17 スパイ、最大の敵『ビョーイン』を知る
チャイロが3丁目の喫茶店にスパイとして潜入して数日がたった。
『【モカ】ご飯だよ』
チャイロの目の前に下僕からの貢ぎ物として、カリカリと新鮮なお水が入ったお皿が上納される。
チャイロも下僕への接し方が少しずつわかってきた。
下僕たちは、お猫様として威厳を見せるために、褒めてやることを忘れてはならない。
女店員に貢ぎ物を納めたことを褒める意味を込めて、足元にスリスリッと身体を寄せ付けた。
こうすることで、下僕たちは、お猫様に腰砕けになることがわかった。
『【モカ】可愛い~』
チャイロには二人の人間が下僕として世話を勝手でている。
下僕になったのは、3丁目の喫茶店の男店員と女店員だ。
人間家庭に潜入し数日も経つとチャイロ自身も人間の言葉を少しずつ覚えてきた。
動作と行動を下僕が発する言葉に紐付けして行くのだ。
『ご飯』と言えば美味しいカリカリとお水が貢ぎ物として上納される。よってこの言葉は、「食べ物の貢ぎ物をします」という意味と理解した。
次に『 おやつ』という言葉を覚えた。『ご飯』と同じく食べ物の貢ぎ物の言葉だと理解している。
『ご飯』は朝と晩決まった時間に貢がれる。『おやつ』はそれ以外の時間帯に貢がれる食べ物だ。
主に煮干しだったり、白い乳だったりする。チャイロ自身は『あいすくりーむ』と呼ばれ『おやつ』が一番好きだ。
そして『トイレ』。これは、お便所のことだと思う。チャイロがうんちやオシッコをすると「『トイレ』上手に出来たね」とか言ってうんちやオシッコをどこかに持っていく。
「ひょっとするとうんちをくださいという意味かも知れないニャン」
と少しだけそう思っている。
ご飯を食べ終わると女店員はチャイロの頭を撫でながら言った。
『【モカ】今日は病院に行くよ』
最近、よく聞く『モカ』という言葉、何をするのにもまず最初に『モカ』というのは、やはり、自分の通り名だと思っている。
チャイロはそう感じ試しに「ニャン」と鳴いてみた。
女店員は目を大きく見開き満面の笑みになって頭を撫でてきた。
『【モカ】偉いね、もう自分の名前覚えたの?』
【モカ】と人間が言うたびに「ニャン」と鳴いてみると下僕が大喜びする。チャイロは、自分の通り名が【モカ】である事を覚えた。
「オレッチにも遂に通り名が付いたニャン!早く、リーダーに報告したいニャン」
通り名がついたチャイロはご機嫌だった。【モカ】と呼ばれる度に、「ニャン」と何度も返事をして自分が『モカ』である事を再確認していく。
そして、チャイロこと『モカ』は尻尾をピンッと立てて本日のお部屋のパトロールを初めた。
「右よーしニャン!左よーしニャン!お便所、異常なーしニャン!」
お便所に入り、プルプルっとオシッコをする。
女店員がお便所をもって行った。
そして、最近お気に入りの出窓に登り、お外を見る。
お気に入りになった理由は、この窓から、クロッチが見送ってくれた木が見える事を発見したからだ。
それからは、この窓からクロッチがいた木を眺めるのも日課の一つとなった。ダイフクとクロッチが、最後に見守ってくれた場所。寂しい時は、いつもこの場所で木を眺めている。
『【モカ】』
通り名を呼ばれたと同時に頭をから何かを被せられた。
「何ニャン! よく見えにゃいニャン! 女店員! 何するんだニャン!」
前脚で顔の周りをの邪魔な物を退けようとするがまとわりつき退けられない。
お尻を持ち上げられ、チャイロは何かの中にすっぽりと入ってしまった。
前脚を伸ばしても何かの中、後脚伸ばしたら何かが纏わりつく、頭を右斜め上、左斜め上、真上とバインバインさせてみてもお顔が何かから出せない。
『【モカ】今から病院に行くから我慢してね』
「にゃおーん!にゃぅお~ん!」
これでもかというくらい大きな声を出し、バインバインともがいてみてもチャイロは袋の中から出られない。
『お父さん!行ってきます』
女店員はチャイロを入れたキャリーバッグを抱え上げ、家を出た。
『ビョーイン』
それは、お猫様にとって、とってもいやな言葉だと覚えたのだった




