第39話(ステファン視点)
今、僕らはテムズさんの言っていた取引相手を待って、日が暮れた森の中で待機している。リルと僕は遠巻きに、夜目が効いて気配を隠せるライガとナターシャさんがテムズさんの近くにいる。
「(まだかしらね)」
近くでリルが口を動かした。
僕は首を振った。何か動きがあれば、ライガとナターシャさんから知らせがあるはずだ。
僕らは気配を消すためリルの【沈黙】の魔法で自分たちから発せられる音を消している。
リルは魔術師ギルド所属の魔法使いで――冒険者ギルドの職員でもある。
冒険者ギルドは一応独立した組織ではあるけれど、実際は魔術師ギルドの下部組織というか実働部隊という面があって――冒険者ギルド職員には魔術師ギルドの魔法使いを置かないといけない決まりがある。
この街のギルドの場合はリルがそうだ。
ギルドによっては魔術師ギルドから派遣された魔法使いは偉そうで、冒険者と折が合わない場合もあるけど、彼女は所長のナターシャさんと仲が良くて……受付まで出てくれたり、こういう仕事にも協力的ないい人だ。
そのとき、とんとんと肩を叩かれた。
気配が全くなかったので、思わず剣を構えて振り返ると、影が二つ後ろに飛びのいた。
――ライガとナターシャさんだ。
「(だめだ)」
ライガが手で×を作りながら言った。ナターシャさんが目線で指示して、リルが杖で僕たちを順に叩いた。魔法が解除されて、喉を空気がすーっと通る。
「いない。アタシの耳でもライガの鼻でも―アタシたち以外の気配がない」
「あのおっさん、嘘ついてたのかね?」
「それはないわ。【真偽鑑定】が使える魔法使いをわざわざ魔術師ギルドから呼んで、聞いたもの」
【真偽鑑定】は嘘をついているかどうかを判断できる魔法だ。
使える魔法使いは少ないんだけど、今回は魔物取引法違反だから魔術師ギルドとしても、首謀者を取り押さえたい案件みたいで、状況を報告したら使える人を送ってきたらしい。
「やっぱり、僕らがテムズさん捕まえたっていうの、相手に知られちゃいましたかね?」
僕は頭を掻いた。
彼が捕まったのを知っていれば、ここに来てもおとりだと気づいて近づいてこないだろう。
ギルドに連れて行った時縛ってたし、街に入るときに門番の人に『竜の卵の密売で捕まえた』って言っちゃったしなあ。もっと目立たないようにすればよかったかな。
「――一応、あれは誤認連行で、馬車は燃やされたけど荷物は無事だったって役人には報告したんだけどな。あの男も2日目からは宿屋に移動させたし」
「売り物の布を僕らが売っちゃったりしたし、どっかから漏れましたかね」
「――彼を捕まえたとき、誰か他にその場にいたか?」
僕とライガは顔を見合わせる。
えーと、あのときは、レイラと――。
「――キアーラの兵士がいましたね。レイラを運んできた。僕らで街まで送るって言ったら帰っていきましたけど。彼らは竜に卵を返したら山に戻っていったところまで見てますよ。帰ったら当然報告するでしょう」
「キアーラ……、キアーラねぇ……。レイラのこともあるしねぇ、何か嫌な匂いがする気がするんだよねえ」
所長はぶつぶつとつぶやくと、「まぁ」と言葉を続けた。
「はじめから捕まえられたら儲け物だったんだ。とりあえず今日は仕方ない」




