4 ぐるがる:ずっといた目撃者
事件から二日目の放課後。首吊りのあったポプラ並木に、渉真と志牙はふたたび訪れていた。
この前と同じく、辺りは静けさに包まれていた。遠くの校舎から微かに聞こえてくる生徒のざわめきや、木の葉がそよぎ、枝と枝がすれ合う音が、遊歩道の静謐さを逆に強調している。
「何か簡単に入れちゃったな」
「う、うん。入れたね」
現場検証をしていた警察も引き上げ、わざわざ野次馬するような物好きも、二人の他にはいなかった。
「最近は人知の及ばない事件も増えたって言うし……自殺疑惑からのゾンビ騒動くらいじゃあ、この程度の注目度なのか。昼間はまだ封鎖してたみたいだけど」
「それに、ここ、一応、通り道だもんね」
「人通りはこの通りだけどな」
死線をくぐり抜け、病院では友達宣言、さらに今日の昼も外で一緒にとったおかげだろうか。志牙と話す渉真の口調もだいぶ砕けてきたようだった。
「でも人未、いいのか。放課後まで、こんな……探偵ごっこに付き合って」
「え、あ、うんっ。わたしのお弁当箱も、気になるし。でも、あの、箱自体より、包んでた手ぬぐいが、気に入ってて」
「ああ、それなら大丈夫」
「えっ?」
「ほら、人未と学食で別れた後。先に下見してきたんだよ。その時はまだ、警察がいてさ。事情を説明したら、弁当箱が落ちてたって。何もなければ、すぐ返してくれるさ」
「そ、そうなんだ、よかった……。でも、中身腐ったりして、手ぬぐいに変な臭いがついたりしないかな……」
ゾンビの顔面にぶつかって土足で踏みにじられた時点で相当嫌な気もするが。
「それも大丈夫だと思う。弁当の中身は空だったらしい」
「空っぽ? も、もしかしてゾンビが、あのあと首だけで動いて、落ちてたお弁当を……」
「意外と想像力が逞しいな。いや、ゾンビは弁当食わないって。食べたのは多分、L組の誰かだと思う」
L組はドワーフ、ブラウニー、レプラコーンなど、小人族たちが集められたクラスである。
「L組の、ヒトが?」
「うん。警察官の話によると、現場近くの草陰に意味ありげに置かれてたんだけど、食べ終わった弁当箱を放置してた割には容器も洗ってあったんだって。ご丁寧に手ぬぐいで包まれてるのが、警察の人には不審だったみたいだけど」
「たしかに、不思議、かも。でも、どうして、阪井くんはL組のヒトだって、思ったの?」
「レプラコーンとかブラウニーって、落ちてたものを勝手に失敬する癖があるんだよ。それとは別に、床の上にパンやミルクを置いておくと、そのお返しに家の中を掃除してくれたりすることもあるらしくってさ。推測だけど、落ちてた人未の弁当を拾って、中身を食べた後、『お礼』として洗って、包んで元あった場所に戻したんだろう」
弁当箱を綺麗にする代償に、弁当箱の中身をもらうというのは、あまり釈然としないが。
志牙は長い前髪の間からのぞく金色の瞳を輝かせ、
「すごい……阪井くん、探偵みたい」
「いやいや。同じ寮にL組のレプラコーンがいて――ああ、小靴って言うんだけど、それで、似たようなことがあったってだけ」
鯨渦学園の敷地内には幾つもの学園寮があり、主に“通境者”たちが暮らしている。人間が利用するケースは珍しく、渉真が借りている寮も人類種用ではあるものの、彼以外は全員“通境者”だった。
「でも、わたし、レプラコーンのヒトのそういう癖……みたいなのも知らないよ。阪井くんって、色々なこと、知ってるんだね」
むしろ、“通境者”の志牙の方が詳しいと思った――
口にしそうになって、止める。
