第50話
「ソーニャのことは気にしないでね。あの子、レイラちゃんが来る前に、ステファンたちとしばらくパーティーを組んでいたんだけど、解散してから、ちょっと荒れちゃってて。もともとちょっと思い込みの激しいところがあるんだけどね。……あの子、ステファンのこと気に入ってたみたいだから、あなたみたいに可愛らしい子が仲間に加わったのが、気になるのよ」
リルさんは困ったように笑った。
「ソーニャはねぇ、魔法使いとしては優秀なんだけど――そのぶん、『魔術師ギルドの研修とはいえ、こんな外れの田舎町の冒険者ギルドで、何で自分が下働きをしなくちゃいけないの』……みたいなところがあって、他の冒険者と合わなくってね。ステファンは人当たりがいいから所長が組ませてみたら、けっこううまくいってたんだけどねえ。――解散するときにもめちゃったみたいで」
「そうなんですね」
何て返したらいいかわからなかったので、とりあえずそう相槌を打って私は黙った。
人間関係ってややこしいんだなぁ。
まぁ、神殿を出てから色んな人を見たけど――ステファン、格好良いですもんね。優しいし。格好良いと良いで、色んな問題があるんですね。
『近くで見ると本当に子どもじゃない』
私はソーニャさんの言葉を思い出してため息をついた。
……気持ちは、16歳なんですけど。
行く先々で子ども扱いされるのには、ちょっと辟易してきている。
神殿にいるときから、自分の見た目は何だか年齢に追いついていない気はしてきたものの、外に出てみてからは、余計にそう感じてます。
「サムさん、小人でもハーフなら、もっと背も伸びて大人っぽくなりますかね」
私は受付カウンターの中からひょっこり顔を出している小人代表のサムさんに聞いた。
「それ俺に聞く? てか、人間みたいに、でかくなる必要あるか? 身体は小さい方が動きやすくて、よくないか? ハーフなんかお前以外、見たことねぇからわかんないけどなぁ。気にしてんのか」
「いえ……、まぁ、ちょっと。……そもそも、ハーフって……人間と小人のご夫婦ってそんなに珍しいんですか?」
「見たことねぇよ。……そりゃあさ、身体の大きさが全然違うからなぁ」
サムさんはへらっと笑った。
「俺は別に相手が良ければ何でもいいけどよ。レイラだって俺から見たら全然普通に……」
そのとき、カウンターの外から伸びた手がサムさんの襟元を掴んで持ち上げた。
「『普通に』何だって? この子どもおっさん」
機嫌の悪そうな声に、上を見上げると、サムさんを持ち上げているのはライガだった。
サムさんは「よっ」と手を挙げる。
「ライガじゃん。おはようさん」
「ここ飲み屋とかじゃねぇからな。朝っぱらからレイラに絡むな」
ライガはちっと舌打ちすると、サムさんを下におろした。
「乱暴だなぁ。サムさんに謝ったほうがいいよ」
私はサムさんを「大丈夫ですか?」とのぞきこんだ。
上から襟を掴まれるの、あれやられると、親に運ばれる子猫みたいな気持ちになって無力感があるんだよね。
「……悪かったな」
ライガはぽりぽり頭を掻くと、サムさんに気まずそうに謝った。
あれ……素直ですね。私は少し意外だった。
「いや、俺も悪かったし。さっ、仕事、仕事」
サムさんは頭を掻いて笑うと、カウンターに座り直した。




