第58話
それから数日後、私たちはいつも通り宿屋の食堂で食事をしていた。
「あれ? 今日もサラダとパンだけ? メインのお肉とかいいの?」
宿屋の食堂で、山盛りのサラダをもらって席についた私を見て、ステファンが首を傾げた。
「うん」
私が頷くと、狼の姿でガリガリと骨付き肉をかじっていたライガが不審そうな顔をした。
「……魔法草採りに行った時からじゃねぇか。あの日も疲れたからって夜、せっかく焼肉屋行ったのに、全然食べなかったよな」
「あんまりお肉を食べたい気分じゃなくて。あ、でも全然大丈夫だよ」
そう取り繕ったけど。
実は、あれ以来、なんだかお肉を見ると、何となく――傷だらけだったジャンさんの姿を思い浮かべてしまって、心がザワザワして、食べたいけど、あんまり見たくないというか、食べない方がいいんじゃないかな、という気持ちになってしまって、あれ以来、お肉を食べていない。
「今日はソーニャとローブを買いに行くんだっけ?」
ステファンが話題を変える。
そう、今日午後はソーニャさんに魔法使い用のローブが売っているお店に連れて行ってもらうんだった。
「この前は、重い装備着せてごめんね。お詫びに、これで良さそうなローブ、買ってきなよ」
はい、とステファンは硬貨がたくさん入った革袋を私に渡した。
「良いの!? 自分で買えますよ」
思わず聞き返す。私も冒険者ギルドからお祈りぶんのお金はもらってるし、それで買おうと思ってたんだけど……。
ステファンは受け取り拒否ができない笑顔で、返そうとした革袋を再度、私の手に握らせた。
「じゃあ、足りない分、足すのに使ってよ。性能の良いものを買ってもらった方が、これから一緒に行動するのに、僕らも助かるし」
「――それじゃ、足りない分だけ、使わせてもらうね……」
「余った分は、ソーニャと美味しい物でも食べてきてね」
***
「お待たせしましたー!」
街の中心にある広場に行くと、黄色いワンピースを着たソーニャさんが本を読みながら噴水の傍のベンチに座って待っていた。待ち合わせより少し早く着いたつもりなんだけど、もう待っててくれたみたい。
「そんなに待ってないわ」
ぱたんっと本を閉じた彼女を私はよく見た。
この前着ていた真っ黒なローブのイメージが強かったから、明るい色のワンピースだと何だか別の人みたい。黄色い生地はよく見ると白い花の刺繍がたくさんしてあって、とっても可愛かった。
「そのお花の刺繍、可愛いですね」
「……そう?」
ソーニャさんは自分の服を見直してから、ぼそっと言う。
「あなたもその青いの、似合ってるわ」
「あそこの仕立て屋のおばあさんに作ってもらったんです」
私は広場の近くにある仕立て屋さんを指差した。
「ふーん、こんな外れの田舎でも、そんな可愛いデザインの服があるのね」
私たちは話しながら、魔法使い向けの服や道具が売っているという店に向かった。
「ソーニャさんは、そのワンピース、どこで買ったんですか?」
「実家から持って来たのよ。気に入ってるから」
「素敵です。お出かけの時は、ワンピース着たいですよね」
ソーニャさんは「本当に!」と頷いた。
「――魔法学校でもぜんぜん着る機会がなくて――、学校出て、外に出たらたくさん着てお出かけとかしようと思ったら、行けって言われたのが……こんな田舎町だし……まぁ、こういうお買い物のときくらいはね」
「ここって田舎なんですか?」
「田舎よ、田舎。私の実家のある街なんて、洋服屋なんて何軒もあるわ」
「そうなんですね。すごいなぁ」
街といえば――私はここしか知らないから、そんな大きな街があるなんて想像ができなかった。