志牙は“通境者”ではあるけれど、あくまでそのなかの一種族の“食屍鬼”であり、なにより“人未志牙”という一人の女子生徒だ。
自分の思い込みを心中で諌めつつ、
「それほどじゃないよ。僕だって、この学校に入るまでは、ほとんどそういった言い伝えや昔話は知らなかったし。勉強熱心ってわけでもないし、頭が回る方でもないし」
「でも、この前のトランプタワーの問題だって、とっさに口に出たっていうけど、わたし、そんなの一瞬で考えられないよ。答え、ずっと考えてるけど、まだわからないもん」
「……まだ考えてたのか。いや、そんな真剣に考えるクイズじゃ――っと、ここか」
話をしながら歩いている内に、気づくと渉真たちは一本のポプラの前にいた。同じ植物の雨祢なら判別がつくのだろうが、見た目では、何十本も隙間なく並んでいる他のポプラと違いはないように見える。
しかし、それでも二人には、はっきりとゾンビが首吊りをしていた木だとわかった。彼らの視線の先には、枝がぽっきりと根元から折れた跡が、痛ましい傷跡のごとく木肌に残っていた。
「……そうだね。この窪地も、見覚えあるよ」
「たしかに、高根騒の見せてくれた写真のところで間違いないみたいだ」
雨祢の名前を口にすると、志牙の癖毛がぴんと跳ねた。
「たかねさわ、さんも、やっぱり阪井くんの友達、なんだよね。H組の人じゃないよね?」
「うん。ずっとP組にいるせいなのか、人の話聞いたり、聞きかじった噂から色々推理するのが趣味なんだよ」
「P組……。じゃあ、植物系の“通境者”、なんだ。……本当、色々なヒトと知り合いで、すごいよ」
またも、志牙からまぶしい視線を向けられ、
「いや、だから、そんな僕は顔役みたいな人間じゃ……でも、寮暮らしだから、交流する機会は多いのかな。空中庭園から出ることのないアルラウネの高根騒とは、ちょっと変わった出会いしたんだけど」
「あ、アルラウネ……って、女のヒトっ、だよね。出会いって、どっ、どういう?」
予想外の志牙の食いつきに、渉真は戸惑った。
「いや、そんな驚かれるほど大した話はないぞ。ただ、あいつの『推理』も結構バカにならない、って経験があってさ。ほら、ここ窪地になってるだろ? 僕にはよくわからないんだけど、あいつは現場に来たわけでもないのに知ってたんだ」
「そ、そうなんだ。すごいんだね、たかねさわさん……。でも、この窪地、何なのかな」
「うーん……高根騒は『文字通りもう何もないと思うから調べなくていいよ』とは言ってたな。『他に見落としたりしたことの方が大事』とか、後は『この並木道には管理者がいるから、証言を聞いてほしい』って――」
『――柵を越えるな』
突然、声がした。
「うわっ!?」「きゃっ!?」
渉真と志牙は同時に驚きの声を上げ、きょろきょろと辺りを見まわした。
周囲に、人影はおろか、鳥や虫の影も見当たらない。
渉真は注意深く声のトーンを落とし、志牙に囁く。
「……聞こえた?」
「……う、うん。こっちの、木の中から」
志牙が恐る恐る、首吊りの木の真横にあるポプラを指さした。
その木にはプレートが掛けられていた。街路樹に用いられる説明用のもので、並木道の入り口と出口にあるポプラの木に取り付けられたプレートには、『ヨーロッパクロポプラ』という和名と学名が記されていたのだが――
「は、はまどりゃ……? あらきみれい?」
そのプレートには『Hamadryades nigra』とイタリックで書かれた下に『沐木未齢』とあった。ラテン語は読めないが、ルビの振られた和名は明らかに樹木の名称ではない。
