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迷惑よりの使者  作者: 藍澤ユキ
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第二章

第二章

 

「……ゃん……ちゃん。……こおちゃん」

 聴き覚えのある声と人の気配を感じて目を覚ますと、どういうわけかアヤメさんと目が合った。

 アヤメさんはベッドに腰掛けて、上半身を捻った格好で僕を覗きこんでいた。

「っわ! ちょ、なんでいんのっ!?」

 ここは僕の部屋だぞ! って、顔近い! 近いっ!

「おっはよー、こーちゃん。パンツは大丈夫かな? お風呂場へ洗いに行かなくても平気?」

「って、なっ、脱がそうとしないでよっひゃぁ! どさくさ紛れに触るな!」

「そっかー、夜のうちに空にしといたのかなぁ?」

「な、なんの話しをしているのさ!?」

「やだな、とーぜん自家発電の話しだよ? あ、ゴミ箱に謎のティッシュの山はっけーん!」

「うわーっ!! それには触らないでっ!」

 慌ててアヤメさんからゴミ箱を奪い取る。この人は危険過ぎる……気付いても気付かないフリをしてあげるのが中学男子に対する優しさじゃないか! 非常識だよ! ひどいよっ!

 ふと気付くと、少し開いたドアの隙間から、こっそり中を窺っている人影があった。

「……か、母さん?」

 声を掛けられてビクッとした人影は、ゆっくりドアを開けて顔を覗かせてくる。

「 こ、こーくん。母さんね、まだこーくんにはそういうのは早いんじゃないかなぁーって……ねぇ?」

 おろおろとしている割には、好奇心で眼が爛々としている我が母親。チラチラとアヤメさんの顔を盗み見てる。『そういうの』って、どういうこと言ってんのかな……微妙に触れにくい話題だな……。

 そんな母親の後ろに……親父もいた。めっちゃこっち見てる。

「公太、そんな羨ましすぎる青春、父さんは認めないぞ……。断じてだ!」

 なんかベクトルが間違ってるよね!? あ、親父、唇を噛み締めすぎて血が……。

「あー、ママさん。ならびにパパさん。ご安心ください。この札辻アヤメがこーちゃんを立派な『オトコ』にしてみせます。ロリコンからは足を洗わせますよ、日本のために!」

 アヤメさんが胸を反らしながら宣言をする。ふむ。結構デカイな。あ、いや、そーじゃなくて、だからロリコン違うって言ってんのに!

「あらー、アヤメちゃんは日本のために頑張ってるのね!? すごいわぁ!」

 おい、母よ。今の話しに感心するポイントは一切ないからね?

 そして親父。『オトコにしてみせます』を反芻するな。そこ反応するポイントじゃないから。そしてこっち睨むな。


 どこに納得したんだか妙に機嫌のよい母親と、ぼそぼそと呪詛を呟く親父に見送られながら、僕はアヤメさんと一緒に学校へと向かった。

 自宅から学校までは歩いて二十分ぐらいなのだが、その二十分で僕はすっかり学園の有名人になってしまった。

 なぜなら、ビジュアルだけならモデル並の女子高生に、べったりと抱きつかれながら登校している中学男子なんてものがいたら、そりゃ目立たないわけがない。

 他の生徒たちから向けられる視線と、明確にそれとわかる殺意が刺さるように痛い。

 途中、出くわした同じクラスの連中も、遠巻きに眺めているだけでさっぱり近寄ってこようとしない。

「こーちゃん。顔が赤いけど、どしたのかな? おねいちゃんと一緒の登校に照れてるのかな? ん~もぉ、かわいいんだから!」

 そう言ってアヤメさんは抱きつく腕にぐっと力を込めてくる。

 おかげで僕の二の腕がアヤメさんの双丘に沈み込む。

 柔らかでいながら適度に跳ね返してくる弾力。制服越しにも伝わってくる体温。ズボンのポケットに手を突っ込まざるを得なくなってしまった。だって青少年はいろいろと敏感だからね。心持ち前かがみに……平常心平常心……。

「僕のタマシイを取ろうとしてたくせに、いったいどういう心境の変化なのさ?」

 妙に積極的なスキンシップ。フラグを立てた覚えはないからね、どんな魂胆なんだろう?

