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箱庭物語  作者: 彩都 らく
第二章、うわさ
13/38

2-1.5、ユーレイ

「先輩」

「ん?」

「このうわさ、知ってます?」

 

 長い長い会議が終わり、時は夕暮れ。【暁】の練習へ出るべく、宵の口大学へ向かう道すがら。尚也と凌雅は、人気の少ない電車に揺られていた。

 がたんごとん、と、大きく揺れる電車の中で響いたのは凌雅の囁き声だった。

 隣に座る凌雅が、あるページを開いた携帯の画面を此方へ向けた。


 ――深夜二時の図書館。

   そこには、美しい女性の霊が出るらしい。


 如何にも、大衆の興味を引くような見出しで書かれた記事である。【宵の口大学】と大きく記載されたそれは、どうやら二日前に作られたものらしい。

 

「ユーレイ?」

 

 尚也は、自分が見ていた携帯の画面を閉じながら疑問を口に出す。隣を見やれば、凌雅は小難しい顔をしていた。

 

「はい。今日の午前中、必修の授業を受けてきたんですけどね」

「うん」

「グループで一緒になったヤツが、この噂を知ってるか? って。最初はまったく信じていなかったんですが、色々調べているうちにどうにも違和感がありまして」

「うーん、ユーレイかぁ……」

 

 淡々と話す凌雅の横で、尚也は煮え切らない短めの返事を繰り返した。元より幽霊といった類は一切信じていないタチだ。それに、凌雅の携帯を奪う形で読み進めている記事の内容で、所々引っかかる部分が多い。

 

「まあ、俺は……、幽霊だとは思ってないです」

 

 うーん、と再び唸れば、遠くの景色を見つめている凌雅が歯切れ悪く自身の考えを吐き出した。

 

「と、いうと?」

「さっきの会議で、先輩と沙葉が言ってましたよね。高津区、その中でも宵の口大学の付近で怪異の出現数が増加傾向にあるって」

 

 凌雅の意外な思考に視線を向けると、彼は目を細めて尚也を見やる。

 

「このうわさの大元も、この記事を書いたのも、すべて怪異の仕業じゃないかと思っています。この記事、全文読むと分かるんですが、どう考えてもおかしい点が多いんです」

「うん」

「誰も居ない学び舎に突然音も無く現れる。それも深夜。記事の中では、既に誰かが神隠しにあった、と言うかのような事まで書いてあります。そんな時間に大学構内に居るような人って、一体……」

 

 きっと、今日一日で様々なことを考えていたのだろう。すらすらと、それでも時々唸りながら紡ぐ言葉は、おそらく核心をついているのではないか。

 

「ま、いるとしたら、警備の方か、深夜の構内を歩くスリルを味わいたかった学生か」

「ええ、はい。……そこまで考えて、妙なうわさだなあ、と」

 

 凌雅は、尚也の解答に大きく頷いた。

 

「沙葉にもこの情報を流しておこう。俺にもURLちょうだい」

「はい、今送ります」

 

 凌駕の携帯を彼の手元に戻しながらそう言えば、彼は元気に返事をした。そして、慣れた手付きで操作すると同時に、尚也の携帯が震える。

 

 しばらく送られてきた記事を流し見ていれば、隣から欠伸を我慢するような声が聞こえてくるから。

「今のうちに寝ときな」

 そう言えば、

「……はい、そうします」

 と、ぼやけた返答がひとつ。話したいことを話して気が抜けたのだろう。揺れる窓に頭を預けた凌雅は、数分も経たないうちに寝息を立てはじめた。

 

 遠くの空。立ち入り禁止区域を守るようにそびえ立った壁に沈みゆく夕陽はふたりを照らす。眩しいだとか、そういう人間の感情なんてどうでもいいかのように、ただその光を押し付けてくる。

 

 尚也は携帯を鞄にしまうと腕を組む。そして、不規則に揺れるつり革を眺めた。

 

 ――それにしても、ユーレイ、ねぇ。

 

 ふわりと頭に浮かぶのは、こういった「うわさ」の類が好きな同期達の顔だった。


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