渉真が首をひねっていると、
『――ハマドライアド』
また、声がした。
間違いない。声は、渉真たちの正面にある木の中から響いてきた。
『森林精霊。沐木。未齢。好きなように呼べ。とにかく。柵を越えるな。花壇を荒らすな』
ドライアドという響きには聞き覚えがあった。木の精霊。
なるほど、これが雨祢の言っていた『管理者』というわけか。
渉真は居住まいを正すと、ポプラの木に向かって会釈をした。
「お騒がせして、すみません。ぼくたち、ここの事件を調べたくて」
『事件?』
エコーのかかった声が、問い返す。
「ええ。一昨日のことなんですけど、ここで人が亡くなって……」
『知っている』
『そりゃそうか』と、渉真は思った。いくら、異形・怪異・精霊の類とは言え、目の前にいるハマドライアドはポプラの木にしか見えない。事件の起こる前から、今に至るまで、ずっとここに根を下ろしていたのだろう。
「当然のこと聞いてしまって、すみません。それで、男の人だったと思うんですけど、事件当日に見かけませんでした?」
『昨日も聞かれた。昨日の男たちに話を聞けばいい』
昨日……。現場検証をしていた警察のことだろうと、渉真は当たりを付けた。学生が警察に行ったところで、門前払いになるだろう。
「えっと、そのお手数だと思いますが、もう一度お話聞かせてくれませんか?」
しっかり並木道の管理者として、市民の義務を果たしている“通境者”の手を煩わせるのは気が引けるが、仕方ない。渉真自身の好奇心もあるが、なにより、僻地の庭園で話題に飢えている友人のためだ。
そもそも人死にが出た事件に首を突っ込むこと自体が不謹慎だが、こちらも殺されかけたので見逃してほしい――と、心のなかで言い訳を一つ。
『――中から話すのも。煩わしい』
ポプラの奥からくぐもった声がした。
そして、
めきめきめきめきめき――
幹に亀裂が走り、二つに裂けて、開いた。
そして、中から現れたのは、
「っ!?」
褐色の肌をした女性だった。
渉真と志牙は思わず息をのんだ。
「人と話すには。この姿が。いいだろう」
幹の中から姿を現したハマドライアド――沐木の声に、先ほどまでのくぐもった感じはない。
かぐや姫のように、木の洞に収まっている沐木。腿から下は樹皮となり、根本は幹の内側と同化していた。腿から上は人間の女性と変わりない。
一糸まとわぬ裸体も、まったく人間と変わりなく――
「だ、だめっ!」
いち早く我に返った志牙が、渉真の目を後ろから手で塞いだ。
「人未っ、前っ、前が見えない!」
「前は、見ちゃ、だめ……っ。し、しししらない女のヒトの裸は、見ちゃいけないんだよっ」
暴れる渉真に、しがみつくようにして目隠しをする志牙。
「じゃあ、後ろ。後ろに目をやるから、まずは目を押さえるのをやめてくれ」
「わ、わかった。――って、どうして先に手を外す必要があるの?!」
「物は試しに。上から押さえられなければ、根性で眼だけを後ろにやることもできるかもしれない。人間の可能性だ」
「できないよぉ! いや、わたし、人間の体に精通しているわけじゃないけど、多分……いや絶対、できないよっ」
「じゃあ、このまま後ろを向くから、人未、ちょっと動きに合わせてくれないか」
「こ、こうかな?」
手の位置がずれないようにするためだろう。つま先立ちで目隠ししていた志牙は、さらに渉真の体に身を寄せた。密着した。左の肩甲骨下あたりに固い感触を感じる。おそらく、一昨日、胸ポケットから取り出していた志牙の生徒手帳だろう。では、右側に感じる柔らかい感触は何だろうか?
