第59話
ソーニャさんが連れて行ってくれた魔法使い向けのお店は、広場沿いの大通りから何本か横道に入ったところにあった。
「お邪魔します」
そう言って中に入ると、「いらっしゃい」と綺麗な女の店員さんが挨拶してくれる。
――リルさんも、ソーニャさんもそうだけど、魔法使いの女の人って綺麗な人が多いなぁ。
大人っぽくて羨ましい。私がぽーっと見ていると、ソーニャさんが囁いた。
「……あの人、おばあちゃんよ、本当は」
「……うそ」
「指先見てみて。右手の人差し指」
私はその綺麗な店員さんの右手の指をじーっと見た。あれっ、一本だけ指が皺皺な気がする……。
「そこだけ変化させられてないのね」
くすり、と笑ったソーニャさんがまた小声で呟いた。
「……変化?」
「変身魔法よ」
私たちの視線に気づいた店員さんが鋭い声で言う。
「ソーニャ? 今日は、何か探しに来たの?」
ソーニャさんは何事もなかったかのように、にっこりと笑った。
「――この子にローブを選んであげようと思って。神官なの」
ソーニャさんは私の手を引いて、壁際のローブがたくさんかかっているところに連れて行った。
黒っぽい色が多いけど、布だったり皮だったりいろんな種類のローブがかかっている。
「この黒い皮のが一番無難なものかしら。魔法学校でも使っていて、今、私が仕事中に着てるのもこれね。――高いものだと竜皮のローブなんかだと、防火の効果だったり、いろいろと便利な効果があったりするけど――、魔法草の収集とか、そういう依頼程度だったら、この黒いので十分だとは思うわ。予算はどのくらい?」
「これだと、どれが買えますか?」
私は自分の財布を出した。
ソーニャさんはしばらく黙ってから、私を見つめた。
「――残り、私が出しましょうか。この前、とっても助けてもらったし」
足りないんでしょうか。――足りないんでしょうね。
報酬を増やしてもらったとはいえ、生活費もかかっていますからね。
あんまり貯金がありません。
「……これを、足したら、買えますか?」
ステファンから渡されたお金がたくさん入った革袋を取り出した。
じゃらりと中で硬貨がぶつかる音がする。
ソーニャさんは目を見広げた。
「こんなに? 足すって、どういうこと?」
「ステファンが、これで、できるだけ良いものを買ってきなよって……」
「――私のおじい様みたいね」
ソーニャさんは呆れたような表情になった。
「私のおじい様も、私が何か欲しいって言うと、よく『これで買ってきなさい』ってお小遣いくれたわ。……たいていお母様に見つかって取り上げられてしまったけれど。そんな感じね」
ソーニャさんはお嬢様なんですかね。
おじいちゃん。
親もいないからよくわかんないけど、おじいちゃんってそんな感じなんだ。
ステファンは、おじいちゃんみたい、なんでしょうか……。
「足りない分は、足して、残りはソーニャさんと美味しい物でも食べてきてって言われたんですけど……」
どれだけ使っていいんでしょうか。ソーニャさんは笑って言った。
「遠慮せず、良いのを買ってしまえばいいんじゃない? それだけあれば、竜皮のものも買えるでしょうし」
ソーニャさんがいくつか色の違ったローブを棚から取り出した。
「火竜のものなら耐火耐熱効果が強いし……、雷竜のものなら避雷効果があるわね。翼竜のだと……」
店員さんが近くに来たけど、代わりにソーニャさんが商品の説明してくれる。
「だんだんよく分からなくなりました……」
私は頭を抱えた。
「大事なことだからよく考え……」言いかけたソーニャさんを、店員さんが杖でちょんと触った。
「ソーニャ、あんたはもう、出しゃばりなんだから、黙ってなさい」
「*******!」
あ、また沈黙の魔法かけられてますね……。
店員さんは私に向き直った。
「初めて竜皮のものを買うなら、特殊効果以外の性能は同じだし……色や質感の好みで良いんじゃないかしら?」
店員さんは諦めたのか黙ったソーニャさんの手からローブをとると、私に握らせた。
サラサラ、粒粒、ザラザラ、つるつる
結構触り心地が違う。
目を閉じて、何度か触ってみて、しっとりした質感のものが一番触り心地が良いなと思った。
目を開けてみると、色は深い緑色をしている。
けっこう良いんじゃない……?
「これにします」
「水龍のローブね。お買い上げありがとう」
店員さんがにっこり笑うと、ソーニャさんにまた杖で触れた。
話せるようになったソーニャさんが「効果は耐火と耐水よ」と付け加えた。




