めぇめぇさん?
だが、幸いにも…………幸いにも?
それを指摘する者は、ここには居ない。
「今、この場にいるのは私と魔王だけです。メェメェなる者が何処にいるというのです?」
男は長身で均整のとれた体躯に漆黒の飾り気の無い長衣を身につけ、床に届くほど長い艶やかな黒髪に真紅の瞳を持ち。
容姿は整い美しいが……細く切れ長の目や薄い唇は、異様な白さを持つ肌のせいか怜悧で近寄りがたいものとなっていたが、ここなはまったく気にならなかった。
「メェメェさんはメリーさんでしょ?」
「……メリーはメリーさんであって、メェメェさんになった覚えはありませんが……」
ここなはここで、この城で暮らして1年間になる。
この男と……黒く長い髪に、ここなの大好きな苺のケーキの生クリームのような白い肌に、甘酸っぱくて美味しい赤い苺より赤い目をした男……メリーさんと“みんな”と、暮らしている。
生クリームや苺といった甘く可愛らしい例えとは正反対の位置ある容姿の男だが、ここなはメリーさんが大好きだった。
メリーさんと“みんな”、メリーさんが“皆”と呼ぶ者達も好きだった。
「だって、羊はメェメェって鳴くんだってトロ君が教えてくれたの!」
「……トロが、ですか?」
トロ。
その名はここなが考え、“みんな”の中の一人につけたものだ。




