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箱庭物語  作者: 彩都 らく
第三章、失踪
22/40

3-1、ユーレイの正体見たり

「ただいま。……どういうこと?」


 古川尚也(ふるかわなおや)は、嶋山凌雅(しまやまりょうが)から送られてきた写真を見た瞬間、考えるよりも先に走り出していた。外していた仮面を装着し、街中を走る、はしる。そして拠点に到着した際には、支部長室の扉を乱暴に開けた。

 

 肩で呼吸をする尚也に対して、中に居るふたりからの返答は無い。ソファに腰かけ、ひとつのタブレットを覗き込む凌雅と沙葉(さよ)が、ただ緊張した面持ちでこちらを見やるだけだった。誰も口を開かない支部長室は、重たい空気に包まれている。

 

 ――……まじかよ。

 

 尚也は深呼吸をすると、仮面とマントを脱ぎ捨てた。それから自身の席へ座り、件の写真をモニターへ表示する。

 

「この写真の投稿者、分かる?」

「あ、はい。ただ……」

 

 凡そ信じたくない画像に目を細めながら問うと、凌雅が口を開いた。

 

「ただ?」

「この写真、すぐ消されてしまったんです。アカウントも、もうありません」

「……消された?」

「ええ、はい。俺が見つけてスクショを取ってから、すぐに」

 

 ――なるほど。

 

 尚也は小さく唸ると、再び写真へ目を向けた。

 やはりこの写真に映っているのは、白石伶(しらいしれい)の姿で間違いない。

 純白のドレスに身を包み、大きな雫型のイヤリングを着けているところは、件のうわさの怪異の特徴と一致する。

 

 ――まさか、伶さんが?

 

 否。

 今まで共にサークル活動をしてきた中で、『怪異』らしい気配を感じたことはない。

 

 だからこそ、この写真がどうしても理解できなかった。事実として目の前に存在するのに、上手く咀嚼することが出来なければ、飲み込むこともできない。

 

 こうやって歯を見せるような笑い方をする伶の姿は見たことがない。

 

 彼女はもっと静かに、もっと美しく笑う。少なくとも、【暁】の前では。

 

「……あの、尚也先輩」

「うん?」

「今日の、現場の報告書も仕上がっているので、一度目を通してもらえると助かります」

「ああ、わかった」

 

 確か凌雅は、本日非番勤務だったはずだ。外向き用の服を着ているところを見ると、今日も今日とて怪異が出る可能性を考慮していたのだろう。

 

 尚也は頷く。そして、モニターに映していた写真を閉じて、送られてきた報告書を見やる。疲労からか目は滑るものの、内容は簡潔で読みやすい。

 

 ――まあ、つまるところ。

 

 先日と同様の怪異が出現したそうだ。音も無く現れ、美しい姿でその場に舞い踊る。

 凌雅との対峙と決定的に違うのは、仮面の装着の有無のみ。

 

 そして、今回は。怪異の至近距離で写真を撮った人間がいたということ。条件としては、“うわさ好きの青年”ブロガーとほぼ同一である。


 尚也は深く息を吐きだすと、再び画面を切り替えた。

 

「やっぱり、どう見ても伶さんですよね」

「……そうだな」

 

 いつの間にかすぐ側に来ていた凌雅は、隣からモニターを覗き込んで呟いた。それに対して尚也も返事をするものの、声が上手く出ない。

 

「一旦、落ち着きましょう」

 

 すると、部屋の中に品の良い香りが広がった。どうやら、少しの間席を外していた沙葉が、紅茶を入れてくれたようだ。

 

「ありがとう」

 

 三つあるカップのうち一つを手に取ると、尚也はゆっくり口を付けた。ふわりと鼻腔を通り抜けるのは、甘い匂い。それでいて、くどくなく飲みやすい。

 凌雅と沙葉も予備の椅子を持ってきて、尚也の傍で紅茶を飲みはじめたようだ。

 

 ――整理をしよう。

 

 一つ、この写真が本物であると仮定する。

 二つ、そのうえで、写真に映った女性を、「白石伶」であると仮定する。さすれば。

 

「考えられる可能性は……、多くない」

 

 尚也が呟けば、隣に居た二人がそれぞれ顔を上げた。

 ひとつは、この写真の「白石伶」が普段【暁】にいる「白石伶本人」である場合。

 

 その場合、彼女は……、最初から『怪異』だったことになる。

 

 ――その線は、薄いとは思うが……。

 

 そうなると残るのは、白石伶の姿をした『怪異』が存在する可能性。

 

「問題は、このふたつの存在が無関係なのか、それとも……」

 

 尚也は、手元にあったボールペンをふたつ、机の上に突き立てた。同じ形をしたボールペンは、指を離しただけで、ころころと机上を転がっていく。

 

「だから、仮面をつけていたんですかね」

 

 その様子を視線で追いかけながら、沙葉が静かに口を開いた。そして続ける。

 

「現場に凌雅先輩が居たから。……えっと、尚也先輩の同期の方々も居たそうですし。白石さんの顔を見られてはいけないから、仮面をしていた可能性が高くなりませんか」

 

 場には、静寂が残される。

 

 ――でも、何も解決していない。

 

 先日、凌雅と怪異が退治した際にも「仮面」については考えた。考えていたが、それらを考慮しても結局のところ、「可能性」が高まるだけで、何ひとつ明確な解にはならない。

 

 「白石伶本人」が仮面をしていたのか、『白石伶の姿をした怪異』が仮面をしていたのか。この差だけで、全ての意味が百八十度変わる。変わってしまう。

 

「……この件は、俺が担当する。宵の口大学図書館組と合わせて、本件の対応をしよう」

 

 尚也は結び続けた唇を開くと、小さく宣言した。

 

「まずは、明日のサークルから」

 

 ――……、焦るな。

 

 机の下で握りこんだ拳が震えるのは何故か。

 身体中を駆け巡る、言葉にできない焦燥感。

 

 これから、何を追えばいい。

 これから、何を疑えばいい。

 

 ひとつずつ考え、一歩ずつでも真相に近付くべきだ。思考を止めず、常に最悪を想定していくべきだ。

 

 尚也は冷たくなった紅茶を一気に飲み干すと、空になったカップを乱雑に置いた。同時に吐き出した一層深いため息は、消えていく。

 

 

 



次回更新▷▶▷2/1 19:00 『EP.3-2、写真①』

(今回は2/2、2/3と連日更新いたします)

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