第4話
キアーラ王国を出て、馬車はびゅんびゅんと風を切りながら街道を進んでいく。
「うわぁ」
私は窓から身を乗り出して、歓声を上げた。
石畳の街道はどこまでも続いているようで、緑の山がいくつもその先に連なっている。
世界って広い。これからは、どこにでも行けるんだ――私の知らない場所に。
あの花が咲いている木の名前は何?
あの木にとまっている大きな黒い鳥の名前は何?
疑問ばかりが頭をよぎり、私はすとんと椅子に座った。
――私って、外のことを何も知らない。
改めてそう気づいたとき、馬車がききーっと急停止した。反動で私は椅子から転げ落ちた。
「どうしましたか?」
転がってぶつけた頭をさすりながらドアを開けると、兵士さんが暴れる馬をなだめながら、青い顔で言った。
「引き返しましょう――」
唇がぶるぶる震えている。その視線の向こうには、横倒しになった大きな馬車が、黒い煙を上げていた。そして、何か大きな影が、真っ赤な炎をその馬車に向かって吐いている。それは、炎と同じ真っ赤な鱗で身体を覆われた、すごく大きな、馬車くらいのサイズのトカゲみたいな生き物だった。
「何でこんなところに火竜がいるんだ……」
兵士さんたちが怯えた様子でつぶやいた言葉が耳に入って、私は窓から身を乗り出した。
――あれが、竜! 本物の、竜っ‼
気がついたときには、私は馬車を飛び降りていた。本物の竜が、そこにいる。経典の挿絵でしか見たことがない竜が。
「近づくと、危ないですよ‼」
私がその燃える馬車の方へ行こうとすると、兵士さんが馬から降りて、止めようとしてくれた。けれど私は、その手をするりと抜けて、竜に向かって走った。兵士さんたちは怖がっているけれど、その竜は怒っているのではなく、何か大事な物を失くして、混乱して嘆いているように感じた。竜は、走ってくる私に気が付いて、また口を大きく開けて、炎を吐き出す準備をする。
「何をしてるんだ‼」
そのとき、怒ったような男の人のしゃがれ声がして、私の身体が横にぐいっと引っ張られた。
「うわぁ」
間抜けな声を出した私は、自分の足が宙に浮いていることに気づいた。修道服の襟首を何かに噛まれている感触がして振り返る。そこには銀色の毛をした大きな犬の顔があった。
「犬?」
私はその犬に襟首をくわえられたまま、その銀色のふかふかした胸の毛に手を伸ばした。
「……犬だ!」
犬は見たことがある。たまに礼拝に来る貴族の男の人が、白いむくむくした大きい犬を飼っていて、いつも一緒に連れて来ていた。それをちらっと見るたび、「触らせてもらえないかなぁ」と思っていたんだ……。わしゃわしゃと毛を撫でる。
「犬じゃねえ! 俺は狼だ!」
私の襟首から口を離すと、そのずいぶん大きい犬……もとい狼が怒った。牙の生えた大きな口から、しゃがれ声がする。
「しゃべった……」
私はびっくりして狼を見つめた。