「えー? ただ向こうの出方を待ってるだけじゃつまんないからさぁ、あたしの力で未来を救っちゃおっかなーっと思ってね」

 こうしてくっついて歩かれると、アヤメさんの方が少しだけ背が高い。なんでか少し凹む。

「それとベタベタしてくるのは関係あるの?」

 この人の話しは飛躍が多いから困る。

「ほら、こーちゃんが治れば未来の惨事もおこらないでしょ? だから、あたしの魅力で年上好きに洗脳しちゃおっかなーってね♡」

「――一応、訊いておくけど、僕の何を治そうっての?」

「ロリコン」

 当然だと言わんばかりに真顔で答えるアヤメさん。

「はぁ……いい加減、訂正するのも疲れてきたよ……」

「大丈夫、おねいちゃんが真人間にしてあげるからさっ!」

 ケラケラ笑いながら背中をバンバン叩いてくる。人の話し聞いちゃいないし……。

「んじゃ、またあとでね、こーちゃん♡ ほら、お別れのちゅーは?」

「しないよっ!」

 いや、だって心の準備とかいろいろあるじゃないですか、ねぇ?

 そうして校門をくぐると、アヤメさんは高等部の校舎へと向かって行った。

 あれ? ちゃんと通ってんだ!? なんだ本当に生徒だったのか。意外だな……。


 * * *


 アヤメさんと別れて中等部の昇降口へとやって来ると、そこでクラスの連中に取り囲まれた。

「コータ。おまえ、あのおねいさんと、どういう関係だよ!?」「なに? つきあってんの!?」「不純異性交遊だー。センセー、ここでーす!」「おねいさんは優しくいろいろしてくれる!? ん? どーなんだ!?」「もげろっ!!」「ふにゃちん」

 みんな好き勝手言ってくれてんな。しかし、最後のやつは中学男子の矜恃にかけて全力で否定しておきたいところだ。失礼にも程があるよ!

「ちょっと、みんなねぇ――」

 証拠を見せてやろうか! ぐらいの勢いでいたら、背後から声を掛けられた。

「こーくん、なんで今日は先に行ったの?」

 無表情で怒るクルミだった。無表情なのにわかってしまうぐらいには付き合いが長いのだ。

「いや、これには色々と事情があって――」

 今日はクルミを待っている余裕はなかったからね、アヤメさんに朝駆けされたから――とか思っていると、

「氷川。コータのやつは高等部のおねいさんとイチャコラ同伴登校で忙しかったんだよ。『いやらしいっ!』『不潔っ!』『ひとでなしっ!』っと思ったかもしれないけど、それで大体あってる」

 何処からともなく現れた勇太が、外連味たっぷりに小芝居しながらクルミにチクる。

 いや、そこはフォローしようよ、友人として。

「こーくん、ホント?」

 かわいがっていたハムスターが逃げ出したの。みたいな切ない表情のクルミ。いや、無表情だけどね。わかるのよ。

 まぁ、嘘じゃないだけに、そこはかとなく胸が痛む気がしないでもない。

「残念ながら事実だ、氷川。諦めるんだ。穢れを知らぬ清いこーくんは、もうどこにもいない」

「おい勇太。さっきからいやに絡むね。なんか恨みでもあんの?」

 一番の友人だなんて思っていた僕がバカだったのか? 人間不信になったらどーしてくれんだ!?

「恨みぃ? あるに決まってんだろ! なんだあのおねいさんは!? おまえだけいい思いしやがって! オレにも半分よこせ!」

「痛い痛い! 首絞めんなって!」

 向こうが先に人間不信になってた。

 でも、半分ってなんだよ!? 片乳ってことか!? 

 っというわけでアヤメさんの片乳を妄想していると、

「……」

 無言でクルミがローキックを入れてきた。脛に炸裂。

 けっこう痛い。そりゃ弁慶も泣いちゃうわけだよね。   

 どうやら妄想の内容が顔に出ていたようだ。一人でニヤつくなんて完全にアブナイ人になってしまう。気をつけなければ。 

 って、あ、逃げた。

「ちょっとクルミ! 待ってよ! ってか、勇太はいつまで首締めてる気だよ!? 僕を殺す気か!?」

 勇太の分け目にチョップを振り下ろす。

 死滅しろ毛根! 禿げろや! おりゃ!

