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コーチの思い

―――走れなくなるかもしれないと告げる前…

コーチはどんな気持ちだったのだろう…。

駅伝大会の時からコーチの様子はおかしかった。

やけに練習の時も気を使っていたし…。

その理由がまさか走れない足になるかもしれないと言うものだとは思わなかった。

『膝が痛い』きっとこのときから足は悪くなりつつあったんだと思う――――。

学校の時でも膝の痛さは続いていた。

だから陸上部の人や先生にも相談してみた。

でも返ってくる言葉はすべて同じで「走らない方がいい」だった。

中1の時のキャンプでも左膝を故障しており、班の人に迷惑をかけていた。

ずっと一緒についていてくれた人がいた。

荷物も持ってくれたりもしていた…。

きっとその時はすでに足が悪くなっている時期だったのだろう。

その時の先生もすごく気をつかっているのが分かった。

クラブでもコーチの態度が変わった。2006年8月下旬。

コーチと誰かがはなしているのを聞いてしまった。

練習していた時のこと。リレーの練習が終わってバトンを片づけようと、休憩室まで行った。

その時に窓が開いていて声が聞こえた。

「この子のことですけど…」

「あぁ、もしかしてアレですか?」

「そうです。今はどうですか?」

「あまり走らせないようにしてますが…難しくて…」

そんな会話をしていた。

そして疑問に思った。

『この子』わざわざ名前を出さなかったコーチと話してる相手。

すると袋の音が聞こえた。何かを袋から出している音…。

「この薬を渡しておくので、もし今より悪くなりつつあるのなら使ってください」

と言ってから

「私はこれで…」

と言い、立ち上がるときにするイスの音が聞こえてとっさに今いる場からバレないように隠れた…。

「本人にはまだ何も言わないで、もっとひどくなって走るのも辛そうになったら…

言ってあげてください」

「でも、それじゃ遅いんじゃ?」

「構いません。今はもっと楽しく走りたい時でしょうから…

それとまだ中学一年です。暴れたい時期でしょう」

「……そうですね……。わかりました……」

最後に二人がした会話。

まさか自分が走れなくなる足になるなんて思わなかった。

違う人のことだと思っていた。

その後コーチと話していた人の姿を少し見た時に白衣のようなものを着ていた。

そこからどこかの医者だと言うことは分かった。

医者とコーチの接点を考えていたりさっきの会話の意味を繰り返し考えてみたりしてから、

もう10分は経ったと思う。

そろそろバトンを返しに行こうと思い休憩室へ。

そしてドアを開けてから「やほー」とテンションを上げて中へ入った。

コーチは何もなかったかのように明るく「おぉ!」と言った。

そして机の上にある薬品の袋を3つほどみた。

そして「その薬…ま、まさか!?」と驚いたフリをしてから

「コーチ…酒の飲みすぎで!?」と言った。

「バカか!俺はまだ29じゃ!酒で病気になる年じゃねぇ!」

「へぇ?36の間違えだぃ!」

「いや〜32ね!32!勝手に年を変えないの!」という。

「勝手に変えだのどっちだよ!」と笑いながら言いバトンを机に置いて袋を手にする。

袋を手にしたときに驚いた。

「名前…ウチじゃんか」

そう。

そこに書いてあった名前はうちだった…

「お前、酒の飲みすぎじゃね!?」とコーチは言う。

でもコーチの表情はすごくひきつってる感じだった。

それを見ても

「ハッハハ。まだ未成年かな!?」と明るく振る舞う自分がいた…。

きっとこの時も自分が走れなくなると言うことは思っていなかったからだと思う。

薬を手にするコーチ。そして「この中身はちゃんと全員分ある。

中一のキャプテンのお前の名前を代表に書いてあるだけだから。」と言った。

それでも疑問は途切れを知らない。

あのコーチと話してた相手は、いったい誰だったんだろうか…。

今、コーチが言ったことは本当なのだろうか…。

種類の違う袋…。

本当に他の人の分もあるのだろうか…

袋が小さすぎる気もするし…

ずっと袋を見ていたらコーチが口を開いた。

「何見てんだ?まさか俺のことを!?(笑)」

と冗談で言ってくる。

そして袋を手に持っていた方を隠すかのように後ろへ持ってく。

そのあと

「あんま考えすぎんなよ。後で後悔する様な考えは捨てろ」

と言い、ウチの頭に手を乗せ髪の毛をグシャグシャにする。

『後悔するような考えは捨てろ』

その言葉で少し不安感は消え、いつものように練習を再開させた。


―――――きっとコーチはその時の言葉を後悔していないんだろう…

『後悔しない考え』

それを教えておけばあの薬の事も忘れてもらえる。

『俺が言った事も嘘かもしれないだろ』と言う希望があったんだろう。

『走れないと知った時の後悔』

もし今自分の中でその一言があったら走る事も嫌になってしまう。

だからこそ言った一言だったのだろう…


簡単に言えば…

それを教えておけばこの先、何があっても乗り越えられる。

そう思ったんだろう…。


でも、今思えばその考えは甘いと思った。

だって自分はそこまで強くはないから…

人よりは努力はしてるつもり。

でも、「努力」は強さじゃない。

コーチは間違えてる。

きっと人の努力を強さだと思い込んでるんだ。

だからあの時ちゃんと言わなかった。

「走るのは当分やめておけ」って…


コーチの考えが分からなくなる…

コーチの思いが分からない。


それとも自分が理解しようとしてなかったのかな…。


あの時のコーチの思いを…考えを…。


自分が理解してあげないと今のコーチの考えは分からない。

でも、コーチももっと分かるように言ってくれれば…


頭の中に「コーチ」の3文字が続く…


コーチ


コーチ


コーチ…


嫌になってくる…

だってもしかしたら自分かもしれないんだ。

もしあの医者らしき人とコーチが話してた『あの子』

がウチだったら…

そんな考えをしてるともっと分からなくなってしまう…


でも…

でも、もしあれはウチじゃなくて他の人だったら?

その方が嬉しい。

自分じゃない。他の人。


そうだ。まだ分からない。

他の人の可能性はある!

ただ自分だけで『うちの事か…』なんて思ってたら先には進めない。

だからこそ決めた。


『まだ分からない未来はそのまま』

『今考えてどうにかなるものじゃない』


そう考えていたら気持ちもすっきりし

不安感も無くなった。


走って走って…走って今より不安感を全てなくしてやろう。

そう思い全力疾走するかのように走り始めた。


そのおかげで不安感はなくなり自分を安定させる事ができた。



―――――結局コーチの思いは…

分からないままだったが…


でも、

いまは良い。

そう思えたからだと思う…


まだコーチの思いは知らないほうが自分のためにもある。

そう思えた。


だからコーチの今の思いを聞かない…

考えないようにした。

次回も読んでください

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