第53話
……あれが魔法草?
それは魔物の群がいるというには、あんまりにものんびりした、絵本の挿絵のような光景で、私は不思議な気持ちになった。
にんじんの頭のところが丸くなって確かに人間っぽい顔をしてるけど、こんな【(--)】顔で、目を閉じて木漏れ日を浴びてる様子はむしろ可愛かった。
「”よし、準備だ”」
ステファンはそう口を動かして、ライガと一緒に担いできた大きいシャベルで、地面を掘り始めた。二人は黙々と穴を掘っていく。あっという間に私がすっぽり入れそうな深さの穴が開いた。
「”二人で、ここに追いかけて落とすから、たくさん落ちたら、祈って大人しくさせて”」
身振り手振りで私に伝えてくる。
穴に、あれを落とすの? それで、私が祈って大人しくさせればいいのね。
イメージはわかったので、頷くと、二人は顔を見合わせ、草をかき分け日光浴中の魔法草の円陣に後ろから飛び掛かった。
……とたん、魔法草たちの目がかっと開いた。
「わぁぁっ」
私は思わず後ろに飛びずさる。
さっき可愛いと思ったの、間違い! 顔、怖いっ。
耳栓越しに、空気が震えるのがわかった。
魔法草たちは、口を大きく開いて、たぶん叫びながら二本に分かれた根っこのような足を動かして四方八方に走り出した。それをステファンがシャベルを剣みたいにふるって、ライガが威嚇するみたいに動いて、走る方向を調整して誘導する。
だだだだだだだ
土埃を上げて、たくさんの魔法草が私の方目掛けて走ってくる。
私は思わず後ろに逃げた。
どどどどどどど
走ってきた魔法草たちは雪崩れるように穴の中に落ちた。
穴に落ちなかったのは横を通り過ぎて森に逃げ込んで行き、騒ぎは止んだ。
私は穴の中をのぞきこんだ。
落ちた魔法草は穴の中を混乱したようにぐるぐる走り回ってもみくちゃになっている。
……なんか、ちょっとかわいそう。
私は手を組むと目を閉じた。
……女神様、この穴の中で苦しむ彼らに安らぎを。
目を開けると、穴の中で魔法草たちはさっき日向ぼっこしてた時みたいに、目を閉じて大人しく足を折るように座っていた。
うん……、やっぱり、この顔なら可愛いかな……。
「”うん、すごいね。大人しくなってる”」
草藪から出てきたステファンが感心したように言ったので、私は得意な気持ちになった。
「”ふだんは、穴の中で暴れるのを一匹ずつ捕まえるのが面倒なんだよね””」
ステファンはそう言いながら腰から短剣を抜いて、それと薄い木の板を私に渡した。
「”首を切ってね。さくっと”」
彼は自分も短剣を出して、魔法草を穴から一本掴むと板の上に置いて、野菜を切るみたいにさくっと首……というか顔のところを切り離した。うん……、何ていうか、切り口もオレンジ色だし、にんじんですね。これは。
「”大人しくなってると楽だな”」
ライガはナイフを地面に置くと、狼に変身して、鋭い爪でさくっと首を切った。
耳栓がはずれて地面に落ちてる。
「"まだしてろよ、ナイフでやればいいだろ"」
「"こっちのが速い"」
二人がやり取りしている間に、私もさくっと切ってみようとしたけど、けっこう硬くてなかなか切れなかった。二人とも力があるなあ。
「”こっちのナイフ使ってみる? 前後に動かすといいかも”」
ステファンがのこぎりみたいな、ギザギザの歯がついたナイフをくれた。
道具何でも持ってるからすごいなあ。
それをぎりぎりと前後にナイフを動かしたらやっと切れた。
そのとき、狼姿のライガがすんっと鼻を動かした。
「"何か、焦げ臭くないか?"」
私とステファンは顔を見合わせる。そういえばそんな気も……。
「"煙?"」
ステファンが立ち上がって遠くを眺めて呟いた。
そちらを見てみると、確かに細く白い煙が上がっている。
ステファンは耳栓を外すと、周囲をうかがった。
――すると、
ガサ……ガサっ
草むらの方から何だか音がする……。
「た、助け……て」
草藪の中から、傷だらけの男の人が這い出てきた。




