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追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!  作者: 奈津みかん
【2章】元聖女は冒険者としての生活を始めました。

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第47話(ライガ視点)

 ギルドの裏庭には(かまど)がある。


 俺はもらった大鍋に水を入れてくると、リルが魔法で点火してくれた竈の上にそれを置いた。


「ちょっとどいててね」


 リルは杖をかざすと、呪文を唱える。火の柱が鍋を包んで一気に水が沸騰した。

 魔法って本当に便利だよなぁ。

 魔術師ギルドが世の中を仕切ってるのも、わかる気がする。


「これも……竜の卵なの? 火竜の卵とぜんぜん違うみたいだけど……」


 レイラが水洗いしてきた拳大(こぶしだい)の蛇竜の卵を指でぷにぷにとつついた。

 火竜の卵は鶏の卵のでかいやつみたいな感じで、硬い殻があるけど、蛇竜の卵は殻が柔らかくてゼリーっぽい。


「一応、竜だよ。翼がなくて動きが蛇っぽいし、卵も蛇の卵っぽいから、蛇竜って呼ばれてるけどね」


 ステファンが説明する。


「茹でると、殻ごと食べれるんだ」


 俺は卵をぐつぐつしてる湯に放り込んだ。

 

 中で踊り出した半透明の卵は、だんだん白い色に変わって上に浮いてきた。

 こうなれば、完成だ。

 俺はそれをおたまですくうと、器に載せてレイラに渡した。


「塩つけて丸かじりが一番うまいぞ」


「わぁ、ありがとう!」


 レイラはそう言うと、がばっと卵を手で掴んで「熱っ」と手放した。


「……どんだけ食い意地張ってるんだよ。狼男の俺でももう少し待つぜ」


 呆れ顔をすると、レイラはむっとした顔で「待つ」と返事をした。


 自分の分と、他の奴の分も器に載せる。


 湯気が少なくなってきたところで、レイラはそれを片手で掴んで豪快にかぶりついた。


「――美味しい……、普通の卵よりも味が濃いですね! それに中心が半熟でとろとろでいい感じです」


 いつもどおり、幸せそうな顔で味の説明をしてくれる。


 ……作り甲斐があるな。茹でただけだけど。


 そこで俺はステファンが何か観察するようにレイラを見つめていることに気付いた。

 レイラが美味そうに食べてるから、こいつも食べたくなったかな。


「ステファンも食えよ」


 器を押し付けると、ステファンは露骨に嫌そうな顔をした。


「レイラ見てりゃ、美味いのわかるだろ」


 そう背中を叩くと、ステファンがおそるおそるといった感じで卵を手に取って、一口かじった。


「どうだ?」


「……まぁ……確かに……美味いかも」


 そういいつつ、2口目に進んでいる。

 やっぱり食わず嫌いだ。俺はにっと笑った。


 そうしてたら、ナターシャがステファンの肩を叩いた。


「ステファン、ちょっと良い?」


「はい。大丈夫です」


 ステファンは残りの卵を口に押し込むと、俺に「ちょっと行ってくる」と言って去って行った。


 ***


 裏庭の隅の方でステファンとナターシャ・テオドールが何かを話してる。


 ……ステファンの方が何かと頼りになるのはわかるけどさ。


 最近、こういうことが多いので、ちょっと気にはなる。


 俺は近すぎない距離で聞き耳を立てた。


「――レイラなんだけど、回復魔法が――」


「そうですか……、じゃあやっぱり」


 レイラの話か!

 俺は3人のところに割って入った。


「その話は俺が聞くとまずい?」


「ライガ!」


 ステファンが驚いた顔をする。

 まあ、俺は今まで、面倒な話とかはステファンに任せっぱなしだったからこういう顔もわかるけど。でも――、レイラのことは話は別だ。


 成り行きで一緒に行動することになったとはいえ、乗り掛かった舟だし、何でかはわからないけど俺はあいつのことが気にかかる。


「――まずくはないけど」


「じゃあ、いいだろ。仲間なんだし、聞いといても」


 3人は顔を見合わせて、頷いた。


「レイラの種族のことだが、魔力の大きさから小人ハーフってことはなくて、エルフか魔族の血が入ってるんじゃないかって話はステファンとしてたんだ」


「え――でも耳が短いじゃん、あいつ」


 魔族の姿は知らないけど、エルフって耳がすごい長いんじゃなかったっけ。見たことないけど。


「それが――、ここ数日、神官の役割――、祈りや回復魔法について、彼女と話したんですが、まず、彼女は回復魔法が使えない。精霊の気配がわからないと言うんです」


 テオドールは何かすごい辛そうな顔で言う。


「それが?」

 

 俺は魔法のことはよくわからない。


「エルフや魔族の耳は、精霊の気配を察知する役割も果たしてるとも、言われています。彼らが人間よりも魔法に長けてるのは、その耳のおかげとも――。それで、レイラの場合あれだけ魔力が強くて、精霊の存在が認知できないというのは、おかしいと思いまして……」


 言いにくそうにテオドールは言った。


「レイラの場合、耳を切られてると思います」


「切っ――られてる? 耳?」


 俺はリルと話してるレイラを振り返った。

 あいつはこっちの緊張した空気は全く気にせず、両手に卵を持ってもぐもぐと食べていた。



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