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追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!  作者: 奈津 蜜柑
【4章】元聖女を追い出した元王子が謝罪に来ました。

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第93話(そのころキアーラ王国王都にて)

 キアーラ王国の王宮では、大司教ミハイルから事の報告を受けた国王が握りしめた拳をわなわなと震わせていた。


「――聖女を連れ戻せなかっただと……っ? どうするのだ、ミハイル! 地方の魔物は減る様子がないどころか増える一方だと、今日も大臣から報告があったのだぞ! 私はどうしたら良いのだ……!」

 

「申し訳ございません」


 ミハイルは済まなそうに頭を下げながら、内心では国王を嘲笑(あざわら)っていた。


(……本当に、国王様はどうしようもないお方で――素晴らしい)


 この国王は――ミハイルが国外追放して、狼が出る夜の街道外れに放置してきた息子のことは一切気にする素振りもなく、自分の保身ばかり気にしている。


 しかも、国王であるのに自身で何も決めず、判断を自分に委ねようとしているのだ。


(国王様、貴方のそういうところが素晴らしい)


 ミハイルは思わず口元が緩むのを止められなかった。


「何が面白いのだっ!」


 国王に一喝されて、ミハイルは慌てて口元を正した。


(まずいまずい、ついうっかり。――しかし)


 エイダン王子を、彼がレイラを追い出したことで魔物被害が出始めたという責任をとらせて追い出すために――あえてしばらくの間状況を放置していたものの、報告される農村の被害は日に日に大きくなっていて、このままでは王国全体に甚大な影響が出そうだった。


(レイラは戻ってこないと駄々をこねているし――、ここはとりあえず対応せねばな。あまり農村が荒れすぎて、使える金がなくなるのは私も困る)


 ミハイルは思考を巡らせる。


(まぁ、あれを実際に使ってみるいい機会かもしれん)


 心の中で頷いてから口を開いた。


「申し訳ございません、国王様。ただ、案が浮かびまして――」


「何だ!? それは!? 話してみろ!!」


 ミハイルは真剣な表情を作ると国王に問いかけた。


「――では、私についてきて頂けますか? お見せしたいものがございます」


***


 国王とミハイルを乗せた馬車は宮殿を出ると、王都と反対の方向へ走って行った。だんだんと寂れていく窓の外の景色を見ながら国王は不審げに問いかける。

 

「――どこに行くのだ、ミハイル」


「いまに着きます」


 そう答えてからしばらくして、馬車は止まった。


「国王様、足元お気をつけください」


 先に馬車を降りたミハイルは国王に手を貸した。ゆっくりと馬車を降りた国王は周囲を見回す。


「ここは――、旧大神殿……?」


 荒涼(こうりょう)とした原っぱの続く丘の上には、白い石でできた古びた建物がある。それは、先々代の国王が現在使われている大神殿を建立(こんりゅう)するまで使われていた、かつての大神殿だった。


「大司教様、お待ちしていました」


 旧大神殿から白い服の神官が数人、ミハイルと国王を出迎えに丘を下って来た。


「――あの子たちは良い子にしているかね」


 ミハイルの問いかけに神官は頷く。


「問題ありません。大司教様を待っておりますよ」


「あの子たち?」


 国王は(いぶか)し気に首を傾げた。


「まぁ、ご覧になればわかります」


 ミハイルは国王に後をついてくるように促して、神官たちと共に旧大神殿に向かって歩き始めた。歩きながらミハイルは国王に問いかけた。


「――国王様は、なぜ今までキアーラに魔物が出なかったかお分かりになりますか?」


「それは、聖なる祈りの力で国を満たしているからだろう」


「そうです。祈りの力は――精霊力のバランスを整え、鎮静化し、魔物の発生を抑制します。魔物というのは精霊の荒ぶる力が生み出すものですからね」


 神殿跡へ向けて丘を登りながら、ミハイルはゆっくりと、語り掛けるように言葉を続ける。


「レイラを育てていて、私は考えたのです。大神殿で光の女神様の教えを授けたら――あの魔族の子どもが聖なる力を使えるようになったのです。もしキアーラの中で魔物を育てたら、どうなるのかと――」


「魔物を育てる?」


「そう――例えば、竜の卵を温めたら? 竜は危険な魔物です。だから――卵は(かえ)らないのでしょうか? それとも、魔物らしさ――人を襲う凶暴さがない――可愛らしい動物が(かえ)るのでしょうか?」


 二人は神官たちと共に、かつては真っ白に輝いていた――今は土埃で黒ずんだ旧大聖堂の入り口の階段を登った。


「これは――!」


 階段を登り切ったところで、国王は足を止めると、瞳を大きく見開いた。


 ――ガァァァァァ


 10匹の様々な色の竜がミハイルの姿を見て、まるで猫が喉を鳴らすように、嬉しそうに吠えた。


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