第57話
私たちはソーニャさんたちのところに駆けつけるときに置いてきた、収穫した魔法草を回収して山を下った。
ライガの背中に担がれたジャンさんが、残念そうに呟く。
「俺たちの採った魔法草は、全部燃えちゃったな……」
「そんなことより、『無事で良かった』でしょ。あなたが治ったらまた採りに行きましょう。魔法草収集の依頼なんていつでもあるんだから」
ソーニャさんはジャンさんの頬を引っ張った。
それから、ステファンを見た。
「でも……前に、ステファンに大きい音で攻撃すると、魔物が興奮して音の方に向かってくるって聞いてたの、覚えてて良かったわ。ジャンが穴に引きずり込まれたとき、とっさに思い出して、爆発魔法で兎の気を引いたの」
「ソーニャじゃなかったら、二人とも危なかったと思うよ。こんなところで、あんなことになっているなんて、ギルドの方でも把握できてなくてごめんね。とりあえず、見回りするように所長と話しておくよ」
「お前、それ、ギルド職員の仕事……」
「いや、だって、人手不足だから、何かあったら、僕たちが行かないとじゃないか」
「お前がいいなら、いいけどよ」
「とにかく、ジャンの怪我も入院すればすぐ治りそうだし、よかった」
ジャンさんは布でぐるぐる巻かれた腕や足を見てぶるっと震えた。
「……本当に、ありがとう、ソーニャ。あのまま、穴に引きずり込まれて、食われてたらって思うと……。俺、頼りなくて、ごめん……」
「まぁ、初めから私一人……」
ステファンがとんとんっとソーニャさんの肩を叩いてにっこり笑った。ソーニャさんは、「う」と言葉を詰まらせて、「……どういたしまして!」とぷいっと横を向いた。
黙ってそんな皆の様子を眺めていた私の顔を、ライガがのぞきこむ。
「……レイラ、どうした? 疲れたか? なんか、言葉、少なくないか」
「……え? あ、ううん、大丈夫……」
私は首を振った。
私は、最初――興奮した兎を鎮めようとしたときに、できなかった理由を考えてた。
傷だらけのジャンさんを見たときから、何だか心が落ち着かなくなったんだ。
あの時も、あのままソーニャさんが兎の群れに飲み込まれたらどうなるだろうって、しちゃいけない想像して、集中できなくなってしまった。
「こんな重装備じゃ疲れちゃうわよ……」
不意にソーニャさんが私の被っていた兜をひょいって持ち上げたので、びくっとして彼女の顔を凝視してしまった。
「ステファン、ライガ、何で神官の子に、こんな重装備着させてるの?」
ソーニャさんがステファンとライガに呆れたように問いかける。
珍しくステファンも困ったようにライガと目を合わせて、二人は声を合わせた。
「「……怪我したら、嫌だと思って」」
ソーニャさんは「はぁぁぁ」と大きなため息をついた。
「……魔法使いが何でローブを着てるかわかる? 魔法はね、すっごく精神力を使うの。だから、身体にちょっと余計な重さがあるだけで、集中の邪魔になるから、ゆったりしたローブを着てるの。神官の祈りだって同じでしょう」
彼女はさらに語気を強めた。
「防具つけてないぶんは、剣士とかが守るのよ。守る自信がなくて重装備させるならパーティー組まない方がいいんじゃない? 全く、みんな魔法使いのことわかってないんだから」
ジャンさんが涙声で言った。
「ソーニャ、ごめんんんん」
「ジャン、違っ、あなたのことじゃ……」
ぐっと言葉を飲み込むライガの横でステファンは「ははは」と困ったように笑ってから私をのぞきこんだ。
「ごめん、全然そういうの、気が回ってなかった」
「いえ、心配してくれて、嬉しいです。……でも、確かに重いかな……」
次はソーニャさんは私を覗き込んで、「私が今度、ローブを見てあげるわ」と言った。




