かわいい?
「……魔王。これ、お借りします」
男はここなのクレヨンを手に取り、芝生の上に置かれたスケッチブックに手を伸ばした。
「メリーさん?」
「………」
「あっ!?」
スケッチブックに書かれていた絵に、男はあるものを書き足したのだ。
それを見たここなは声を上げ、クレヨンを置いた男に抱きついた。
「きゃあああ! すてき! ここなもくるくる角だっ! ありがとう、メリーさん!」
男の首に、巻きついた少女の両腕。
「……メリーは」
淡いイエローのワンピースから伸びたその腕が、ぎゅっぎゅと男の首を締め上げた。
「メリーなどより、魔王のほうが……角などなくても、とても、とても可愛い、と、思いまっ……す」
そう言った男の。
メリーさんの顔は頬だけでなく、顔面も。
指先まで青く、青く染まっていた。
「ここな、かわいい!? ありがとう、メリーさん!」
「…………」
男は、腕の中の少女の身体が出会った頃よりずっと大きくなったとあらためて感じた。
ここなは、今年で12才になっていた。
「魔王、私の魔王……どうかこれからも、メリーの魔王でいてください」
12才になったここなは、男のその言葉に。
「うん! ここなは、これからもずっと、ずっと、ず~っとメリーさんの魔王ね!」
そう、答えた。
【魔王】の意味など。
「ありがとうございます、魔王」
ここなは、知らない。
魔王の意味を知る“人間”の存在を。
ここなは、まだ知らない。




