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箱庭物語  作者: 彩都 らく
第二章、うわさ
15/37

2-3、練習

「そんなに気になるなら今度行ってみない? 休みの前日とかさ」

 

 そう切り出したのは、みどりだった。

 

 サークル室を後にした尚也達が、暁の使う練習室に移動して暫くのこと。大きな舞台を前に、数多くの椅子が並んだ広いホールには、和気あいあいとした雰囲気が広がっていた。緊張した様子の新入生たちは、舞台の隅で腰かけてぽつぽつと雑談している。それに対して、二年生と凌雅の五人は、軽いストレッチを行っていた。

 三年生の三人は、まだいない。

 

 そんな中で、みどりから発せられたのが冒頭の言葉だった。

 

 地面に座り込んで開脚ストレッチをしていた尚也は、みどりの方へ視線だけを向けた。彼女はいつまでも続く噂話にうんざりしたのか、それとも心底楽しんでいるのか。躍るように声を跳ねさせて、口角の端を僅かに上げた。

 

「いいね」

「……いいねぇ」

 

 そんなみどりの提案に、あおいと俊介が乗っかる。

 

「尚也と凌雅は?」

「んー、……」

 

 三人の鋭い視線が、こちらへ向いた。「行かないの?」とでもいうかのような六つの瞳は、どうにも期待しているらしい。が。

 

「悪い。今週はレポートやらないとマズい」

「……すみません、俺も。家のコトやらないといけなくて」

 

 尚也と凌雅は順番に断りを入れる。一日くらい参加してもいいが、何かあってからでは遅い。まずはこの妙な“うわさ ”の真実を見つめなければいけない。それが、尚也達の立場だった。

 

「そっかあ、残念。それじゃ、私たちで行こっか」

 

 ――……うん、それで良い、訳ではないが……、それで良い。

 

 暁のこういう所は、嫌いではない。執拗に理由を聞くことも無ければ、深堀りをすることもない。

 

「何時くらいに集合しよっか」

「そうねぇ。でも今週末って飲み会なかったっけ?」

「あ、そうだった。俊介も参加するよね?」

「うん、参加するよぉ。うーん、そしたら、飲み会の後そのまま行っちゃう?」

「それがいいかもね」

 

 ――今週末、ね。

 

 尚也は再び盛り上がり始めた三人の会話を聞きながら、身体を伸ばすと、張りつめていた息を吐きだした。


「……お、もう集まってるじゃん」

 

 それから、数分。明るく賑やかだった雰囲気に、重たい扉が開く音が響いた。と同時に柔らかい声が落とされて、皆の視線がそちらへ向く。

 

 すると、扉を勢いよく開けた男――黒澤陽光が、手拍子をひとつ、ふたつ。

 静まり返った練習室に、乾いた拍手が反響した。

 

「よし、それなら練習準備をしようか。二年生! 俊介、みどり、あおいの三人は、新入生にストレッチを教えてあげて。時間があれば基礎練習と、今日の流れの共有もお願いね」

「「「はい」」」

「尚也、照明の調整を頼む。 必要があれば凌雅くんも一緒にな」

「はい」

「……っと、はい」

「それから三年生!」

「「はーい」」

「俺たちはもう少しだけ打ち合わせしよう。気になることがある」

 

 陽光は扉の前から動かないままに、的確な指示を出した。声は変わらず柔らかいままだが、やはり芯が通っていて聞き取りやすい。

 

 そんな陽光の言葉に続くように、赤塚兼吾と白石伶がホールに入ってきた。三人揃って身長が高く、構内にそれぞれのファンクラブが出来るほどの顔立ちであるからこそ、肩を並べて歩く姿にも威厳がある。


 その三つの背中を視線で追いかけていれば、彼らは舞台上で打ち合わせを続けるらしい。

 聞こえてくる言葉の端々には、目を通した台本の台詞が聞こえてきた。

 

 つい先ほどまでの和やかな雰囲気から、空気は大きく変わる。

 皆が指示された通りに足を進めていく様子を見つつ、尚也も重たい腰をあげた。

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