 すると敵もさるもの、今度はスリーパーホールドかけてきやがった。

「コータくんは、ちょっと調子に乗りすぎだぜぇ――」

「――いったいなんのことかなぁ?」

 勇太の脇腹にエルボーを食らわせるべく肘をコンパクトにたたんで備える。

 そんな微妙に手加減なしの攻防を繰り広げていると、どこからか粘りつくような視線が――

 いや、気のせいかもしれないけど……ぐふぁ! げふぉ! って、おいっ! いい加減にしないとホント死ぬぞ、僕が!


 * * *


 昼休みのチャイムが鳴り響く。

 学校にいる時の午前中の長さときたら、休日のそれとは時間座標が異なっているに違いない……しまった。

 今朝のゴタゴタで弁当持ってくるの忘れた。

 止めどなく溢れ出るリビドーにカロリーを使いまくっている中学男子にとって、昼飯抜きはあまりにも酷い苦行だと言わざるを得ない。――だよね?

 生きる希望が失われた……。

 机の上にがっくりと額を付けていると、周囲がざわめき始めた。

(あれが噂の……)

(月吉すげーな)

(心の底から憎い……)

(ふにゃちん)

 どーやら僕の海綿体の充実ぶりをわからせてやらないといけないヤツがいるようだな。

 空腹のあまり朦朧としながら机の下でベルトをカチャカチャやっていると、

「こーちゃん、お弁当忘れたでしょ?」

 頭上から現実が投げかけられてきた。アヤメさんだ。

 なるほど、どうりで周りが騒がしいわけだ。

 彼女の制服に包まれた完璧なスタイルは、中学男子には劇薬バリの刺激物だからね。取り扱い注意だ。

 そう思いながら、ゆっくりと顔を上げてアヤメさんを見ると――なんと、その手には見慣れた弁当の包が!

 

 ――一瞬、アヤメさんが女神に見えた。


 ――はっ!? そんなあり得ない事実誤認を誘発させるとは、食欲とはかくも恐ろしいものだったのか!? 胃袋を掌握されたら確実に負ける自信があるよ! あぶないなぁ、気をつけよう。 

「ありがとう、と言いたい所だけど、アヤメさんのことだからタダではくれないんでしょ?」

「へっへーん。とーぜん。さぁ、例のやつを言って貰おうかなぁ? さん、はい、アヤメおねいちゃーん!」

「……しつこいな、アヤメさんも」

 なんだってそんなに拘るんだろ? えらいニコニコしてるし。

「さぁ、ほれ、言わないと……あたしが食べちゃうぞ?」

 アヤメさんは近くの椅子を引き寄せると、勝手に座って弁当の包を解き始めた。

 くっ! 目の前で喰われた日にゃ、悔しさのあまりに血の涙を流して喀血する勢いだぞ、こっちは!

 くそ、背に腹は変えられない――。

「……メお……ゃん」

「なんだってー? 聴こえないなぁー?」

 調子こいた上から口調がムカつく。こんな辱めが今までにあっただろうか? いや、ない(反語)

 強く目をつぶって俯いたまま言う。

「……アヤメ……おねぇ……いちゃ……ん」

 あまりの恥辱に打ち震えていると、唇に何かが当たってきた。

 目を開けてみると、目の前には箸に摘ままれた唐揚げさんが。

「よくできました。はい、あーん♡」

 条件反射的に口を開けて唐揚げを頬張る。

「――美味しい?」

 あれ? 何でだろう? 小首を傾げたポーズで尋ねてくるアヤメさんが、とっても魅力的な女の子に見えるぞ?


 ――はっ! やっぱり食欲って恐ろしい。簡単に餌付けされてるよ!

