21 雨の予報とストッキング。日曜日の巨大な誘惑
「今日は、なんだかお髭がこしょばい感じがするニャン」
チャイロは、朝から自慢のお髭がムズムズしていた。ムズムズが気になり頻りに顔を洗う。
『【モカ】ずっと顔を洗っているね』
『猫が顔を洗うと雨が降るっていうからなぁ。念のため、傘を持っていきなさい』
『はい、お父さん』
3丁目の喫茶店、店名は[いつもの処]。父と娘が切り盛りしている。娘が幼少の頃、妻が他界した。娘に寂しい思いをさせたくないという気持ちから、自宅リフォームし喫茶店をオープンさせた。
「女店員、お出かけするのかニャン?」
チャイロは男店員の膝の上で、全身マッサージを受けていた。
「よし!もうマッサージは、充分ニャン。オレッチ、今度は女店員のところに行くニャン」
『【モカ】!お父さんの膝から下りちゃうのか?』
「お出かけするなら、オレッチの匂いをつけに行く必要があるニャン」
『おい、【モカ】そっち行ったぞ』
チャイロが、潜入してから喫茶店の2階には、玄関の扉以外には、全てお猫様扉が取り付けられた。チャイロは、お猫様扉をくぐり抜け、女店員の部屋に行った。
『【モカ】、今からお出掛けするから余り遊んであげれないの。ごめんね』
「女定員!オレッチのスリスリをありがたく受け取るニャン」
チャイロは、気にする事なく女店員の足に擦り寄る。そして、ガバっと立ち上がって爪をほんの少しだけ出した。
「オレッチ、ツルツルあんよにピリっとするの好きニャン」
『あぁ~!【モカ】やめて。新品のストッキングなの。伝線するから爪引っ込めて~』
「楽しいニャン、楽しいニャン、ピリってなるニャン」
『【モカ】お願い。お父さんと遊んで。
やだ~ストッキング伝線したじゃん』
ストッキング破りが楽しいチャイロは、やめてと言われても止まらない。一筋、二筋、ストッキングにどんどん線が増えていった。
『お父さん、助けて。【モカ】がいたずらするの』
『はいはい』
娘に呼ばれて、男店員は立ち上がった。
『【モカ】が我が家に来てくれて、うちの中が本当に明るくなった。年頃の娘との会話も【モカ】のおかげで増えた』
娘の部屋から聞こえる楽しそうな叫び声を聞きながら、チャイロを迎えに行った。
再びチャイロは、男店員の腕に中。玄関先で、女店員を男店員と見送っていた。
女店員は、チャイロの頭をひと撫ですると『行ってきます』と言って出かけていった。
『じゃあ、今日は【モカ】が喜びそうな物を作ってあげるからね』
そう言って、チャイロの顔に頬ずりをして部屋の中に戻った。
本日は、日曜日。毎週日曜日は、喫茶店の定休日。3丁目はビジネス街であるため、日曜日は閑散としている。よって、毎週日曜日を定休日としていた。
男店員は、リビングで、大きなダンボールの前にたっていた。大きなダンボールの前をぐるぐる回るチャイロ。
「このオレッチを誘惑する大きな物体は何だニャン?」
匂いを嗅いでも解らない、角にスリスリしても解らない。
『【モカ】危ないから下がっててね』
男店員は、チャイロをソファの上に降ろした。そして、カッターナイフで大きな箱を開封した。
『おぉぉぉ!大きな箱だニャン。入りたいニャン!男店員、オレッチを箱に入れるニャン』
ソファから飛び降り、箱の前をウロウロしてみる。箱の縁に前脚をかけて立ってみる。男店員をじっと見つめて「にゃろん」と甘い声を出してみる。
「男店員、オレッチを無視するんじゃないニャン!箱の中の物を出す前に、オレッチを中に入れるのニャン」
男店員は、チャイロの頭を撫でるが、箱の中身を出すだけでチャイロを中に入れてくれない。
男店員の足にちょっかいを出しても、背中に飛び乗っても、ただただソファに降ろすだけだった。
「むむむ!もう怒ったぞニャン」
『あぁ~、やっと全部取り出せた。【モカ】お待たせ』
臨戦体制だったチャイロを、むんずとつかみ箱の中に入れた。箱の側面に小さな窓をいくつか作り、ピンポン玉を一つ投入。そしてチャイロを箱の中に入れたまま、箱の上蓋を閉じて、テープで仮止めした。
『出来上がるまで、少し待っててね。休憩の時は遊んであげるからね』
チャイロをダンボールに閉じ込めたまま、男店員は、作業を開始した。




