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【完結】追放された元聖女は、冒険者として自由に生活します!  作者: 夏灯みかん
【2章】元聖女は冒険者としての生活を始めました。

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第37話

 私はどうしたものか、と丸まったノアくんを見ながら腕を組んだ。

 ノアくんはもぞもぞと顔を上げて私を見つめ返すと、ぶっきらぼうに言った。


「……縄、ほどいてよ」


 どうしたらいいかな。「見てて」とステファンに言われた以上、彼を見てないとだけど……。


「ほどいたら、またお母さんたち追いかけますか?」


 彼はぶんぶんと首を振った。


「これでまたついていったら、次は殴られる」


 年に似合わない深いため息をついてノアくんはまた丸まってしまった。


「気づかれる時点で、役立たずだし」


「それは私もですね……」


 私もため息をついた。行ったら役に立てると思ったんだけど、この子を見ておいて、だけでみんな行ってしまった……。


 ぐぅぅぅ


 しばらく二人で落ち込んでいると、どちらのお腹からかわからないお腹の音が、暗くなりかけた林道の入り口に響いた。


「「……」」


 相手と目を合わせて、黙った。たぶん、二人同時だ。

 思えばここまで歩いて来るのにかなり歩いたし、待ってる間、何も食べてなかった。


「……お家に帰りましょうか」


 そう言うと、ノアくんはこくりと頷いた。

 私はステファンが器用に縛った彼の腕のロープに手をかけた。

 ――うぅ、硬い。

 ステファン、固く縛りすぎ……。もっと手加減しなよ……。

 

 格闘している私を、ノアくんが呆れたように見て言った。


「あんた、本当に小人? 手先不器用すぎ」


「ハーフみたいなので……」


 その時、


「ノア! お前、また母ちゃんの仕事の邪魔したのか!」


 野太い声がして、顔を上げると、呆れ顔の人間のおじさんがこちらに歩いてきていた。

 ……この人は、誰?


「親方!」


 首を傾げる私を見て、おじさんも首を傾げた。


「誰だ、この子」


「ギルドの冒険者だって」


「ええ?」


「これで16らしいよ。小人のハーフだってさ」


「はあ、いろんなのがいるんだなあ。冒険者ギルドは」


 ノアくんは不貞腐(ふてくさ)れたように私に言った。


「――俺の、修行先の、大工の親方」


「どうも」


 私は「はじめまして」と挨拶をしてから首を傾げた。


「どうして、ここに」


「どうせ、また、アイツだろ、ステファン」


 ノアくんは耳をピンと立てて言った。


「そうそう、ステファンが、お前の様子見てくれって言ってたんだよ。今日、お前が教会にいなかったら、この辺でナターシャに捕まってると思うから、引き取りにきてくれって」


 さすがというか、捕まえたノアくんの回収まで対策済みだったんですね、ステファン。

 ますます私いらなかった気がします。

 親方さんはノアくんのロープを持っていたナイフで切ってくれました。


「俺、ステファン、苦手。何考えてるかわかんねぇんだもん」


 自由の身になったノアくんはぷんぷんしている。


「そんなこと言うんじゃねぇぞ。母ちゃんの仕事の邪魔するのが悪いんだからよ。家に帰れ」


 林道の方を見たけど、ステファンたちがまだ戻ってくる気配はなかった。


 ――親方さんが迎えにきてくれるのを手配してくれてたとはいえ、


「勝手に帰ったら、戻ってきたとき心配しますかね」


 そうつぶやくと、ノアくんは「大丈夫」と手のひらを出した。

 シャキンっと音がして彼の手から尖った爪が伸びた。その爪で、縛られていた木にガリガリと何かを書く。


『家帰る ノア』


 その手がありましたか。

 でも……ずいぶん慣れた感じですね。……何回か同じようなことをやってるのかな。


「シンプルでわかりやすいメッセージですね。私の名前も足しといてくれますか『レイラ』と」


 ノアくんは「わかった」と言って、木に文字を削って加えた。


 私たちは『家帰る ノア レイラ』と彫った木を背中に、親方さんと一緒に街の灯りの方へ来た道を帰って行った。


 ***


「あとできちんと母ちゃんに謝っとけよ」


 親方さんはそう言ってノアくんの頭をぽんとたたいて去って行った。


「……あんたも(うち)来るの?」


 ノアくんは、彼の家の教会前で怪訝そうな顔で振り返った。


「あなたを見ていてと言われた以上、あなたのお母さんたちが戻ってくるまで一緒にいます」

 

 ――そこは、きちんとしないと、私がいる意味が本当になくなっちゃうので。

 

 私は教会を見上げた。

 キアーラの白い石造り大聖堂とはぜんぜん違って、それなりに大きいけど普通の家みたいな教会だった。

 屋根には女神さまの像もなくて、何か変な模様の飾りがつけてあった。


「まぁいいけど……。……ただいま」


 ノアくんはがちゃりと扉を開けて、中に入った。


「ノアっ、こんなに暗くなるまでどこ行ってたんですかっ」


 中からいつも穏やかなテオドールさんの聞いたことがないような怒った声と、「おかえりー」「もうごはんたべたよ」「どこいってたのー」と一度にたくさんの子どもの声が飛び出してきた。


 「お邪魔します」と中に入ると、エプロン姿のテオドールさんと、何か色んな種類の耳やら尻尾やらが生えた、ノアくんよりかなり年下の子どもたちが4人ほど食器を持ってこちらを見た。


「あっ、レイラ? 今晩は。――どうしてノアと……」


 私に気づいたテオドールさんは、何かを察したらしくノアくんを睨んだ。


「ノア、またお母さんの仕事を邪魔しに行ったんですか?」


「邪魔じゃないし! 母さんが危ないかもしれないのに家でのんきにしてる、情けない父さんに俺が怒られる意味がわかんないし!」


 あぁまたノアくん、ばたばたし始めちゃった……。


 私は手を組んで、彼が落ち着くように祈った。


 ノアくんはふっと脱力すると黙り込んだ。


 それから、「腹減ったから帰ってきた」とぼんやりした顔で呟いた。


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