第6話
「――眠ってる?」
倒れた赤い竜に近づいた狼男――ライガさん――狼だしライガでいいかぁ――が鼻でくんくん臭いを嗅いで呟いた。
「君がやったの?」
ステファンさんが驚いたような顔で私を見た。
私はぐらっと頭痛がして、「たぶん」と答えつつその場にへたりこんだ。
――よ、良かったぁ。
私が祈ると魔物って眠るのね……!?
現場でというか――実際の魔物を前に祈るのは初めてだったので、効果があったことに安心したのと、そういえば兵士さんと馬が疲れてたの祈って回復したりしたから、連続で祈りすぎて疲れたのとで、何だか身体に力が入らない……。
「し、死んでないのかっ、殺せ、はやく殺せっ」
その時道の外の草地の窪みからおじさんがひょっこり出てきて、竜を指差して叫んだ。
「ちょっと、あの、それは……その竜は……」
私はへたりこんだまま手を伸ばした。
「悪くない気がした――んだよね?」
ステファンさんが剣を鞘に納めて、にこりと私に笑いかけた。
この人はとてもいい人っぽいです。
私は頷いた。おじさんは引き続きわめく。
「そのガキはなんだ!」
「私はレイラと申します。キアーラ王国の大神殿の聖女――、あ、元聖女です」
「君が――『聖女』?」
ステファンさんが目を丸くしてる。
まあ、自分でも自分のことを『聖女』っていうのは恐れ多いんですけど。
大神殿のシスターの最高位といわれる『聖女』に任命されていたのは本当なんですよ……。
「王太子様に出て行けって言われたので、出てきたところなんですが、とにかく」
私はじっと彼の青い瞳を見つめた。
「その竜は、悪くない気がするんです」
ふむ、と彼は頷いてから呟いた。
「確かにこんな街道に火竜が出るのはおかしいんだ、本当は」
それからおじさんに視線を移す。
「ご主人、何か思い当たることはありますか?」
「うるさい、護衛は護衛の仕事だけしてろっ。その竜を殺して、荷馬車の火を消して、荷物を取り出して、逃げた馬を回収しろっ」
「それもそうですね」
ステファンさんはぱちぱち音を立てて燃えている荷馬車を見てため息をついた。
横倒しになった荷馬車からはころころと棒状にまかれたいろんな色の布が転がり出てる。
――布の行商の方かな。
私は大聖堂の上に上がって街を見回したときに、そういう商人の人が広場で市を広げていたのを見たことを思い出した。
いろんな色の布。ああいうカラフルなドレスが着たいなあ。
燃えたらもったいない。
私はうずくまったまま胸の前で手を組んだ。
聖魔法が、魔物や災厄をを鎮める魔法なら――、大事なものを燃やすこの火も鎮められるんじゃない?
祈りの言葉を口にする。
すると――火は何もなかったように綺麗に消えた。