 すると、反対側からタコさんウィンナーが突然現れた。

 当然、条件反射的に頬張る。

 うまい。

「こーくん、美味しい?」

 こっちはクルミだった。

「知らない人から食べ物もらったらダメ」

 目が据わってる……若干こわいんですが。

「あら、初等部はあっちの建物よ、お嬢ちゃん」

 っ!? ナチュラルに煽りますねアヤメさん……。

「フケてると思ったら……高等部はあっち。先輩」

 うおっと、クルミもやる気だよ!? なにこの両サイドからのプレッシャー。

「――こーちゃん、だし巻き卵もあるよ」

 ものすごい素早さで口に押し込まれる。

「――こーくんはポテトサラダが好き」

 こっちも驚異的な箸さばきで口に詰め込んでくる。

「……うむぐぅ、もぎゅ……」

 雛に餌をやる母鳥のごとく、僕の口に弁当を詰め込んでくる二人。

 もはや、どっちの何のおかずなのかわからない。マズイ――いや、味のことじゃなくてね、このままだと喉に詰まらせそうだ……み、水を。

 そこへ、すっとペットボトルが差し出されてきた。

 中身は飲みかけらしきお茶……。

 もう無理! 酸欠寸前だ! 無我夢中でガブガブと飲み下す。

「っぷはぁ! 危うく死ぬところだった――」

 口を拭いながら顔を上げると、ニヤニヤしているアヤメさんと目が合った。

 あれ? これはもしかするとひょっとすると……。

 クルミの方を見てみると、2ミリぐらい大きく目が見開かれていた。

 あぁ、やっぱりコレはアレだね。お約束の――

「そう! 間接キスよ! こーちゃん!」

 アヤメさんが立ち上がって、たっぷり豊かな胸を思いっきり反らして威張る。

「こーちゃんはあたしの体液を摂取・吸収して、自分の身体の一部にするのよ!」

 アヤメさんは勝ち誇ったように気持ち悪いことを叫ぶと、僕からペットボトルをひったくり、グビグビと呷りながらクルミを一瞥した。

 すると、どういうわけか、クルミがもの凄い勢いで箸をなぶり始めた。

 ちゅぱちゅぱれろれろ……おい、いろいろ卑猥な感じがしないでもないぞ?  大丈夫か、これ?

 ちゅぱちゅぱれろれろが終わると、おもむろにその箸でミニトマトを器用に掴む。

 そして、クルミの右腕がスッと動いたかと思うと、次の瞬間、僕の口の中にミニトマトと箸が突っ込まれていた。

 目にも留まらぬとはこういうことを言うのだろう。どんな修行をすれば、そんな技を体得できるんですかねクルミさん……もぐもぐ。

「わたしの体液もこーくんに摂取させた」

 なにそのドヤ顔。

 ってか、クルミも大概だよねっ!?

 しかし、この二人の行為は、マンガや小説に出てくるキュンキュンシチュエーション的な間接キスとは、根本的に違うような気がしてならない。自分たちの体液を摂取させることに心血を注いでいるだけのような……って、はっ!? そーいうプレイか!? これは変態だ! 変態がいますよーっ!

「甘いっ! 氷川クルミ!」

 しゅびっと変態アヤメさんが変態クルミに指を差す。

「なんでわたしの名前を……?」

「調べ済みだからね。名前だけじゃないよ? 趣味がカメラだってことも知ってるよ?」

「っ!?」

 クルミが僅かに反応する。そりゃ、知らない人に自分の趣味を把握されてたらビックリするよね。

 ――ってことは僕のことも当然アレコレ調べ済み!? なにそれ怖すぎる。

「こっちはね、こーちゃんのPCを検閲して、何処ぞの掲示板で火を吹いてそうなフォルダを既に発見しているの!」

 えっ? それって……まさか……。

「その内容から判断するに、すごく意外なんだけど、クルミちゃんではあたしには勝てない」

「なぜ?」

 クルミが鋭い声音で問い返す。

 すると、アヤメさんは机の上に座って、形の良い脚を見せつけるようにゆっくりと組んだ。

 それでか!? だから今日はそのチョイスを!? ちくしょー! まんまとはめられた!

