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追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!  作者: 奈津みかん
【3章】元聖女は冒険者として仕事をします。

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第66話(ステファン視点)

 宿屋の女将さんから頼まれ仕事があるから行けないというライガを置いて、僕とレイラは二人で山に入った。レイラはこの前ソーニャと選んできたという深緑の竜皮のローブを身に着けていた。


「これ、やっぱりすっごく軽い!」


 彼女はローブを嬉しそうに広げて見せると、足取りを弾ませた。僕はその様子を微笑ましく見た。……実家の妹も、本当に小さい時はこんな感じだったな。すぐに僕のことなんか小馬鹿にしてくるようになったけど。


「そっか。ソーニャにお店連れて行ってもらって、良かったね。僕らはローブのことは、詳しくないから、魔法使いに聞くのが一番だったね」

  

 ローブを見に行って、その後ソーニャとお茶して帰ってきたと楽しそうに話すのを聞いた時は驚いた。リルの話で、ソーニャがレイラにつっかかったと聞いていたのに、知らない間に仲良くなってる。


 レイラをこの街に連れてきて大分経ったなあ、と僕は山を歩きながら日を数えた。彼女は教会にもときどき顔を出していて、ノアや獣人の子どもたちとも仲良くしてるみたいで、特に何も問題なく日々が過ぎている。


 ずっと見ていて、彼女がとても良い子なのはわかるし、魔力が強いこと以外は、ごく普通の可愛い女の子だというのは、よくわかった。


 だけど、もし彼女が、昔話としてしか語られていない、残忍だという魔族の片鱗を見せて何か問題が起きるなら、僕は冒険者として魔術師ギルドに報告し、対処をする必要がある。


 所長が最初に言った「あの子のことくれぐれも面倒見てやってくれ」っていうのは、そういうことだ。僕はこの街の冒険者ギルドに所属している冒険者としては最高ランクだし、彼女を街に連れてきた以上、彼女のことについては責任を負う必要がある。


 ――ライガはたぶん、そのへんをよくわかっていないけれど。


「川の音が聞こえてきますね」


 レイラはそう言うと、考え事をして足取りの遅くなっていた僕を駆け足で追い抜いて、がさがさと草藪をかき分けた。その先には涼やかな渓流が水音を立てていた。


「暖かくなってきたけど、川の水は雪解け水が入ってくるからまだ冷たいんだ。こういうときは、魚はまだ深いところで大人しくしてる」


 僕らは川を上って言った。しばらく歩くと、小さい滝になっている場所に出た。


「こういう滝の下で、流れが淀んだところに隠れてるよ」


 けっこう深さがあるのか底が黒く淀んで見えるところを指差してから、背中に背負った荷物を河原に下ろす。


「そうなんだ……」


 レイラは感心したように呟くと、川に近づきそのままジャブジャブと水の中に入って行った。……え? ……入って……?


「うわぁぁぁぁ、レイラっ、そこ、急に深くなるからっ」


 深いところに足を踏み入れたのか、レイラの身体が水中沈み込んだ気がして、慌てて駆けつけて手を伸ばす。何とかローブのフードを掴んだ。……だけど、


「浮いてる……」


 彼女の身体はぷかーっと水流に乗って浮いていた。……そうか、これ、水龍のローブか……。着てると溺れないっていうけど、水に浮くのか……。良かったぁ……。


 僕はそのままレイラをすいーっと引っ張って陸に上げた。


「す、すいません。びっくりしたぁ。――いきなり深くなるんだね」

 

レイラは申し訳なさそうに笑った。

 心臓がバクバクしている。溺れたらどうしようかと思った……。


彼女のローブはしっかり水を弾いているけど、僕の靴と足元はびしゃびしゃだった。僕はため息をついてから、笑顔を作った。


「――そうそう、雪解け水で水嵩(みずかさ)も増してるし――気をつけてね」

 

「あっ、でも、魚、たくさんいました! なんか、虹色っぽいキラキラした魚」


「そう、それ、虹魚(こうぎょ)ってそのまんまの名前なんだけど……、それを釣ろうと思ってたんだ」


 僕は近くの藪から枝を集めてきて、河原に重ねると火打石で火をつけた。濡れた靴と靴下を脱ぎ、焚火の近くに置いた。


「レイラも靴、乾かしなよ。今ので魚が逃げちゃったと思うから――少し待とう」




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