18 待合室の賢者たちと、恐怖の玉ナシ
「アローン!ニャウアオーーーーン!」
ただいま、チャイロは、キャリーバックの中で、絶賛大絶叫中!
女店員が有無を言わさず、チャイロをバッグごと、自転車のカゴへ押し込めた。
「オレッチを何処に連れてくニャン!」
『ごめんね、病院直ぐに終わるから頑張ろうね』
「オレッチを出すニャーーーン!」
『【モカ】は良い仔だから、頑張れるね』
「今すぐ、オレッチをここから出してくれニャーーーン」
チャリチャリチャリチャリチャリ
無情にも自転車は、チャイロを乗せて走って行く。
「うにゃにゃにゃ? ゴトゴトするニャン?」
下から響く振動に、チャイロの小さな体は、バッグの中でさらに小さくなる。
チャリチャリチャリチャリチャリ キキー!
身体の下から響くような振動が、ピタリと止まる。
「にゃおーん!にゃぅおーーーん!」
『【モカ】もう少し着くからね』
チャイロが叫べば、女店員は返事をする。そして、ふたたび振動が再開する。
単に信号待ちで、自転車が止まっていただけで、そんな事はチャイロにはわからない。
女店員は、自転車が止まる度に大声で鳴いてしまうチャイロが可愛かったが、とても恥ずかしい気持ちだったことをチャイロは知らない。
片道15分。動物病院に着いた女店員は、自転車を止めて、チャイロが入ったキャリーバッグを持ち上げる。
「人間! オレッチを出すニャン! 今なら、お猫様キックで許してやるニャン!」
チャイロの訴えが届くことなく、女店員は病院の扉を開けて、中に入って行った。
鳴き叫び疲れたチャイロは、キャリーバッグの中で、ぐったりとしている。女店員は、チャイロの気持ちがわかっていないのか、これ見よがしに袋の上からチャイロを撫でる。
「屈辱ニャン 早くも人間たちの反乱に遭ってしまったニャン」
そして、少しずつ冷静になったチャイロは、ここがいつもと違う場所である事に気づいた。
「いっぱいお犬様とお猫様の匂いがするニャン?」
不安定な足場だけど、体を伸ばして、頭を上に突き上げた。バッグの網目からお犬様やお猫様が、少しだけ見える。
「すみませんニャン 何処ですかニャン?」
小さくチャイロは鳴いてみた。
「誰か、教えて下さいニャン」
心細いチャイロは、誰か返事して欲しくて鳴いてみた。
『【モカ】もうすぐ順番だからね』
頭上から聞こえる声で、足場の悪いこの場所は、女店員の膝の上である事はわかった。
しかし、病院を知らないチャイロは、ここが3丁目の喫茶店ではないということ事だけしかわからなかった。
「おい、坊主 ビョーインは初めてかワン?」
「アンタ、ビビりだわさ」
「ビビってないニャン! ....ビョーイン?」
「おう! ビョーインだワン」
近くにいたお犬様たちが教えてくれた。
「ビョーインって.....たしか、玉ナシの儀式するところだと聞いたことがあったニャン! ムーンさんが、スパイになって、儀式を受けたって言ってたニャン」
「アンタ 新米だわさ ビョーインは、玉ナシの儀式だけじゃないだわさ」
「俺達、針を刺しますの儀式待ちワン」
「針を刺しますの儀式? オレッチも
その儀式を受けるのニャン? それとも……遂に玉ナシになってしまうニャン?」
スパイとして潜入を決めた時から、いつか通る道だと覚悟はしていた。リーダーにも、クロッチにも覚悟は伝えていた。
だけど、玉ナシの儀式が、前触れもなくチャイロに襲いかかるとは、想像していなかった。
ゴクリとチャイロは唾を飲んだ。
「オレッチは大丈夫ニャン!我慢の子ニャン!やれば出来る子ニャン!」
「うるせーぞ坊主!みんなビョーインは嫌いなんだワン」
「....ぅ....ごめんニャン....静かにするニャン」
「オッチャン、あんまりチビを虐めるなだわ」
「そうだなも」
しょんぼりしたチャイロを擁護する、お犬様やお猫様も現れた。
「安心しなチビ 今日が初めてのビョーインなら、玉ナシの儀式は今日じゃないだわ」
「そうなも! 玉ナシの儀式には、時間がかかるなも このまま、ビョーインから出られたら、すぐの玉ナシの儀式はないなも」
「にゃにゃにゃ? そ、そうにゃのかニャン」
「おチビ 人間の言葉わからないんだわ?」
「ニャン まだ、全部覚えてないニャン」
「おチビに人間は、すぐ終わると言っているだわ」
まだ少し心配なチャイロは、バッグの網目に思いっきり顔を押し付けてお犬様とお猫様に聞いた。
「オレッチ、今日は帰れるのかニャン?」
「たぶんだわさ」
「じゃあ、もうちょっと我慢を頑張るニャン! お犬様のオッチャン、ありがとうニャン!
お猫様のおばちゃんもありがとうニャン」
今日は、玉ナシの儀式ではない。その言葉を聞いて、少しだけほっとした。
お犬様とお猫様にチャイロはお礼を言った。




