第52話
魔法草の採集に行くことになった私たちは、まず街の防具屋さんに行きました。
「これと、これと、これもつけろ」
ライガがぱっぱっぱと棚から品をとって私に投げてくる……。
ステファンが「待て」とライガを止めた。
「鎖帷子に肩当て、膝当て、胸当て、兜……、多すぎないか」
「……途中で変な魔物でも出て、怪我したら大変だろ」
ステファンはライガと顔を見合わせる。
「それもそうだなぁ。あと……すいません、手袋ももらえますか――、あっ、その一番丈夫そうなやつで」
重い……。
仕事用に作った動きやすい緑のローブの上から、渡されるものをそのまま全部身に着けたら、よろめいた。
「これだけつけときゃ、ばっちりだろ」
ライガは満足そうに頷く。
「そんな重装備、竜退治にでもその子連れてくのか?」
防具屋の店主さんはちょっと呆れたように私を見る。
やっぱり、これちょっと重装備すぎるよね……?
「魔法草の採集なんです」
お会計をしている横でそう言うと、店主さんは変な顔をした。
***
「ごめんなさい、ちょっと、重くて、疲れちゃって……。もう少しゆっくり……」
魔法草がとれるという山の方へ向かいながら、私は二人に遅れそうになる。装備が重い……。
これで山に登れるのかな……。
というか、ステファンは軽そうな皮の鎧だし、ライガにいたってはシャツ一枚で街の格好と変わらないのに、私だけおかしくないかな……。
「体力無ぇな。背負おうか」
ライガが振り返って呆れ顔をする。
……何だろう、私のこのお荷物感。頼りないだとか、心配だとか、そう思われてる感じがひしひしと伝わってくる。
私は首を振った。
「大丈夫」
……私だって、役に立つってことを二人にわからせてあげるんだ、ぜったい。
***
「魔法草は、湿気が程よくて日当たりの良い開けた場所……小川の近くの岩場なんかによく自生してるんだ」
山に入ってしばらく、ステファンが歩きながら説明をしてくれる。
「暖かくなってくると、成熟して、地面の外に出て歩き回るようになる。攻撃はしてこないけど、びっくりすると、大声で叫んで逃げ回るんだけどね、その叫び声を聞くと気絶しちゃうから、気をつけないといけない」
「はい」と彼は私とライガに耳栓を渡した。
「それをちゃんとつけてれば大丈夫だよ」
「了解」
ライガはそう言って、それを耳に突っ込む。仕事中なのに人間の姿のままだから私は首を傾げた。
「今日は狼にならないの?」
「あの姿だと耳をうまく塞げないからな。あと、音に敏感になるから」
私も受け取った耳栓を、耳の穴にぎゅっと押し込んだ。
音が遮断されて、ライガが何か続けて喋ってるけど、口がぱくぱくしてるようにしか見えない。
「”だからじゅうじんはこのしごとはむかないんだよな”」
だから獣人はこの仕事は向かないんだよな……だよね。
そのとき、ステファンが振り返って「しっ」と口に手を当てて、遠くを指差した。
目を凝らすと、小川の横の日当たりの良い岩場で、先っちょが二つに分かれて足みたいになった大きいニンジンみたいなのがたくさん、円形に座って日向ぼっこをするみたいに木漏れ日を浴びていた。