「………………」
「? どうしたの、阪井くん?」
急に黙った渉真に、志牙が不思議そうな声で聞いた。渉真はつとめて冷静な声で、指示をする。
「いや、じゃあ右回りに。足取りに気を付けて。手が外れないように、もうちょっと力を入れた方がいい。さあ、早く」
「え? これで、だいじょうぶ?」
「もっと強めがいいかもしれない」
「でも、それだと、阪井くん、痛くない?」
「平気だ。もっと、ぎゅっと。強く、抱きしめるように」
「……私に。聞きたいことが。あるんじゃなかったのか?」
じっと二人を眺めていた沐木が、ついに口を挟んだ。
植物系の“通境者”らしく、平坦で物静かな喋り方の未齢だったが、どこか呆れたような声音になっていた。
志牙は目隠ししながら器用に身を縮め、
「ご、ごめんなさ――」
「すみませんが、ほんの少し待ってくれませんか、沐木さん。なるべく早く後ろをむきますから。人未、転ばないようにゆっくり回ろう」
渉真はきっぱりと言い切った。
「え、あ、うん。あれ? 何か、今の前後の文、すごく矛盾してないかな?」
「1、2で動くぞ。ほら、1、2」
「いっ、1、2っ」
視界を塞がれた状態の渉真だったが、その足取りは不思議なほどに自信に満ちていた。一方の志牙はといえば、二人羽織りのような姿勢のため、渉真の動きに合わせて動くたびに、なだらかな曲線を描く彼女の胸を、渉真の背中に、右へ左とこすりつけるような格好となる。
五感の一つがないせいだろうか。感覚が鋭くなっている。控えめな志牙の胸部だったが、研ぎ澄まされた触覚の世界においては計り知れない存在感を示している。
そう。それはまるで大山のごとく――渉真には感じられた。
「………………」
鋭敏になった感覚は、横から刺さる視線をしっかりとらえていたが、渉真は気に留めない。志牙はといえば、無言で見つめる沐木に、びくびくと怯えながら、
「……さ、阪井くん。その、沐木さんに、すごい見られてるよ」
「大丈夫。気にせずマイペースで行こう」
「う、うん。……いいのかな?」
疑問の声をあげながらも従う志牙。1、2、と小さく掛け声を出しながら、渉真と一緒に回る。
目元には手から伝わる体温、背中には柔らかな感触、うなじに熱い吐息を感じながら、渉真は無言で、ゆっくりと、着実に、後ろを向いた。
「――ふう」
思わず、達成感で溜息をついた。
「あの、じゃあ、手、放すよ?」
ゆっくりと視界が開けていく。まぶしそうに目を細め、感に堪えないように、
「世界が光で溢れて、輝いているみたいだ……」
「う、うん? そうかな? そろそろ、日も傾いてきてないかな」
「ほら、日の光に照らされて、真っ白な柵が輝いて見える」
「えっと、ペンキが剥げて、すこし色あせて見えるよ? あの部分とか、ペンキも塗ってないし」
志牙の言う通り、渉真が指さした先の柵は、たしかに一部分だけ塗装がされておらず、作りも他の部分と微妙に違う。
「本当だ。塗ってないというか、新しく柵だけ作ったって感じだな」
「……あの事件の夜。柵が壊された。夜は。本来。私の領分ではないから。しっかり見てはいないが。ブラウニーが。直したのだろう」
ずっと黙って二人のやりとりを見ていた沐木が、口を挟んだ。
「あ。沐木さん、僕たちの話、聞いてたんですね」
「…………。話がないなら。帰れ」
「嘘です冗談です。僕たちの話、聞いてください」
「阪井くんっ、しっ、自然な感じでふりむかないでっ」
「よし。じゃあ、また目隠しを――」
「……堂々巡り。疲れる。私のこの姿が。隠れればいいのだろう?」
うんざりとしたような声が背後でしたかと思うと、ざわざわと枝葉の鳴る音が聞こえた。
「これで。問題ないだろう」
まず、志牙が振り返り、渉真にひとつ小さく頷いた。振り向くと、幹が閉じていた。また隠れてしまったのかと思ったが、違った。
先ほどより高い位置の樹皮がカーテンのように開き、そこから沐木が姿を見せていた。
