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あくま?
「……メリーさんはここなのおててを、ぎゅってしてくれる」
赤い目玉の奥で、魔王の借胎にした女を思い返すと。
ぬるりとした重苦しい紅をのせた唇しか、浮かんでこなかった。
「メリーさんはここなといっしょがいいって、ことでしょ?」
それで、男には十分だった。
「ええ、そうです。メリーは魔王と一緒が良いです」
あとは、契約の糸を辿れば良い。
契約が果たされた今では、微風にも千切れるほど細くなってしまったが。
「貴女と一緒が良いのは、メリーだけではありません」
それを辿って。
あの女を“堕とす”のは、簡単なのだから。
「あそこで待つ皆も、魔王を待っています」
男は、名前が無かったので。
【臨界】の人間は、この男を「悪魔」と呼んだ。
「みな? みなって?」
悪魔。
悪魔?
「みなはみんな、ということです」
違う。
もう、違う。
「みんな?」
「はい」
男は。
悪魔ではなく。
「みんな、魔王が帰って来るのを待ってます」
メリーさん、なのだから。




