第34話(ステファン視点)
――レイラは、魔族の可能性がある。でも、だからといって、怖がる必要はない。
僕は心の中でうなずいた。
僕の実家は、精霊の力の影響が強い地域で、このあたりとは比べ物にならないくらい凶暴な魔物がよく出る場所だった。父親は国境を魔物から守る要職についていたから、幼い頃から魔物の恐ろしさを頭にたたき込まれてきた。そのせいか、魔族といえば、『昔々人を襲って食べていた怖い存在』というイメージが頭に刷り込まれていて、彼女が『もしかしたらそうかもしれない』と所長に言われてから、僕はちょっと気にしすぎていたかもしれない。
彼女が馬をじっと見ていた時は、もしかして食べたいとか思ってる? と勝手に思って、「馬は人の友達だよ」と恐る恐る説明してみたりしてしまった。
『仲間』とかなんとか口で言っておいて、勝手に怖がったりするのは、相手に失礼だよな。
レイラはミートソーススパゲッティを完食すると、いつものように幸せそうに「美味しかったぁ」とつぶやいてから僕を見た。
「お肉が入ったスパゲッティ、初めて食べたけど……何のお肉を使ってるのかな?」
「豚か牛の挽肉かなぁ……」
「たいてい、豚か牛か鶏なんですね」
彼女は感慨深そうに呟いた。
「他のお肉も食べてみたいなぁ……」
……。
勝手に、怖がったりするのは、よくない。
レイラは単純に、いろいろなものを食べてみたいだけなんだ。
うん。
僕は「今度、変わった肉が食べられる店も、連れて行ってあげるよ」と改めて笑顔を作った。
***
食事のあとは、手に入れた馬――チャイとクロを連れて街外れの空き地に行き、レイラに乗馬を教えた。
ライガはまた宿屋で寝てる。基本的にあいつは夜型なので、休日はたいてい日中寝ている。
「そうそう、良い感じだよ」
練習を始めてまだ数日だけど、レイラは鞍から落ちずに、ゆっくり馬を前進させて、止まらせて、曲がらせることができるようになっていた。筋がいい。
「ありがとうございます。ステファンの教え方が上手なので、うまくできました」
そう瞳を輝かせる姿に、僕は思わずじんとした。
馬の乗り方を同じように教えてやったのに、うまくできなくて『お兄様の教え方が下手なのよ!』と怒鳴ってきた実家の妹を思わず思い出す。あいつは元気でやっているだろうか。
――やっぱりこの子は、普通の、いい子だ。
一方で、たぶんレイラは僕を信用してくれているのに、勝手に内心、彼女を少し警戒している自分自身が嫌になった。考えていることが外から見てもわかりやすいライガと違って、裏表がある自分は嫌なやつだよなと思う。僕はライガからはよく『八方美人』と言われるけど、本当その通りで、表面を取り繕ってるだけで、内側は警戒心が強く、周りを疑って距離をおいている。
閉ざされた環境から飛び出して、外の世界を純粋に楽しんでいるレイラの姿は、そんな僕にはとても眩しく感じる。この子の信頼を裏切りたくはないと思う。
「街道を行くぶんには、それだけできれば十分」
「もっと早く走らせたりしてみたいな……」
「うーん、それはもっと広いところを見つけないとなあ」
街の中で馬を全力疾走させたら大変なことになる。
ははは、と笑ってから、僕は「そうだ」と手を叩いた。
「僕とライガは、明日朝からちょっと出て、1日留守にするよ」
毎日昼はレイラも一緒に食べているから、忘れず伝えておかないと。
明日はテムズさんが「取引相手と会う」と言っていた日だ。




