第61話
「……あなたはちょっと、ステファンに似てるわね」
紅茶を一口飲んでから、ソーニャはおもむろに呟いた。
私は首を大きく左に傾げた。
「え? 似てますか? どのへんが?」
「ステファンも、怒らないじゃない?」
うーん、まぁ、確かにステファンが感情的に怒っているところは見たことないけど……。
「……私、最初のパーティーの仲間と喧嘩しちゃって解散になっちゃってね。でも、魔術師ギルドから研修で来てるし、依頼はやらなきゃいけなくて……、1人でやろうとしたんだけど、危ないからってしばらく、2人と行動させてもらってたのね」
「はい」と私もお茶を飲みながら頷いた。
「そう、それで……、けっこう何回かやらかしちゃって。洞窟で生き埋めにしかけちゃったりだとか、魔法で派手に攻撃して魔物を集めちゃったりとかね。ライガはかなり怒ってたけど、ステファンは大きい音で攻撃すると魔物が興奮して集まってきちゃうから、次から気をつけようねって、魔法使う前に一呼吸するといいよって優しく言ってくれて、嬉しくて、私……のぼせちゃって」
ソーニャは赤くなってうつむいたまま紅茶を飲んだ。
「――ちょっとね、ステファンにしつこくしちゃって、気まずくなっちゃって。そしたら、そのタイミングで、『慣れてきたみたいだし、そろそろ大丈夫かな』ってまた解散になっちゃって――、結構ショックで……。私が嫌われたのが、解散の理由かなって思っちゃって、『私のどこが駄目なの!?』って問い詰めようと思ったら、ステファンとライガ二人そろって、依頼で街を出ていなくなっちゃうし。普通に考えれば、もともと新人だから一緒に組んでくれてただけっていうのはわかってたんだけど、それで頭に血が上っちゃって」
彼女は「はぁ」とため息をついた。
「そしたら、二人が戻ってきたっていうから、様子見に行ったら、あなたが一緒で、私がパーティーにいた時じゃ見た事ないくらい、二人とも楽しそうにしてるじゃない」
「そうなんですか?」
「ステファンとライガがあんなにニコニコしているの、私が一緒に仕事してたときは、見たことないわよ。――まあ、あなたと話していて、納得したわ。私も楽しいもの」
今度は私が赤くなる番だった。
「——それで、私、……あなたのことが羨ましくなっちゃって、いろいろ噂しちゃったりとかして……。しかも、そんなあなたに助けてもらったりして恥ずかしいわ。もっとステファンとか、あなたみたいに、優しい人になりたいんだけど。――いろいろ、ごめんなさい」
「私は優しいわけではないと思いますけど……」
私は呟いた。
通りがかりで、何となく一緒に行動するようになった私の面倒をいろいろ見てくれてるステファンたちは確かに優しい人かもしれないけど……。
『優しい』って、誰かのために、無理をしても何かをしてあげられる人のことですよね。
冒険者ギルドで退魔の祈りとかをしているのは、仕事だからだし、私、誰かのために何かを自分からしたりとか、そういうことはしていないですもん。
「でも、心が広いと思うわ。その婚約者のことも怒っていないくらいだし」
「いえ……でも……」
「私が褒めてるんだから、素直に受け止めなさい」
ソーニャは紅茶のカップをソーサにカチャっと置いて鋭い声で言った。
「う、うん。ありがとう……」
私がちょっとびっくりして頷くと、彼女は「私ってばまた」と頭に手を置いて嘆くように呟いた。
***
そんな感じでソーニャとお話しつつ、紅茶のポットにお湯をもらうこと4回、気づいたら日が暮れかけていた。広場の時計塔の夕刻の鐘がゴーンゴーンと鳴り響く。
ソーニャははっと顔を上げて、暗くなりかけた外を眺めて呟いた。
「もうこんな時間――、ジャンのお見舞いに行こうと思っていたのに。面会時間終わっちゃうわ」
ジャンさんは全身に一角兎の噛み傷があったので、下山したあと、回復魔法を専門に使う治療師さんがいる治療院に何日か入院になったんです。
回復魔法で閉じた傷は、しばらく安静にして回復魔法の重ね掛けをしないと開いちゃうかもしれないってステファンが言ってた。
「もう出ますか。私も一緒に行こうかな」
「本当? もう退院だと思うけど……、お礼を言いたいって言っていたから、喜ぶと思うわ」
私たちはお店を出た。
「本当、あっという間に、こんな時間になってしまったわね」
ソーニャは家に帰ろうと走っていく子どもを見て呟いた。
「でも楽しかったです。タルト、美味しかったし……、お茶って良いですね」
かわいいお店で、かわいくて美味しいお菓子をゆっくり食べてお茶を飲んでいたら、何だかもやもやしていたことがどこかに飛んで行ったような気がした。
「――今度また行きましょうよ」
「ステファンも誘いますか?」
その方がソーニャも嬉しいんじゃないかなと思って、そう言ったら、彼女は少し考えてから首を振った。
「――いいわ。あなたが誘えば、ステファンは気を遣って来てくれるでしょうけど、気まずいし」
「そうですか」
「それに……っ」
ソーニャは、うつむき加減に言った。
「あなたと二人の方が楽しい……かも……」
私はふふっと笑った。
「ソーニャはライガと似てるかもしれませんね」
「照れ屋さんなところが」と付け加えようと思ったらソーニャが怒った。
「誰が――、あんな感情的ですぐ怒る狼と――……」
そして、途中で、はっと気付いたように黙り込んで頭を抱えた。
「私、また怒っちゃった……」
私は困って笑った。
ソーニャとライガは確かに一緒にいたら喧嘩になりそう……かな。
「でも、ライガも、よく怒ってますけど、優しいんですよ」
――そのとき、噂もすれば影ではないけど、ライガの声が耳に飛び込んできた。
「こら、ノアっ! 上から急には、卑怯だろ……っ、痛ぇな、このやろ!」
道の端で、ライガがノアくんに乗り掛かられていた。




