第44話
今日も1日が始まりました。
いつもみたいに宿屋の女将さんに朝ごはんのサンドウィッチをもらって、冒険者ギルドに行って、テオドールさんと一緒に、依頼を受けて魔物退治などに行く冒険者の方々に【退魔の祈り】をします。
「じゃあ行ってくるね」
今日はステファンとライガは、他の冒険者の人と一緒に、魔術師ギルドからの『魔物の卵を採取する』という依頼で、近くの山に行ってしまいました……。
「次はお前と行くからな、それまでテオドールにいろいろ聞いて、待ってろよ」
ライガは腰を落として、私と目線を合わせて言う。
この前ついていったせいで、念押し、してるのよね。
子どもみたいで恥ずかしいな……。
それからライガは、こしょこしょっと小さい声で付け加えた。
「土産持ってきてやるから大人しくしとけよ」
「おみやげ?」
「楽しみにしときな」
にっと笑ってライガは「じゃあな」と手を振って去って行った。
お土産……何だろう。楽しみだな。
「それじゃあ、教会に戻りましょうか」
テオドールさんが言ったので、私はうしろをついて行く。
私が大神殿で教えてもらった【祈りによる聖魔法】についての知識は、ちょっと冒険者としては不足しているみたい。いざ魔物退治に行く前にそのあたりを詳しく教えてもらうことになったのだった。
「テオー、おかえりー!」「おねえちゃんいらっしゃーい」「きょうあついねー」「きょうはちゃんとおきたよ」
教会に帰った途端、小さいふわふわした耳が走り出してきて、私たちを取り囲む。
かわいい……。冒険者ギルドの人たちは、いつもみんな、私のこと子ども扱いするから、『お姉ちゃん』って呼ばれると、嬉しくてそわそわする。至福の時間だ。
「お前らはシスターのところ行ってろよー」
奥からノアくんが出てきて、通いで日中教会に来てくれているシスターさんの方へと、子どもたちをまとめて押し返した。それから荷物を背負って教会を出て行く。
――ノアくんは街の大工の親方さんのところに毎日修行に行ってるんだって。
「ノア、行ってらっしゃい」
テオドールさんが手を振ると、ノアくんは「ん」とだけ言って背中を向けて行ってしまった。
「行ってらっしゃーい」
私も後ろから言うと、今度は道の途中でこちらを振り返って手を振ってくれた。
テオドールさんは「はぁ」とため息をついた。
***
「では復習ですが、祈りによる聖魔法の奇跡の主な効果は『鎮静化』です。荒ぶる事象――特に魔法による超常的な事象を鎮めます」
「魔法の力を鎮めるから、リルさんの魔法で喋れなくなってるノアくんを落ち着かせようと祈ったら、話せるようになったんですね」
大司教様には、ただ、『キアーラの人たちが魔物のために苦しんでるから、彼らが安心して過ごせるように祈りなさい』と言われただけだったけど、どうやら祈りは、魔物だけじゃなくて魔法の効果も鎮めるらしい。
「そうですね。だから、仲間と一緒の時は気をつけないといけません。下手に祈ると、魔法の効果が消えてしまうことがあります」
「あとは」とテオドールさんは指を立てた
「前にも言いましたが、自分が対象のために祈りたいと考え、自分の意思で祈ること。何のために祈るのかを、日々自分で考えることが大切です」
「はい――」
そのへんのお話は難しいなぁ。
「聖魔法については、それだけ気を付ければ、あなたは私など比べ物にならないくらい強力な魔法を使えますからね」
「――で」とテオドールさんは黙り込む。
「回復魔法については、全然教えてもらっていなかったんですね」
回復魔法は身体の傷やなんかを治す魔法だ。
神官の人は、聖魔法と回復魔法をセットで使えるものらしい。そして、回復魔法は祈りじゃなくて、精霊の力を借りてやるものだ、ということだった。
「はい。全く」
「精霊の存在も感じたことないですか?」
私は首を傾げた。テオドールさんは考え込む。
「それだけ強い魔力があるのに、精霊を感じたことがない、というのは変なんですよねえ」
テオドールさんは私の手を取ると、自分の手をその上に重ねて、私を見つめた。
「何か、手のあたりに違和感はありませんか?」
「?」
じっと手を見つめる。
特に何も感じなかった。
「今、あなたの中の生命の精霊に魔力を送ったんですが……」
テオドールさんは考え込むようにうつむいた。
「そうですか、わからないんですね……」