「こーちゃんは朝から何度もチラチラ見てたからね。効果のほどは確認済み」

 ニヤリと悪そうな笑みを浮かべるアヤメさん。

「てっきり先天性真性ロリコンなんだと思っていたらどうも違うみたいで、この時代のこーちゃんは――」


「巨乳黒ストじゃないと興奮できないタイプの変態なのよっ!!」


 アヤメさんはそう叫ぶと、テラテラと黒光りしながらも素肌が薄っすらと透けて見える魅惑の黒スト美脚を、細くてしなやかな指先でゆっくりと下から撫で上げてみせた。

 あぁ、なんて淫靡な光景なのだろうか……願わくば、あの脚に踏み付けられた……いやいや、違う違うっ!

「そういうわけでクルミちゃんの真っ平らなお胸では、いまのこーちゃんは興奮できないのよ! おまけに、幼児体型には黒ストによる脚線美なんて望むべくもないのは自明の理!」

「……」

 アヤメさんに指を突きつけられて、無表情で見つめ返すクルミ。

 いや、そうじゃない。違うんだ!

「それは誤解だ! クルミ! 騙されちゃいけない!」

「この後に及んで誤魔化そうったってダメよっ!」

 アヤメさんがジロリと睨んでくる。

「誤解なんだ! 確かに巨乳黒ストは大好きだけど、それでしか興奮できないわけじゃないっ! 僕は後れ毛がぱやぱやとしているポニーテールのうなじや、スク水の妙に野暮ったいデザインに包まれた密やかで慎ましやかな曲線なんかも――すんごく興奮するんだっ!」

 どうだ、言ってやったぞ! アヤメさんは僕の性癖を全て把握した気になっていたみたいだけど、僕はそんな単純な人間なんかじゃないんだ! 胸だって、あんまりデカすぎてもちょっと萎えたりするぐらい繊細なんだぞ僕は!

「……こーくん。そういうカミングアウトは――」

 静かに喋りだしたクルミを見ると、首を左右に小さく振っている。あれ……?

「――教室ではやめた方がいい」

「……へっ?」

 見渡すと、教室にいたクラス中の女子が目を眇めていた。

 どういう訳かポニーテールにしていた娘が手早く髪をほどき始めている。

 反対に、清々しい笑みを湛えたクラスの男子たちからは、何故だか固い握手を求められた。

 みんな小さく頷いているのが気になる。

「コータ。おまえを見直したよ。好きなものを好きって言い切る勇気。オレは大事だと思うぞ」

 勇太が目を潤ませながら肩を組んできた。

 いや、暑苦しいから離れてよ。

「こーちゃんの性癖データに若干の修正が入ったけど、クルミちゃん! あなたじゃ勝負にならないことに変わりはないわ!」

 え? なんでだろう? 僕は巨乳黒スト以外もいけるって言ったじゃないか。

「髪の長さ的にポニテにはできないし、まさかスク水でいるわけにもいかないでしょ!?」

 いや、それ以外でもいけるよ僕は……ってそこで口を挟むと更に傷口を広げかねない……。

 何も言えずに押し黙っていると、

「……先輩、何者?」

 きっ、と睨みつけるようにクルミが尋ねた。

「あたしはね、札辻アヤメ。こーちゃんを貰いにきたの」

 いや、貰うって人を犬猫みたいに言わないでよ。あと、それだと語弊があるからね?

「アヤメ先輩みたいな変態な人に、こーくんは任せられない」

 クルミが淡々とアヤメさんを変態認定する。

 うん、あなたも大概だけどね?

「いいよ。んじゃ、オカズ勝負をしてあげる」

 アヤメさんがふふんっと鼻で笑いながら挑発をする。

 オカズ勝負か、明日からの弁当は激戦になりそうだな。今日の反省を活かしてお茶をたっぷり用意しておかなくっちゃ――

「こーちゃんが、どっちをオカズにたくさん自慰行為をするかで勝負よっ!」


 ――――


 何かいま、びっくり発言があったような……。

 気のせいだと思いたい……。

「わかった。それでいい」

 えっー!? わかっちゃったの!? クルミいいの!? 何か大事なモノを失いかけてないか!? ってか、どーやって確認すんのさその勝負!?

「地べたに這いつくばらせてあげる」

 アヤメさんが、これまでで一番悪そうな微笑を浮かべてクルミを見下ろしていた。

 誰か、この変態二人をなんとかして……。


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