わざわざ上に移動した理由は、すぐにわかった。しなやかなポプラの枝が、超自然的な力により、自ら蛇のように湾曲し、沐木の裸体を覆っている。地面の近くから姿を現している状態では、枝の先端くらいは届きそうではあるが、体を隠すほどの長さはない。だから、一度、枝に近い位置まで人型を移動させる必要があったのだろう。
だが、やはり無理があるのか、強引に曲げられた枝は小刻みに震え、その間から沐木の滑らかな肌がちらちらとのぞき、渉真たちからはそれを下から見上げるような形になる。
じっと渉真は沐木を見上げていたが、満足げに頷くと、
「……これは、これで」
「――阪井くん?」
志牙が今までにないような低いトーンで名前を呼ぶ。
「しっ、しし、しかし、木の中が空洞になってて、エレベーターみたいに移動できるんですね、すごいですね。でも中身がすっぽり空洞になってて木は大丈夫なんですか。やっぱり沐木さんの力で何とかなってるんでしょうか」
思わず早口でまくしたてる渉真。
「形成層より内側。洞になってても問題ない」
沐木の答えは簡素だった。
「思ったより現実的な回答だった」
「聞きたいことは。それだけか。では――」
「いやいやいや、まだです本題はこれからです」
「もう。疲れた」
植物系らしく無表情ではあるが、沐木の顔には確かに疲れがにじんでいるように見えた。そういえば、さっきから実のある話を全くしていない気がすると、今更ながら渉真は気がついた。
「すみません、もうちょっとだけ。あの、一昨日、ここで首を吊ってた男……沐木さんは見たんですよね」
最初に訊ねようと考えていた質問を口にした。沐木はあっさりとした口調で、
「見た」
「それで、その人が生前、ここで何をしてたかも見ましたか?」
「見た」
当たり前のように答える沐木に思わず、
「本当ですか?!」
「本当だ。私は。ずっと。ここにいる」
そう。当たり前だ。
樹木の化身である沐木は、事件の前からずっと、事件の後もずっと――そして事件の間もずっと、ここにいたはずだ。
沐木は淡々とした口調で、
「何日か前の夜。あの人間が柵を乗り越えて。花壇を荒らした。そして死んだ」
「死んだ? えっと、それは自殺……したってことですか。それとも他人に……?」
「自分で。勝手に死んだ。迷惑だ。土に還るなら。それでいい。しかし人間は。死ぬと起き上る。辺りが騒がしくなる。五月蠅くて。面倒だ」
人が死んだことよりも、花壇を荒らされたことや面倒事が増えたことの方に、沐木は重きを置いているような話しぶりだった。
実際、心の底から、そう思っているのだろう。
ハマドライアドである彼女と、渉真の物の見方とは違うのは、当たり前のことだ。
「自殺、なんですか」
「そうだ。柵を乗り越えたとき。花壇を荒らすなと。私は止めたが。あの人間は。聞かなかった」
「……その後、彼が死ぬまでずっと見ていたんですか」
どうして、止めなかったんですか――とは、聞かなかった。
「人間と会話するのは。疲れる。それにあの人間は。私の話を。最期まで。聞く気はなかった。枝を使って追い払っても良かったが。人間を傷つけると。人間が怒る。それも疲れる」
「……たしかに、そうかも……ですね」
「もう。寝る。疲れた」
義務は果たしたと、沐木は話を切り上げた。
「あ」
止める間もなく、天の岩戸のように、幹がゆっくりと閉じ、沐木の姿が見えなくなった。何度か呼びかけるが、反応はない。周りのものと全く変わらない、何の変哲もないポプラの木に戻っていた。
「やっぱり、自殺だった……の?」
志牙は呟いた。
茶谷氏の死にざまは不自然だったし、雨祢は『殺し』だと言ったが、今の話を聞く限り、そうとしか考えられない。
渉真は頷き、
「そういうことに、なるのかな」
――沐木さんが嘘をついていなければ。
ひっそりと、胸の中で付け加えた。