走れなくなる絶望
陸上というスポーツを始めてもう2年が過ぎた。
今までに何回か大会にも出て高成績もたくさん残せた。
まだまだ自分はやれるのかな。そう思っていたときだった。
今までにない最悪な事実を知らされるのは…
―――――――――1月の中旬。
皆で練習してる時のことだった。
久しぶりにハードルをやっていて楽しんでた。
そろそろ飽きてきてハードルを片付けてた時、
倉庫に運んだ後出ようとしたら何かに引っかかり足首を浅く切った。
きっとどっかからか木が突き出てたんだろう…
でも、浅い傷と言っても結構血が出てきてたので手当てをしてもらうことにした。
その時いきなりコーチに呼ばれる。
その内容がどれほどの絶望を自分に与えるのかそんなこと誰も理解できなかった…
休憩所に行き、コーチと1対1で話し合いが始まる。
重い空気。
なんだか嫌な感じがすると思っていた。
「いきなり呼び出してスマン。だがな、そろそろ言わなきゃいけない事があるんだ…」
その時のコーチの表情…言っていいのか、言わない方がいいのか…
まだ迷ってるかのような表情をする。
「なんですか?」
そして決意を決めたのかコーチは話し始めてた。
「この前、一人一人が審査しただろう?」
審査…その審査は今から2週間前の事。
皆の今の足の状態を見るために行った審査の事。
「それが?」…。
コーチは右手で自分の顔を抑え言っていいのか迷っている。
だから「言ってください。」と言った。
そして…「その審査でお前だけが引っかかったんだよ…」と言われる…
自分だけが引っかかった…
自分だけがその審査に…意味が分からなく「なんでうちだけが…」と聞くと
「その足にしたのは俺の責任だ…悪かった…でもな…」
一旦言葉をとぎった。そして「お前は足に限界がきてる。
このまま走り続けると走れない足になる。」
そういわれた瞬間、罪悪感が頭の中をグルグル回った…
「走れないって…なんで」
「わからん。ただ症状は最悪だ。二度と走れない足になりたくないだろう?」
「もちろんです」
「じゃあ治療して、まずは足を治せ」
「わかりました」
「無理をしたら足の命は無いと思え」
「…。」
「悪い…本当に悪かった…俺のせいで」
申し訳なさそうに言うコーチの顔を見るのがいやで窓越しに見える皆の走る姿を見ていた。
そして聞いた。
「治らないんですか?」
「いや…治るっちゃ治る。だが手術になるだろう…」
手術…一番嫌いな言葉…でも治ると聞いたから
「手術すれば前みたいに走れるんだ…」
「…いや、治るは治るが、走れるようになるかは…人それぞれだが俺にもわからない。
でも、走れなくなるとしても『陸上』として走れなくなるだけだ。」
陸上として走れない。
中学一年の5月から始めた陸上。
それを走れない。
じゃあ…それだけの理由で陸上を諦めるという事になるのかな…?
「なんでお前は陸上部として入らなかったんだ?」
いきなりコーチから言われた一言。
一番聞かれたくなかったこと…「それは…」言おうか迷ったが言葉を止めていた…
「陸上部としての活動ならばここのように厳しい練習はなかったんだぞ?
特にここは男子に合わせた練習だから女子には辛いだろう?」
「………。」
「それでもここに来てる女子は確かに頑張ってる。
だからこそ今は男子と同じくらいのレベルのヤツが多い。
お前もその一人だが…俺達大人の中ではお前の実力をほしがる人はたくさんいる。
高校でも必要とするやつもいるだろう…」
「高校?今そんなのどうでもいいじゃん。」
「お前が陸上部として入ればお前の学校の陸上部はもっとレベルが上がるぞ?
可能性ではお前だけでもずっと上にいける。なのになんでクラブなんだ?
特にいいことも無いのに。陸上部のほうがもっといいところまでいけるんだぞ」
さっきから言う陸上部、陸上部の一言がむかつく…そんなの陸上部がえらい?
そんなにうちを陸上部に入れたい?ふざけてる…
「今からでも陸上部に入「うっせぇよ」
コーチが話してる言葉をとぎる。
「陸上部が何なんだよ。知るかよ。確かに陸上部として入れば
もっといいところにもいけるし一人だけでもいいトコにもいけるかも知れない。
でも、陸上部には入らない。」
その言葉を聞いてコーチは唖然とする。
きっとその時のうちの目はいつもと違ったんだろう…
陸上部として入らない理由…それは言わない。
別に過去のことを引きずってるわけではない。
ただ、ある理由があるから――――
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駅伝大会。あれが最後に走る大会になるとは思わなかった。
もう一度…もう一度だけ走れるのなら最後の大会を…
・・・コーチとの話し合いが終わり一人休憩室で窓越しに走る皆を見る。
椅子に座りながら窓に左頭を当てながら…
そしてさっき切った足首から流れる血を気にせず壁に足首をドンドンとぶつける…
ポタポタと足から落ちる血液…それも今じゃ全然気にならない…
ただ走れなくなるぞといわれた時の大きいショック…
走る事が本当に好きだった自分への選択肢。
『クラブを辞める』
『手術をやる』
どちらにしろ良い結果にはならない。
だけど陸上として走れないだけならば今の足でもいいと思った。
だから決めた。
クラブを辞める事を
―――――――――――本当に走れなくなった事実…
コーチは自分のせいだといった。
それの本当の理由を知るときは…
いつ来るのだろう…
次回も読んでください