げる。
そしてコーチがまた口を開く。
「悪い…」
またコーチが言った一言。『悪い』
その言葉にむかつき、古びたハードルを左手で殴る。
その時に古いだけ合って木がむき出しになっていた。
ちょうどむき出しになってるところに左手首を引っ掛けてしまい怪我をした…
流れてくる血液…
ポタポタ垂れる血…
そして
「お前、クラブに入ってから怪我することが多くなったな…」
とコーチが言う。
「怪我することは良いことだ。努力の証でもあるからな…」
その言葉聞いた時に左手首をコーチの目の前に差し出す。
「この血に誓ってやるよ」
コーチはポタポタ流れる血液を見ながら微笑んだ。
「分かった」
そういい納得してくれた。
「コーチに後悔はさせない。ましては自分にも後悔を残さない走りをしてみせる」
コーチはまた微笑んだ。
「お前は強いよ。このクラブに来た誰よりも。このクラブを変えてくれたのもお前だ。
お前が来てくれてから上位に入れるようになった。1位を毎回とれるようになって…」
「それ以上何も言うなよな」
左手首から流れる血液の速さが増す。
それを見たコーチは
「腕、上に上げとけ」
と言ったから言われたとおりに上に上げる。
血が下に流れてくる感覚が分かる。
ヒジまできてだんだん下に…
Tシャツに付きそうなときに
「血ーー!!!」
と叫びながらタオルで押さえられた。
それは奈緒だ。
リレー練習するからということで休憩室の前を通りかかったらウチ等がいることに気づき見に来たらしい。
そして血を流すウチを見てすぐタオルを持ってきてくれたらしい。
心配性の奈緒がやりそうなことだ(笑)
「コーチ!悠が血流してるのに見てるのはひどいよ!」
奈緒はコーチを怒る。
「悠!手当て!手当てしに行こう!」
そういわれタオルで左手を隠しながら奈緒に引っ張られる。
―――――そして奈緒が手当てしてくれてる時に言った。
「次の大会、悠がまた一番だろうね!いいなぁ」
一番。今まで上位に入ってた自分だけど…次ばかりはどうだろうか…
「どうかな?わかなんないよー今のウチは遅いからね」
そういうと奈緒は
「大丈夫!悠は期待の星だもん!」という。
そして
「手首、リストカットじゃなくて良かったね!」
という。
「まぁねwリストカットなんか怖くて出来ねぇ!」
というと
「えっ!?これわざとやったの!?」と聞かれる。
「まさか!わざとな分けないじゃん!怖いなぁ」
「だよね!良かった♪」
「練習戻ろうか」
そういって練習に戻った。
次の大会に向けての練習に励むために―――――
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